コロナ禍を経て、コミュニケーションのあり方が大きく変わろうとしている。さまざまなソリューションが登場するなか、これらをどのように使い、どういったマインドで運用すべきなのか。IT全盛の時代に求められるコミュニケーションについて、有識者に伺っていきたい。

今回は、元日本マイクロソフト 業務執行役員であり、現在はクロスリバーの代表取締役CEOとして働き方改革のコンサルティングを行っている越川慎司氏にインタビューを行った。「AI分析でわかった トップ5%社員の習慣」などの著書でも知られ、多くの企業のテレワークを見てきた同氏に、社内コミュニケーションを円滑にする方法を聞いてみたい。

■【前編はこちら】越川氏の考える、ポストコロナの生き抜き方

  • クロスリバー 代表取締役CEO 越川慎司氏

会議時間を短縮し余裕を作ろう

企業の働き方改革を支援しているクロスリバーは、テレワークの負担を軽減するためにさまざまな取り組みを行っている。クライアント企業を対象とした調査もその一環だ。

例えば、16万人のテレワークの働き方を調査したところ、働く時間の43%が社内会議に、14%が資料作成に費やされていることがわかったという。越川氏は「これらがテレワークにおけるダイエットのポイント」と話す。

「テレワークにより、労働時間は14%ほど増えてしまっています。無駄なことをやめて必要なことだけをするという方式にしていかないと、時間はいくらあっても足りません。社内会議では、前回お話しした冒頭2分間の雑談が効果があることがわかっていますし、そのほかにも行動実験のネタがたくさんあることがわかりました」

例えば、会議時間について。日本企業の94%は、会議時間の初期設定を1時間にしているという。そして、この1時間をきっちりと使おうとしてしまう。これに疑問を感じた越川氏は、最適な会議時間を探るための調査を行った。結果として、うまくいきやすい会議の時間は、25分、45分であることがわかったという。

「1時間の会議は、アジェンダが出ていれば45分で終わります。すると15分の空き時間ができるので、気持ちの余裕を持って次の会議に臨むことができます。60分が45分になるだけで社内会議が25%減るので、生産性も上がります。また、30分の会議は直後の30分に別の会議を入れられてしまうので、25分の会議にすることで余裕を持つ時間が作れます」

では60分の会議を45分で終わらせるためにはどうしたら良いだろうか。越川氏は「会議ファシリテーション能力の向上」を挙げる。

「会議ファシリテーションに関する本を読むだけでもかなりのことが学べるでしょう。最近はファシリテーションを社内資格にし、表彰する企業も出てきています。まずは1チーム1名、ファシリテーターを育成するところから始めると良いと思います」

プレゼン資料はシンプルな方が相手を動かしやすい

続いて越川氏は「僕はもともと、日本マイクロソフトでPowerPoint事業の責任者を務めていたため、責任を感じている部分もあるのですが……」と前置きしつつ、資料作成のダイエットのポイントについて話す。

「テレワークでは派手なPowerPoint資料を作りがちですが、勇気を持ってこれをやめることです。時間をかけて作り込むことが成果につながるかというと、決してそうではありません。むしろシンプルなほうが相手を動かしやすいことがわかっています」

枚数に関しては、プレゼンの持ち時間に対して0.75枚が最適な数で、例えば20分であれば15枚が適量だという。また経営会議では半分以上の資料が使われない場合もあるため、テンプレートを揃え、効率的な資料作成が重要だと話す。

「大手自動車会社では、いわゆる"ペラ1"と呼ばれるA3もしくはA4一枚のテンプレートで資料を作ることが求められています。また色は3色以内にする、1スライドあたり105文字以下で作成するなど、テンプレートを揃えることで、提案の成功率を25%高めたという事例もありました」

企業は感情共有の仕組み作りを

ここからは、テレワークにおいて社内のコミュニケーションを円滑にする具体的な方法について聞いていきたい。

「まず、時代が変わったからといってコミュニケーションを増やす必要はまったくありません。ビジネスを成立させるために必要だったらやってください、というのが本質です。コミュニケーションを増やすことが目的となっている企業が多く、オンライン飲み会などにドン引きしている方も多いと思います」

現代では顧客の抱える課題が複雑化し、一人で問題解決することは極めて難しくなっている。ポストコロナではこの状況が加速するため、ビジネスを成立させるためには1+1を3にするようなチームワークが重要になってくるという。

越川氏は「これからは共感の時代になる」と持論を述べる。そのために最低限必要となるのがコミュニケーションだ。相手の感情や価値観がわからなければ腹を割って話すこと、言い換えれば心理的安全性を確保して話すことができない。企業は感情共有の仕組みを作っていかないと、1+1を3にすることが難しくなっていく。

「心理的安全性を確保するためには、管理職やシニアこそ積極的に感情共有をしたほうが良いでしょう。とくにテレワークでは感情がわかりにくくなりますから、普段の倍くらい大げさに表情を作ったり、マスクをしていたら大きくうなずいたりといったアクションも有用です。他にも、アプリに搭載されている『いいね』『すてきだね』といった機能も積極的に活用してください。空気も読めないので『あれ』『これ』『それ』などの指示名詞も禁止しましょう」

そして「会議で良い意見を言う人がいたら次の言葉をチャットで入力してほしい」と勧める。それは「8888」(パチパチパチパチ/拍手)だ。最初に発言した人に対して行うと、とくに会議を円滑にする効果があるという。加えて、管理職に向けて次のようにアドバイスする。

「"上司にどう声をかけられたらモチベーションが下がるか"を聞いたところ、ダントツ1位は『最近どう?』でした。理由は2つあって『何を聞かれているかわからないから、答え方がわからない』『適当に声がけしている、自分に興味関心を持っていないと感じる』からだそうです。例えば『僕は週末サッカーを見に行ったけど、君は何してた?』といったように、自己開示してから具体的に聞く方が良いでしょう」

逆にコミュニケーションがうまくいき、成果を出しているチームは、上司に「いまちょっといいですか?」と声をかけられる環境ができているそうだ。これは、部下の心理的安全性が確保されているためで、上司の精神と時間に余裕があるからできることだという。

デジタル空間で偶然の出会いを自分から見つける

越川氏は最後に、コロナ禍に直面した20代の若手ビジネスパーソンの現状を踏まえ、次のようにメッセージを贈る。

「キャリアは自分で築いていくものだけではなくて、多くは偶然の出会いで決まります。しかし、テレワークが増えたことで、廊下で別部署の方と触れあって生まれるような偶然の出会いが無くなってしまいました。20代の方はいま非常に苦労されていると思います。だからこそ、偶然の出会いに触れられるように、自らデジタル空間を歩き続けることが必要です。出会いを探すために、デジタル空間の中をさまよってほしいですね」

■【前編はこちら】越川氏の考える、ポストコロナの生き抜き方