中島敦、芥川龍之介、太宰治、といった文豪の名を懐くキャラクターが異能力を用いて戦う、朝霧カフカ(原作)・春河35(漫画)による人気漫画『文豪ストレイドッグス』。アニメ、ゲーム、小説など幅広く展開し、舞台『文豪ストレイドッグス』も"文ステ"の愛称で親しまれている。2017 年12月に、TV アニメ第1シーズンをもとに上演して以来、『文豪ストレイドッグス 黒の時代』(2018年9〜10月)、『文豪ストレイドッグス 三社鼎立』(2019年6〜7月)、『文豪ストレイドッグス 序 探偵社設立秘話・太宰治の入社試験』(2020年9月)と、それぞれ様々なキャラクターと時代にスポットを当てた公演が行われ、この度は5作品目の舞台『文豪ストレイドッグス DEAD APPLE』(4月16日〜18日:大阪・COOL JAPAN PARK OSAKA WW ホール、4月23日〜5月5日:東京・日本青年館ホール)が上演される。
今回は、舞台化シリーズ開始から主人公・中島敦を演じてきた鳥越裕貴にインタビュー。2018年3 月に映画としてヒットした作品を舞台化するにあたり、原作者の朝霧カフカが脚本を務めたことでも注目となっている同作について、話を聞いた。
■キャラの掘り下げにも関わってくる舞台に
——今回、朝霧カフカ先生が脚本を手がけられるということで、ずっと関わっている鳥越さんはどういう風に感じていますか?
こんなことは2度とないんじゃないかなというくらい貴重な機会です。原作の先生が舞台のために脚本を書いてくれるなんて、なかなか聞いたことがないですし、これはぜひ原作の『文スト』ファンの方にも見ていただきたいなと思います。カフカ先生の脚本で、個々のキャラクターの奥行きが増したという点は感じました。あとは、カフカ先生の言葉は身に染みるというか、希望に満ちあふれてると感じるんです。どれだけダークなセリフであっても、どこか希望に満ちているので、今のような、気持ちが落ちている時代にこそ観てほしいです。
——漫画やアニメのファンの方に向けてアピールするところはありますか?
映画の『DEAD APPLE』では見えなかった面を見ることが出来ますし、それがなんとカフカ先生の言葉で表現されている。キャラの掘り下げにも関わってくると思うので、配信などでもぜひ見ていただけたら嬉しいです。
——カフカ先生と直接お会いする機会もあるんでしょうか?
けっこうあります。最近は皆で食事に行くこと自体が難しいですが、今までだったら懇親会にも来てくださっていたし、先日なんかKADOKAWAの本社で僕が取材を受けてるのを見に来てましたからね(笑)。そんな緊張することはないから、こっちは「やめてください」と言いながら、カフカ先生自身も歩み寄ってくれてるのが、嬉しくて。コロナ禍の前は食事に行く機会もあり、カフカ先生の前でプロデューサーも交え、「ヒロインは鏡花や」「いや、モンゴメリだ」みたいな熱い話をしていた自分を恥ずかしく思いました(笑)。
——今回は新しいキャストも入って来て、雰囲気は変わりましたか?
少人数ですし、大概が顔見知りなので、いちいちわちゃわちゃする必要はないかなと思い、まったりしています。でもそれを見た振付のスズキ拓朗さんが「あれ、鳥ちゃん元気ない」と言っていたらしく、「そんな感じで見えてるんや」という発見でした(笑)。前回はキャストが30人もいたから、自分がわちゃわちゃせなと思ったし、コロナもなかったのでいろいろできたんですけど、今は落ち着いてます。
——そこは自分が率先して…という意識はあるんですか?
先陣を切って楽しまない限り、やっぱり伝わらないと思っていて。役者が楽しんでいないと、作品も楽しくならない。無理なくですけど、率先して「演劇を楽しんでます」ということを見せるようにしていました。
——特に新しいメンバーについて、印象的だったことなどはありますか?
稽古では、フョードル・D役の岸本勇太が、(村田)充さんとかと稽古場でやり合ってるのを見て、「よくすんなりと立ち向かえるな」と感心しています。肝が座ってますよね。(田淵)累生は別作品があって稽古に来れていないんですけど(取材は3月下旬)、連絡は取っているので「もう通し稽古だぞ」と教えたら、彼自身も「セリフは入れました!」と言っていて、いいプレッシャーはありつつ彼なりにのびのびやるんじゃないかと。
■ファンの考えが深い
——鳥越さんはYouTubeの番組『ぼくたちのあそびば』で「2.5次元あるある」の企画をされていたりもされますが、2.5次元作品の面白さって、改めてどのようなところにあると思いますか?
最初は「2.5次元」という言葉にもひっかかりはあったんです。僕らは通常の舞台をやっているのに枠にとらわれるようで、「何の舞台だって変わらない」と、まあまあ尖っていました(笑)。でも、それまで舞台を観たことがなかったというアニメや漫画のファンの方が劇場に来てくれた時に、「演劇の面白さを広められる機会でもあるんだ」と思うようになりました。逆に僕自身も(舞台を観て)原作のファンになったりもしているので、架け橋にもなるんだな、と。
役者としても、原作をリスペクトして「この絵が欲しいからこの動きをしたい」とか、「でもここは舞台だからこう表現をしよう」とか、演劇を表現することに対しての楽しみが増えましたし、それも面白さなのかなと思います。
——ファンの方も「ここは原作でこう描かれてるから、舞台でこう表現されてるんじゃないか」といろいろ考察をされたりもしていますよね。
2.5次元作品のファンの方も、原作ファンの方も、考えが深いですよね。だからより演劇を好きになったり面白がれたり、豊かになる気がしていて。どんな舞台でも「これはこうやったな」という観劇終わりの感想戦が1番楽しかったりもするので、そういう楽しみを知っていただけたら嬉しいです。
——ちなみに、鳥越さんの思う“『文ステ』あるある”はありますか?
絶対に、5日以内に通す。大体、台本持たずに通す。今回も4日目くらいで覚えたりしたんですけど、こんな現場なかなかないです。初演の時には「早いなあ」と思うくらいだったんですが、その次の『黒の時代』で谷口賢志さんが「おい鳥、あの現場どうなってるんだ! 台本もらって2日で通すとは!」と言っていたので、「やっぱおかしいよな、この現場」と(笑)。でも、それでも皆覚えて来るから、プロ根性に溢れていてすごく好きです。
——何か理由はあるんでしょうか?
中屋敷さんの中ではあると思いますけど、推測すると、枠組みを見たいということなのかな。役者としても1回通した方が流れもつかみやすいので、助かる面もあるんですけど、まあ「早すぎか!」とは思ってます(笑)。でも、間に合わせる根性が出るのも『文ステ』の魅力で、やっぱり役者ってMな方が多いから、どんどん責められると、燃える部分がある。そういうポイントが多い舞台だと思います。
■鳥越裕貴
1991年3月31日生まれ、大阪府出身。2010年に舞台『イナズマイレブン』で初舞台。その後様々な作品で活躍する。主な出演作にドラマ『寝ないの?小山内三兄弟』(19年)、『ただいま!小山内三兄弟』(20年)、舞台『弱虫ペダル』シリーズ(12年〜15年)、『SHOW BY ROCK!! MUSICAL』シリーズ(16年〜18年)、ミュージカル『刀剣乱舞』シリーズ(16年〜)、舞台『文豪ストレイドッグス』シリーズ(17年〜)、『改竄・熱海殺人事件 モンテカルロ・イリュージョン』(20年)など。高橋健介・ゆうたろう・井阪郁巳とともにYouTube番組『ぼくたちのあそびば』(毎週月・金 20:00配信)を配信している。
ヘアメイク:古橋香奈子