多くの視聴者の涙を絞った『北の国から』には、それぞれに思い出の“泣けるシーン”が存在するだろう。杉田監督自身、演出する中で感動してしまうことはなかったのだろうか。
「それはありますね。自分で泣けるっていうのもあるし、自分は泣かなくてもスタッフが泣いていると、このシーンは『まあいけたんじゃないかな』とかって思ってました。特に観客として見ているのは女性の方が多いので、女性スタッフのリアクションを見ていました」
そして、自身が“泣けた”思い出のシーンは……
「(『’89帰郷』)で、純と邦さんが風呂に入って、純が東京でケンカして事件起こしたってボロ泣きするシーンがあるんです。あそこは純の表情を撮っていて泣けちゃいましたね」
そのシーンでは、純が東京での出来事を次々と告白していくのだが、五郎がそれを父として大きく受け止め、純の将来、未来へと思いを馳せながら語っていく展開は、涙と笑顔に包まれる名場面。また、その先の純の未来を知った上で見ると、さらに違う涙が出て来てしまう…というかなり重層的で味わい深い場面に仕上がっている。必見だ。
■今の時代に「一本芯の通った作品」が合う
最後に、杉田監督が『北の国から』を“今”見ることで感じた思いを教えてくれた。
「何となくこの間(『’87初恋』を)見たとき思ったのが、あのときもそうではあったんだけど、コロナになって世界が非常に不安定に揺れ動いている中、『北の国から』みたいな一本芯の通った作品が、逆に今の時代に合ってきてるなってすごく感じましたね。それはやっぱり経済やテクノロジーばかりがどんどん進化して、ちょっと飽和状態になってる中で、コロナは“神の鉄槌”じゃないけれども、『それでいいのかよ』っていう生態系からのブレーキみたいな感じがする。コロナは根絶できないし、共存するしかないので、『北の国から』のように、人間の弱さも含めて、こんな時代だからこそ『あぁ、こういう人間関係だといいな』って、今回改めてそう思えたんです。学生から未就学児まで僕の4人の子供たちにも見せたんですけど、見終わった後、誰もしゃべらなくなりました。だから、どんな世代でもやっぱり何か渡されるものがあるんだなって。こういうものは時々見た方がいいねっていう感じがしましたね」
<日本映画専門チャンネルでは、5月8日・9日に『北の国から』<デジタルリマスター版>スペシャル版全8作品(『’83冬』『’84夏』『’87初恋』『’89帰郷』『’92巣立ち 前・後編』『’95秘密』『’98時代 前・後編』『2002遺言 前・後編』)を一挙放送。連日12時にスタートする。>
●杉田 成道(すぎた しげみち)
1943年生まれ、愛知県豊橋市出身。慶應義塾大学卒業後、67年にフジテレビジョン入社。73年に『肝っ玉捕物帖』で演出家デビュー。81年から22年間続いた不朽の名作『北の国から』を演出し、同作は02年に第50回菊池寛賞を受賞。また、『失われた時の流れを』(90年)で第27回ギャラクシー大賞、『1970 ぼくたちの青春』(91年)で第18回放送文化基金番組賞、『町』(98年)で第52回芸術祭大賞、『少年H』で第54回芸術祭優秀賞を受賞。個人では92年に芸術選奨文部大臣新人賞、01年に放送文化基金放送文化を受賞。
そのほか主な演出に、連続ドラマ『ライスカレー』(86年)、『若者たち2014』(14年)、スペシャルドラマ『海峡を渡るバイオリン』(04年)、『死亡推定時刻』(06年)、『駅路』(09年)、舞台『陽だまりの樹』(92・95・98年)、『幕末純情伝』(03年、11年に再演)、映画『優駿 ORACION』(88年)、『ラストソング』(94年)、『最後の忠臣蔵』(10年) など、アニメ『ジョバンニの島』(14年)では原作脚本を手がける。10年には著書『願わくは、鳩のごとくに』を出版、12年にはAKB48 25thシングル「GIVE ME FIVE!」のミュージックビデオを演出した。時代劇専門チャンネルでは、『果し合い』(15年)、『小さな橋で』(17年)、『帰郷』(19年)を演出。
現在、フジテレビ編成制作局エグゼクティブ・ディレクター、日本映画放送代表取締役社長を務める。