隠された存在「鼻くそ」にご注目

身体から出てくる、ちょっと不快な分泌物や老廃物。耳は耳あか、医学的には「耳垢(じこう)」、目は目やに、医学的には「眼脂(がんし)」など、しかるべき呼び名があるのに、鼻くそは鼻くそ。

「鼻垢(びこう)と呼ぶことにしよう」という意見は出ていても、広まらないという事実も興味深い。ちなみに、英語ではnasal dischargeとなり、日本語の「鼻くそ」にあたるboogerというアメリカのスラングもあります。

健康な人なら誰にもあるのに、「ないもの」「隠すべきもの」とされている鼻くそ。ここではそんな鼻くそに焦点を当て、正しい情報やケア方法を探ります。耳鼻咽喉科医でクリニック院長の木村至信氏(以下、キムシノ氏)が教えてくれました。

  • 鼻くその適切な取り方とは?

鼻くその科学と正しいケア

大々的に語られることがなく、さらに他人の鼻くそ事情も分からない以上、どんな状態が正常で、どんな状態が異常なのか判断できません。ましてや、正しい処理方法なんて。鼻くそについて、基本から教わります。

――先生、鼻くそってなんなんでしょう?

キムシノ氏 「まずは、鼻の構造から。鼻の入り口は鼻前庭(びぜんてい)と呼ばれ、鼻毛と脂肪成分を含んだ分泌物を出す皮脂腺があり、ホコリなどを防ぐフィルターの役目をしています。その入り口から後方は、粘膜で覆われた固有鼻腔(こゆうびくう)という空気の通り道で、鼻粘膜からの粘液で常に潤っています。この粘液に、吸い込んだホコリや皮脂腺からの分泌物などが混じって乾燥したものが、鼻くそとなります」。

――ホコリっぽいところにいると鼻くそがたまりやすいのは、そのせいですね。

キムシノ氏 「そうです。鼻の分泌物が増えることも、鼻くそがたまる原因となります。慢性副鼻腔炎(まんせいふくびくうえん)、いわゆる蓄膿症(ちくのうしょう)や、アレルギー性鼻炎などの鼻の病気があると、粘り気の高い粘液がたくさん分泌されるため、鼻くそはより一層たまりやすいですね」。

――聞いているだけで、鼻がムズムズしてきました。ところで、どのようにケアをするのが正しいのでしょうか。

キムシノ氏 「空気が通る固有鼻腔の粘膜表面の細胞には、線毛と呼ばれる細かな毛が生えています。鼻に入ったホコリや分泌物などは、鼻腔の後方へ運ばれ、鼻前庭と固有鼻腔との境界部分、つまり鼻の入り口すぐあたりに集まりやすく、鼻くそになります。

処理の方法は、鼻水が出る時に鼻息の勢いでティッシュに出すのが正解です。頻度はあまり多くない方がよく、1日2、3回ですね。すべて取れるまでやるべきというわけではありません。鼻の中に湿り気がある方がよいので、点鼻薬をしたあとや、お風呂上がりがよいでしょう」。

――まったく鼻くそ処理をしないと、どうなりますか?

キムシノ氏 「鼻くそが鼻の中で大きくなり、やがて鼻栓になってしまいます。気になって、取りすぎたり、無理やり指でほったりすると湿疹や傷ができ、そこから細菌が侵入する恐れもあります。ほどほどが肝心です」。

――鼻くそに鼻血が混じるのは、なぜでしょう?

キムシノ氏 「鼻の中が潤わず、鼻くそが下の粘膜にくっついている状態で無理やりはがすと、下の粘膜を傷つけてしまいます。このため、血混じりになっていることが多いです。指やティッシュで作ったこよりを突っ込むなども、鼻血などの原因になるのダメです」。

鼻くそに関するちょっと怖いホントの話

嫌われ者の鼻くそですが、「鼻の中に傷があるよー」「病気が隠れているかも」などといった健康管理に大事なサインが隠れていることも。時には、鼻くその状態をマジマジ観察するのもいいかもしれません。

キムシノ氏 「鼻くそをためたままだと、多くの細菌が増殖し、鼻毛の付け根部分の毛嚢(もうのう)や皮脂腺に感染が起こり、『鼻前庭湿疹』や『鼻せつ』という鼻のおできができることも。鼻くそから毛嚢炎、おできのようなものができる鼻(び)せつが悪化すると切開などが必要なこともあり、激痛となります。抗生剤を飲むことになるかもしれません。鼻くそがあまりにたまりやすいなら、原因となる鼻副鼻腔などの病気がないか、一度検査するといいでしょう」。

取材協力:木村至信(きむら・しのぶ)

横浜市の馬車道木村耳鼻咽喉科クリニック院長・産業医・医学博士。テレビやラジオのレギュラー番組を持つタレントでもあり、「木村至信BAND」でメジャーデビューする女医シンガーの一面も。