大河ドラマ『青天を衝け』(NHK総合 毎週日曜20:00~ほか)第6回「栄一、胸騒ぎ」(脚本:大森美香 演出:黒崎博)では“攘夷”の気運とあいまって武芸が盛んになってきた時流に栄一(吉沢亮)も飲み込まれていく。武芸に燃える心と千代(橋本愛)への恋心を重ね、身も心も成長中の栄一とその仲間たちは青春そのもの。徳川サイドから見ると非常にドロドロしているのだが、栄一サイドから見ると、血洗島の青々した畑のように夢と希望に満ち溢れた爽やかな世界に見える。栄一と慶喜(草なぎ剛)の運命の出会いも描かれた。
徳川家康(北大路欣也)は息子・頼房を紹介。頼房の息子が『水戸黄門』で有名な光圀。彼の尊王の思想(天皇に尽くす)を世に伝えたのが藤田東湖(渡辺いっけい)で、安政の大地震で彼が亡くなったことで時代が大きく変わっていく。尾高惇忠(田辺誠一)や長七郎(満島真之介)は藤田東湖の死を悼み、これからの社会を心配して涙する。そこまで深くわかっていない栄一と喜作(高良健吾)は、自分たちの時代が来たような気分で意気盛ん。剣術の稽古に励む。
そんな栄一に千代が「じつの戦はいかなるところではじまるかしれぬ。天を仰ぎ地の理を知れ。どんな不利な足場であろうと剣を繰り出す。それが出来ねば死ぬ」と兄たちが常に言っている心構えを伝える。「死ぬ!?」 剣術の本質――死が常にそばにあることをまだ理解できていない栄一。「男たちは戦が好きだねえ」と女たちは距離をとって見守っている。
徳川サイドは、開国か攘夷か、方針で揉めている。誰が将軍になるかでも状況は変わってくるので、派閥争いが起こっている。そんなとき、慶喜が嫁をめとることになった。お相手が公家のお姫様・美賀君(川栄李奈)。
次期将軍の期待のかかるひとりながら、自分は徳川の飾り物だと引いている慶喜を、円四郎(堤真一)は「もぐら」といってからかう。能力があるのに隠れている意味だろう。 13代将軍・家定(渡辺大知)のもとにも篤君のちの天璋院(上白石萌音)が跡継ぎを生む使命を帯びて嫁いでくる。家定は体が弱く、あきらかに頼りない雰囲気。大河ドラマ『篤姫』では、堺雅人演じる家定が権力争いから身を守るためうつけの振りをして実は聡明で、それが面白さだったが、今回の家定はどうだろう。『青天を衝け』では慶喜が能力を隠して嵐が通り過ぎるのを待っているような印象を受ける。権力の上に立つのはなにかと厄介。出過ぎない配慮が必要なのである。
篤君はしっかり者な雰囲気で今後の活躍が楽しみ。美賀君は慶喜に相手にされず、それは徳信院(美村里江)のせいではないかと嫉妬心を燃やし暴れまわる。「殿の汚らわしい恋心」と指摘したり、感情が昂ぶって慶喜に斬りつけたりとなんだか危うく、第5回のなか(村川絵梨)の憑き物騒動よりもやばく見える。
男たちが日本の未来を考えているとき、跡継ぎを生む嫁の存在も重要で、徳川家ではこのように嫁取りが行われ、血洗島でも、男たちの高ぶる野心のひとつに、村一番の美人・千代の心を誰か奪うかで一騒動。部活と恋を描いた青春ドラマの様相を呈していく。