「褒めて伸ばす」という言葉を、知ってはいるものの、どう相手を褒めればいいか分からないという方も多いのではないでしょうか。この記事ではエンハンシング効果を利用した褒め方について紹介します。

  • パソコンで何かの作業をしている人

    エンハンシング効果について学びましょう

エンハンシング効果の意味

エンハンシング効果とは、報酬や称賛などによってモチベーションが増加する現象です。「褒めて伸ばす」という言葉にあるように、褒めることが相手のやる気を引き出すことにつながります。その結果、相手は良い成績を残しやすくなるのです。

  • 紙に何かを書いている人

    エンハンシング効果の意味について知りましょう

エンハンシング効果の仕組み

人間のやる気は「外発的モチベーション」「内発的モチベーション」によって高まります。外発的モチベーションとは、「報酬がほしい」「尊敬されたい」など、外部からの影響によるモチベーションを指します。「罰を受けたくない」といったマイナスな理由もこれに当てはまります。

対して内発的モチベーションとは、「やりたいと思ったから」「すべきだと思ったから」など、人間の内面に元々備わっている行動のモチベーションを指します。「楽しさ」「やりがい」なども内発的モチベーションと言えます。

相手を褒めることで、その方のやる気が高まったなら、それは外発的モチベーションです。しかしその後、相手が「褒められたら仕事が楽しくなってきた」と感じたら、それは内発的モチベーションとなるのです。

このように、エンハンシング効果は外発的モチベーションが内発的モチベーションへと変化する点に特徴があります。

  • 手帳に何かを書いている人

    エンハンシング効果の仕組みをチェックしましょう

エンハンシング効果を実証した実験

褒め言葉や叱責が学習の成果に与える影響について調べた実験があります。心理学者のエリザベス・B・ハーロックによって行われました。

小学生を3つのグループに分け、算数のテストを5回行いました。問題の難易度など条件は同じまま、「答案を返すときの態度」をグループごとに変えました。

  • Aグループ:点数にかかわらず、できていた点を褒める
  • Bグループ:点数にかかわらず、できていない点を叱る
  • Cグループ:点数にかかわらず、何も言わない

各グループの結果は以下の通りでした。

  • Aグループ:日ごとに成績が良くなった。最終日には約7割もの生徒の成績が向上した
  • Bグループ:2日目には約2割の生徒の成績が向上した。その後は徐々に成績が低下した
  • Cグループ:2日目には1割未満の生徒の成績が向上した。その後の変化は特に認められなかった

これにより、称賛には成績を向上させる効果があるということが実証されたのです。

  • 誰もいない会場

    実験内容についても合わせて押さえておきましょう

エンハンシング効果の実例

ビジネスシーンやスポーツなど、エンハンシング効果は身近な場面で使われています。どんなところで使われているのかチェックし、実際のビジネスで活かせるよう、具体的なイメージを膨らませていきましょう。

ビジネスシーンにおける実例

昇進や報酬アップなど、仕事での成果が何に繋がるのかを提示することで、会社は従業員の外発的モチベーションの向上に取り組んでいます。活躍した社員を表彰する社内表彰もこれに当てはまります。

エンハンシング効果に繋げるためには、従業員の「能力」ではなく「努力」を褒めることが重要です。それによって内発的モチベーションを刺激しなければ、「やる気の向上」には繋がりません。

社内表彰する際は、ただ表彰するだけでなく、「努力して行動したことが素晴らしい」という趣旨を伝えるようにしましょう。

スポーツにおける実例

大会での優勝や賞の獲得など、スポーツの世界にはさまざまな外発的モチベーションが用意されています。良い結果を残しコーチや親・仲間からの称賛が得られることが、やる気へと繋がります。

信頼している方から褒められることは、非常にやる気が高まり、目標を達成するための力となります。その際も、前述と同様に「努力」した部分を褒めるとより良いです。

  • 壁に貼られている紙を見ている男性

    エンハンシング効果を利用して褒めることを意識しましょう

エンハンシング効果を活用した褒め方

エンハンシング効果において褒め方は重要です。相手が褒められたことを実感できること、褒められたことで喜びを感じられることが必要になります。

ここからはエンハンシング効果を活用した褒め方について紹介します。それぞれを自分に当てはめてイメージしながら学びましょう。

過程を褒める場合

エンハンシング効果を得るためには、結果ではなく過程を褒めましょう。結果を褒められると、「失敗すれば叱られるのだ」という恐れの気持ちが生まれたり、「自分には能力があるのだ」と考え努力しなくなったりする可能性があります。

後輩や同僚などに対し、仕事の過程を気に掛けてあげる癖をつけ、褒めるようにしましょう。また、周囲が良い結果を出して褒めたくなることもあります。その際も「いつも頑張っているから結果が出たのだね」と、過程に触れることを心がけましょう。

感情を込める場合

「この方は自分のことを本当に褒めてくれているのだ」と相手が実感できる褒め方を心がけましょう。

特別な言葉ではなくても、自分の声や表情・仕草などを使って伝えることが大切です。称賛の気持ちが伝わる表現を意識してみましょう。

人前で褒める場合

オフィスなど人前で褒めることも有効です。人数の多い時間帯や朝礼など、従業員が集まるタイミングを選んで褒めてみましょう。相手の嬉しい気持ちがより高まります。

また、成績の良かった社員の一覧を張り出したり、社内報に掲載したりすることも有効です。

  • 観葉植物とソファ

    身近にあるエンハンシング効果の例を確認しましょう

エンハンシング効果の注意点

楽しいと思ってやっていたことでも、他者から報酬をもらったことをきっかけに、いつの間にか報酬なしではやる気が出なくなってしまうことがあります。

「楽しいからやる」という内発的モチベーションがあったはずなのに、いつの間にか目的が変わり、「報酬があるからやる」という状態に変化してしまいます。

これを「アンダーマイニング効果」と呼びます。相手にすでに十分な内発的モチベーションがあった場合、金銭など物質的な報酬を与えることには慎重になりましょう。

  • 小銭の山

    エンハンシング効果の英語訳もチェックしておきましょう

エンハンシング効果への理解を深め適切に使おう

エンハンシング効果の意味や活用方法について紹介しました。エンハンシング効果を高めるためには、褒め方の工夫が大切です。適切な褒め方で、相手だけでなく、自身のやる気の向上にも繋げましょう。