新たな生活スタイルが浸透しつつある2021年、住まいの選び方はどのように変化しているのでしょうか? 不動産情報サイト『SUUMO』編集長の池本洋一氏にお話を伺いました。

  • 『SUUMO』編集長が注目する街は?

新時代の住まいは「都市と自然のあいだ」

──前回、コロナ禍によって「郊外の魅力」が見直されていることをお話しいただきました。2021年の注目株は「所沢」ということでしたが、この他に、ニューノーマル時代の住まい選びについて、ポイントがありましたら教えて下さい。

着目点は「都市と自然のあいだ」です。今、キャンプをはじめとする屋外レジャーの需要が急激に伸びているのですが、都市圏の周辺部で栄えている街なら、すぐに自然へとアクセスすることができます。

所沢の場合、ちょっと足を伸ばすだけで飯能・日高・秩父などで、登山や川遊び、バーベキュー、キャンプなどを楽しむことができます。近頃は「グランピング」も人気ですね。テントがあらかじめ設営されている上に、敷地内に温泉があったり、アウトドア料理のケータリングサービスがあったりと、ラグジュアリーな自然体験ができるようになっています。

  • 「都市と自然のあいだ」がポイントだと話す『SUUMO』編集長の池本洋一氏

──アウトドア初心者であっても、気軽に楽しめるのがグランピング人気の秘訣なのでしょうね。

「自然を生かして施設を作る」は面白い動きかもしれません。とくに飯能は北欧をテーマにした施設を次々とオープンしています。大自然の中でサウナに入ったり、ムーミン谷モチーフの公園を散歩したり、湖を眺めながら北欧料理を味わったりできるようになりました。

──なんだか、所沢に住みたくなってきました(笑)。

所沢の宣伝ばかりしているようですが、去年、私がイチ押ししていたのは「立川」でした。こちらも、発展した街でありながら、高尾山や相模湖といった自然にすぐアクセスできるエリアです。この他、東京都町田市や千葉県柏市など、「国道16号沿い」にはそんな街が多くあります。

  • 東京湾をふちどるような環状道路「国道16号」 提供:Google

ちなみに、「都市と自然を結ぶ」ことは大手私鉄のフィロソフィーでもありました。小田急線ならば新宿-箱根、東武鉄道ならば浅草-日光と、平日は都内、週末は郊外に人を運ぶことを鉄道戦略としていたのです。「乗り鉄」の私には、こうした動きの再燃は喜ばしいですね(笑)。

「辻堂」エリアが人気急上昇

──これまで埼玉が中心でしたが、神奈川県内には気になるエリアはありますか?

神奈川はすごく多様な地域なので悩むところですが、一つ挙げるとしたら「辻堂」だと思います。『SUUMO住みたい街ランキング2021 関東版』で50位に入ったのですが、昨年からの順位上昇ではナンバーワンの街でした。

──辻堂は、あまり知名度があるエリアではなかったように思います。ここにきてランキングが急上昇したのは、なぜなのでしょう?

理由の一つとしては、やはりコロナ禍の影響で自然の多いエリアが人気になったことにあると考えています。辻堂駅は南にしばらく歩くと、湘南の海が広がっています。強い閉塞感のある昨今においては、こうした開放感が魅力的なのでしょう。

さらに辻堂は、駅周辺ですべての用事が済む「駅前ワンストップサービス」が実現しています。ショッピングモールと駅が直結しているだけでなく、次世代型教育施設「ココテラス湘南」がオープンしました。

ここは、保育園や音楽教室、英語学校、ロボット教室といった子ども向けの習い事がひとまとめになった場所です。遊びも買い物も行政サービスも習い事も、1回のお出かけで全部済むのが辻堂なのです。

──駅前再開発が進んだことが、効率的な住みやすさにつながったのでしょうか。

歴史的に見ると、辻堂駅は地元住民の全額負担によって1916年(大正5年)に誕生した、全国でも数少ない「請願駅」です。駅ができたことによって開発が進み、大きな製鉄会社も進出しました。2000年代に入り、この工場が空いたことによって、広い敷地をうまく利用できるようになったのです。

もちろん、再開発エリアから少し歩けば、湘南カルチャーどっぷりのローカルなお店もあちこちにあります。都心へのアクセスが良好ながら自然もあり、家賃相場は相対的に安く、子育て支援が充実している。そんな辻堂は、特にファミリー層に注目のエリアだと思います。

取材協力:池本洋一

不動産・住宅情報サイト『SUUMO』編集長
1995年リクルート入社。住宅領域で編集職・営業職として従事し、2006年に首都圏 『新築マンション』 フリーペーパー地域版の創刊リーダーを務めた後、『住宅情報都心に住む』、『住宅情報タウンズ』 の編集長に就任後、2011年から現職。