私、小林久乃はこんなコラムを書かせていただいているくらいなので、執筆によってなんとか生計を立てている。自称するのは本当に小っ恥ずかしいが、プロの書き手の端くれだ。この視点によって、冬ドラマについ発見してしまった、偶然がある。

それが人気の二作品に見た、"書けない"プロの書き手の苦悩だ。どちらも見ながら同業として「こうすれば何とかなるのに……」と、ジリジリさせていた気持ちをここに吐露したい。

『ウチカレ』の人気作家に足りないのは新視点

  • 『ウチの娘は、彼氏が出来ない!!』に出演中の菅野美穂

『ウチの娘は、彼氏が出来ない!!』(日本テレビ系)の主役・水無瀬碧(菅野美穂)は、小説家だ。若いうちに小説を書いて大賞を受賞して以来"恋愛小説の女王"として名を馳せていた。が、時代は流れて時代は令和に突入。作風の古さからなのか仕事も減り、出版社を唸らせるような企画をひらめくことができない。

こちらのドラマ、オタクの娘・空(浜辺美波)が初めて恋をすることが物語の柱のはず。でもどうしても同じ書き手として目が行ってしまうのは、碧が今まで通りに書けず、追い込まれてしまうことだ。他社でボツになってしまった企画を他に売り込む、出版社に電話して古株社員を呼び出そうとするもすでに定年退職、一部では"オワコン"と呼ばれる始末……。

そして第4話で出版社から威圧を受けることなる。「昔の小説を映画化させてやるし、新しい企画も受けてやるから、タイトルや脚本が大幅に変わるのを了承しろ」と言葉にこそしない状況で、碧が詰め寄られる様子にモヤモヤしてしまった。あれはひどい。でも現役の立場から見ると、この風潮は否めないし、現実にあることだ。ああ、見ていると悔しさが募る……。

思い出せばこの脚本は"恋愛ドラマの名士"と呼ばれる北川悦吏子さん。「ひょっとしたら碧と同じ思いをしたのだろうか?」と、見ている側が共感するほどのリアリティが実は潜んでいるところを視聴者の皆様には知って欲しい。私みたいな小さな立場だと言えないことを、彼女のような"大きな波"が代弁してくれているのだ。

話題が逸れないうちに、碧の書けない理由を紐解くと、一つ解決策があると提示したい。それは視座を新しくすること。これは自戒を込めたものでもあるけれど、長く仕事をしているとどうしても感覚が追いつかなくなる。映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の世界が、現実化していくように時代は変遷していく。そんな時に忘れないで欲しいのが、若手の感覚に迫ること。なんと言われようと、頭を下げてでも勉強することが必要だと思う。ちなみに私はこのために、日夜、東京都内やSNSを奔走している。

ただ碧には"こんな出版社の担当者いたらNO.1"に任命したい、若手の橘漱石(川上洋平)が現れた。しかも彼は自分のファン。若さの底なし泉にハマって、勉強してほしい。

脚本家が『書けないッ!?』のは営業不足だから?

『書けないッ!? ~脚本家 吉丸圭佑の筋書きのない生活~』 (テレビ朝日系)では、脚本家・吉丸圭佑(生田斗真)が書けないと悩んでいる。追い詰められたのか最近では、スキンヘッドの男(浜野謙太)の妄想……いや、幻想に取り憑かれている始末。それもそのはず、彼にとっては5年ぶりの脚本の仕事なのだ。しかも売れっ子脚本家が頓挫したことから、回ってきたゴールデンタイムのドラマなのである。

"5年ぶり"というのが圭佑の書けない理由だ。32歳のコンクール受賞以来、彼はほぼ仕事らしい仕事をせず収入源は売れっ子小説家の妻・奈美(吉瀬美智子)に頼り、主夫業をこなしてきた。

圭佑が書けるようになる解決策はたった1つ。「営業に行こうよ!」である。残念だけど『ウチカレ』の漱石も言っていたように、今日日の書き手にはなかなか仕事がない。

おしゃれ雑誌のインタビューで「いろんなお声がけをしていただいて」と、高々に答えているクリエイターもいるけれど、水面下ではあの手この手で営業を重ねていることだけは間違いない。仕事は降って湧いてくるものではないのが現実。しかも圭佑は不動産の仕事を辞職して、脚本家としてフリーランスの道を選んでいる。尚のこと、営業活動とブランディングは必須事項。そして書く回数を重ねることで筆力も上がるのだから、この棚ボタ仕事をまずは全うしてほしい。

なんだか愚痴っぽい提言になってしまったけれど、それだけこの作品をよく見てイラッとしている。そして圭佑よ、ひょっとしたら主夫業を極めるのも、今後の人生に一理ありでは? でも奈美がダメ旦那をつい応援してしまうのも理解できる……と、またモヤモヤしてきたところで、2作品の次回放送を待つ。