■鈴鹿央士・阿部純子との映画トーク
田代が教育係を務める新人配達員・栗本翔吾を演じる鈴鹿央士は、現在21歳。小堺とは44歳差だ。「心を開かない若者の役なんですけど、すごくキラキラしていて、不器用な若者を自然にやってくれた。彼とのシーン、とても好きなんです」とニッコリ。鈴鹿、そして牛乳配達店の看板娘・纏あかねを演じる阿部純子とは、撮影の合間に趣味の話も。「お2人とも映画がお好きだったので、最近見た映画の話をしました。撮休の前の日に『あの映画見た?』って言ったら、次に会ったときに『見て来ました』って言ってくれて。非常に反応が早い共演者の皆さんで!」と笑顔を見せた。
一方、鈴鹿の年齢だった頃の小堺はというと、慣れないドラマで10何回NGを出したこともあったという。「『おい、今日終わんねーのかよぉ! なんなんだこいつよぉ!』っていろんな人に言われて、余計にあわわわわってなっちゃって。最後には棒読みになって、放送見たらカットになってた(笑)」と、新人時代を振り返る小堺。「あのときの僕みたいになっちゃう人、1人もいないんですよね。それに、昔はドラマだとリハーサルが2日ぐらいあったけど、今はほとんどが現場でテストして、すぐ本番。大変なことなのに、皆さん非常に軽々とおやりになる」と感嘆し、「僕は、マネージャーさんに台本持っててもらって、見えないところでもう1回見せてもらって……ってしてるんですけど、他の人を見たら誰も見てない。頭いいなと思ってます(笑)」と若いキャストにも深く敬意を払う。
■親から教えられた、転校生としての振る舞い
そして何より、場の空気作りはお手の物。「病院でのシーンで『目覚めたみたいだな』っていう台詞があったんですけど、監督が『タツさんはこんな文語体みたいなことは言わない』ってことで『湯川さん大丈夫?』に変えたんですね。僕はつい余計なことをしたくなるので(笑)、田村正和さんなら『目覚めたみたいだな』って言っても似合いますよね、平泉成さんなら……ってモノマネをして見せて。みんな笑ってくれたから、和んでくれたかなと」小堺ならではの“座長”ぶりが垣間見えるエピソードだ。
その背景には、転校を繰り返していた頃の親の言葉がある。「『お前は勉強ができるわけじゃないし、かっこいい!って言われるタイプでもないけど、唯一面白いことが言える。転校生だけど、そうやって馴染んで行け』って言われたことがあって、本当にその通りで。今回も、笑ってもらって雰囲気を作れたことがうれしかったです」
■忘れられない母親のエピソード「優しい世界であったら」
また、物語の時代に合った“リアルさ”も評価している。「『そういう人情ごっこやめてください』ってタツさんが言われたりしていて、バランスが取れている。タツさんは、こういうご時世、決して全員が賛成する人ではないかもしれないけど、どこかで『こういう人、いいな』って思ってもらえたら」
一方、小堺自身は、今この時代をどう感じているのか。
「今伝えたいのは『SNSがすべてだと思わないでほしい』ということですかね。日本で一番大きなムーブメントに見えるけど実はそうじゃない、サイレントマジョリティだっているわけで。なぜそう言いたいかというと、“字”で見ることで、インパクトが大きくなってしまうことがあると思うんです」
そう感じているのは、アメリカの劇作家であるニール・サイモンのエピソードが記憶にあるからだ。「兵隊の頃、日記を書いていて、現実だけだとつまんないからちょっとずつ脚色して書いていたらしいんですけど、盗み読みした友達が、脚色されたほうを正しいことだと思っちゃったって。『字って怖い』って台詞があったんだよね。この頃、それを強く感じます。たとえば『●●ってダメだよね』って、大声で怒鳴ってるのか、小声でヒソヒソと話してるのか、声だと伝わるものはあるけど、字だと分からないから」
最後に、小堺は心温まるエピソードを明かしてくれた。「母親が若い頃の話なんですけど、吊り革を持って電車に立っていたら、大きな揺れで体が倒れて、座ってたおじさんの膝の上に座っちゃったらしいんですよ。今だったら『なんだよ、失礼だな』っていう反応がほとんどかもしれないけど、そのおじさんは『ごゆっくり』って言ったんだって。車両中がとてもいい感じになったと。僕その話が大好きで、素敵な大人だなって思ったんですね。『ごゆっくり』って自然と言えて、そんな言葉が受け入れられる優しい世界であったらいいですよね」
1956年生まれ、千葉県出身。大学在学中にバラエティ番組『ぎんざNOW!』の「素人コメディアン道場」で第17代チャンピオンとなり、芸能界入り。勝新太郎が主宰する「勝アカデミー」第1期生として入校、後に浅井企画へ。84年に『ライオンのいただきます』の司会に抜擢され、後継番組『ライオンのごきげんよう』を含め、2016年まで“お昼の顔”を務める。モノマネ芸を得意とし、バラエティ番組で活躍する一方、NHK大河ドラマ『八重の桜』(13年)など、役者として、ドラマ・舞台・ミュージカルにも多数出演。