「プロスペクト理論」とは、マーケティングや販売を行ううえで重要な、消費者心理の意思決定モデルを表した理論です。プロスペクト理論は日常生活の中でも多く活用されている理論であるため、正しい意味を知ることで知識の幅が広がります。

本記事ではプロスペクト理論の意味や活用法を、具体的な応用事例を交えて解説します。正しく理解して、効果的な広告やキャンペーンなどのビジネスシーンで活かしていきましょう。

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    「プロスペクト理論」を正しく理解していきましょう

プロスペクト理論の意味

プロスペクト理論とは、不確実な状況下で意思決定を行う際に、事実と異なる認識の歪みが作用するという意思決定モデルを表した理論です。意思決定には客観的事実のみでなく置かれた状況も作用するため、ある種の感情などが「ゆがみ」をもたらした結果、合理的な意思決定がなされないことを意味しています。

この考えをわかりやすく表した例として、宝くじがあげられます。宝くじで1等や2等を当て、大金を手に入れる確率は限りなくゼロに近いです。そのことがわかっており、普段は宝くじを購入しない人たちも、例えば「月末で懐具合が寂しい」「家族が緊急入院し、予期せぬタイミングでまとまったお金が必要となった」といった状況に置かれてしまったら、これまで手を伸ばしてこなかった宝くじに手を伸ばしてしまうかもしれません。

プロスペクト理論は「行動経済学の基礎」とも言われており、マーケティング業務や営業活動にも応用可能です。

プロスペクト理論の内容

プロスペクト理論は「価値関数」と「確率加重関数」から成り立ちます。どちらもマーケティングの手法を学ぶにあたって、消費者心理を把握・誘導するための重要な指標です。

ここからは、それぞれの数値の意味について解説していきます。

■確率加重関数

確率加重関数とは客観的確率が低いときには過大評価をし、客観的確率が高いときには過小評価するという傾向のことです。

先の宝くじの例でみると、高額当選する確率はかなり低いですが、「もしかしたら1等が当たるかもしれない」と過度の期待(過大評価)をする傾向にあります。一方で、自身の生命に関わるような手術では「60%の確率で成功します」と言われても、「万が一失敗されたらどうしよう」と確率を過小評価して不安に感じてしまう人もいるでしょう。

このように、人間は客観的な確率の通りに受けとめられず、状況や希望的観測よって認識に差が生まれることがあるのです。

■価値関数

価値観数とは、人間が感じる価値と客観的な価値の間には差があるという傾向のことです。

この傾向には損失回避性が大きく影響します。損失回避性とは、損をすることに対して過剰に恐怖を覚える性質のことで、同じ金額であれば、利益を得る喜びよりも損をする苦痛の方が大きく感じられます。

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    プロスペクト理論の内容を把握しましょう

プロスペクト理論の特徴

プロスペクト理論の特徴を簡単にご紹介します。客観的事実よりも主観的な感覚が優先されてしまう心理を表したプロスペクト理論を学べば、商品やサービスをより魅力的に見せられたり、購入意欲をかき立てるプロモーションを作成するヒントが得られたりします。

金額が大きいほど価値が小さく感じてしまう

プロスペクト理論の柱のひとつである価値観数のグラフはS字曲線を描いています。損得ともに金額が大きくなるほど、価値を感じにくくなる傾向にあります。

具体的には、同じ2万円の差額でも、「99万円~101万円」よりも「9万円~11万円」の方を重要視してしまいやすいということです。これは損得関係なく、同様の傾向が見られます。

損を避けることを優先する傾向がある

例えば、投資をして利益が出ているとします。利益が出て嬉しいと感じると同時に、先行きがわからず暴落して損をしたらどうしようと考える人もいます。

そんなときは「まだ利益が上がるかもしれない」という気持ちよりも、「損をしたくない」という気持ちの方が勝るため、損失回避性の強い人は売却して利益を安定させようとします。人間は得をするよりも、損を避けることを優先する傾向があるためです。

確率の認識は正しいとは限らない

プロスペクト理論の柱のひとつである確率荷重関数のグラフを参照すると、主観的確率は直線を描かず、小さい確率ほど過大評価し、大きい確率ほど過小評価していることがわかります。

人間は客観的な確率の通りに物事を受けとめません。販売においても数字の伝え方を工夫すれば、消費者心理に働きかけることが可能なのです。

有利なときは安定志向で不利なときはリスク志向になる

FXなどの投資活動では、なるべく損失を出すことは避けたいところです。

投資家は収益よりも損失の方に敏感に反応し、収益がある場合は損失を回避する傾向にあると言われています。また、収益が出ていて伸び続けているときには安定のまま維持することを望みます。一方で、損失が出ているときには、リスクを冒してでも損失分を取り戻そうとするのです。

厳しい局面でリスクを取ることは一見矛盾した考え方に見えます。これは成功確率を客観的事実よりも高く見積もり、損失回避を期待する認知バイアスが働いているためです。

マーケティングにおけるプロスペクト理論の応用事例

今までご紹介したプロスペクト理論やその特徴を活かして、実際の販売やマーケティングに結びつける手段を具体例を用いてご紹介します。

プロスペクト理論を応用したマーケティングは、多くの企業や団体が使っている身近な手法です。販売方法の工夫やキャンペーンの実施によって、消費者の購買意欲を高めましょう。

返金キャンペーンを行う方法

プロスペクト理論の応用事例として、返金キャンペーンを行う方法があります。「商品にご満足いただけない場合は返金いたします」という文言を、テレビショッピングやインターネット広告などで目にした機会があるのではないでしょうか。

試してみたいという気持ちはあるが、購入を悩んでいる消費者に「万が一のことがあれば返金してもらえる」という利得の安心感を与えて、消費行動を促せます。

次の購入につなげるためにも、返金キャンペーンを行いながら、良い商品を販売し信頼を得ることが大切です。

コピーライティングで損失を煽る方法

プロスペクト理論を応用した事例には、読み手の関心をひくコピーライティングによる手法があります。

「先着●名様限定」などのお得なキャンペーンは、テレビやチラシでよく見られる手法です。また、「悩みを放置しておくと損をします」と損失を煽るパターンもあります。

「今購入しないと損をする」と感じさせて消費者の損失を煽り、消費行動を促進させる手法もプロスペクト理論のひとつです。

期間限定キャンペーンを行う方法

プロスペクト理論を応用して、期間限定キャンペーンを行うのも効果的です。例えば、以前から欲しかった物が期間限定で「今だけ○○円オフ」「今ならクーポンをプレゼント」と販売されていたり、お店がタイムセールを行っていたりすると利用客は魅力的に感じます。

転じて「今買わないと損をする」という心理から、消費行動が促されます。

ポイントサービスの期限通知をする方法

買い物や食事をするとポイントが付くサービスは、コンビニエンスストアやネットショッピング、飲食店などでも多く見られます。目当ての買い物ができたうえにポイントも付くとなると、消費者は得をした気分になります。

このポイントサービスを行う際には、プロスペクト理論を応用してサービスの期限を設け、期限通知をするとより有効です。消費者は「せっかく得られたポイントを失うのがもったいない」と感じ、ポイントを利用しようと再度買い物や食事をするため、消費を促進することが可能です。

  • 資料とスマートフォンを見ている人

    プロスペクト理論を応用してマーケティングで活かしましょう

プロスペクト理論とフレーミング効果との違い

フレーミング効果とは、「ある事柄を説明するにあたり、伝え方・表現を変えることで、相手に与える印象を変えられる」ことを指します。同じ情報であっても視点を変えると、捉え方が異なることを意味しています。

例えば、「当選率は90%」と「落選率は10%」とは同じことを示しますが、ポジティブな情報の方が聞き手に受け入れられやすいことが知られています。損失回避性に基づいた印象操作の手法ともいえます。

プロスペクト理論は、損失回避性に基づいた「行動」に関する理論であり、フレーミング効果は「印象操作」の理論であることに注意しましょう。

プロスペクト理論の英語表現

プロスペクト理論は英語で「Prospect Theory」となります。「prospect」とは「見込み」「可能性」という意味があります。経済に関連しては「business prospect(景気の見通し)」という使い方をします。

【例文】

Professor made a keynote speech titled “About Prospect Theory”(教授による「プロスペクト理論について」という基調講演が行われた)

プロスペクト理論の意味と活用法を理解しよう

プロスペクト理論の意味や応用例について理解を深めることで、消費者心理や販売動向の傾向をつかめます。プロスペクト理論は、損失回避を軸とした心理行動を指します。本項で紹介した具体例などを参考に、マーケティングなどのビジネスシーンで活かしていきましょう。