ABCテレビと言えば、『新婚さんいらっしゃい!』『探偵!ナイトスクープ』『大改造!!劇的ビフォーアフター』『ポツンと一軒家』といった代表番組が並ぶ。『シークレットゲームショー』はアメリカの大企業と開発した番組になるが、これまでの延長線上で作られたものでもある。

先の土井長Dと同じ所属で、共に番組化を進めていった桒山哲治プロデューサーが「ABCテレビは、関西ローカル局の中でも超ドバラエティをずっと作り続けているという自負がある。中でも、素人さん“いじり”にこだわっています。今回は世界の番組流通市場を心得ているアメリカのNBCUフォーマットからのオファーをもとに、お任せくださいと作ったもの。例えるなら、世界でめちゃくちゃロケットを売り上げているような大手企業から注文を受けて、大阪の町工場(=ABCテレビ)がめちゃくちゃ精密な世界一のネジ(=番組)を作りましたということ。笑いのネジ職人です我々は。だからこそ、ABCらしい緻密なバカバカしいバラエティを作ることができたと思っています」と説明する。

具体的に『シークレットゲームショー』では、秘密のミッションの内容とチャレンジャーの人選が全ての面白さを左右させると考えた。さらに、チャレンジャーの職場の上司をキーマンに据えている。人となりがみえる「人間ドラマ」を作り上げることで、笑いに深みが増すからだ。

■世界一のバラエティ番組を作るアイデアはまだある

一方で、なぜ今まで、世界ヒットを目指した番組づくりの機会がなかったのか。それは、土井長Dが「欧米が求めるのは短絡的な笑い。日本は複雑」と指摘する違いが関係しているように思える。

「欧米の場合は、変な格好をしているとか、コケるとか、ピエロのような存在の1人が単純な笑いを作り出すショーの構造が基本になっていると思います。それと比べて、日本はもっと複雑。ボケる人がいて、それを受けてツッコむ人がいる。それらを複合的に面白い1つの番組として作っていきます。そこに大きなギャップがあった。それをNBCUフォーマットは『クールだね、でも世界で売れるにはこうしたらいいんじゃないか』と、前向きに我々の提案を受け取ってくれました。もし、一方的にそんなボケやツッコミは海外ではウケないと押し潰されていたら、できなかったんじゃないかと思います」(土井長D)

つまり、NBCUフォーマットのスタッフと1年がかりで企画を詰めていく中で築かれた信頼関係が、最終的に実現に結びついたというわけだ。

その背景には、ABCテレビが世界でも勝負していくことに本気度を見せたことが大きい。「通常では通らない企画書でした。世界ヒットを目指すバラエティ番組を作ろうと、社内で大号令がかかったことで、美術的にも技術的にも大掛かりのロケ設定で予算をかけることができ、放送する枠も作られた企画でした」と桒山Pが明かす。

さらに、「日本のテレビ屋は海外セールスを前提に番組を作ってはいません。放送して、数字が取れたら、番組を続けることができることの繰り返し。それも大事なことですが、海外展開をメインに考えながら作った結果、モノづくりそのものに自信がつきました。評価もされて胸を張れる。まだまだアイデアは湧き出てきますよ」と付け加えた。

これに土井長Dも大きく頷きながら「アイデアのストックは有り余っています。世界一を獲らせてもらったからには勢いづけたい」と言い切った。

ABCテレビのバラエティ番組づくりのノウハウが詰まった『シークレットゲームショー』は現在、世界各国での現地版制作を目指し、NBCUフォーマットがセールス活動を行っている。日本だけでなく海外の視聴者も全く見たことがない斬新なリアリティショーとして注目されていきそうなだけに、今回の再放送と見逃し配信の機会は外せない。

  • 桒山哲治プロデューサー(左)と土井長慶宗ディレクター

●桒山哲治
1982年生まれ、奈良県出身。大阪大学卒業後、05年に朝日放送入社。スポーツ部でプロ野球中継やニュース作成、『虎バン』『熱闘甲子園』などの番組を担当し、08年にテレビ制作部へ異動。『今ちゃんの「実は…」』『松本家の休日』などを担当し、現在は『ポツンと一軒家』チーフプロデューサー、『M-1グランプリ』プロデューサーを務める。

●土井長慶宗
1987年生まれ、兵庫県出身。神戸大学卒業後、10年に朝日放送入社。営業部を経て制作部に異動し、『ごきげん!ブランニュ』『ハッキリ5 そんなに好かれていない5人が世界を救う』『やすとものいたって真剣です』『本日はダイアンなり!』『M-1グランプリアナザーストーリー』『M-1グランプリ』などを担当する。