「アンダーマイニング効果」は、日本語で「過正当化効果」「抑制効果」などと呼ばれています。言葉だけではなんのことか分かりにくい方も多いでしょう。しかし、日常のさまざまな場面でよくある心理現象です。
ビジネスシーンにおいてモチベーションを保つことは重要ですが、アンダーマイニング効果の意味と対処法を知れば、モチベーションを保つ方法が分かりやすくなります。
本記事ではアンダーマイニング効果の意味や実例、起こる原因などを紹介していきます。
アンダーマイニング効果の意味や定義
アンダーマイニング効果とは、内的な達成感や満足感などを得るために自ら行っていたことが、お金など他人から報酬を受けることで、「報酬をもらうこと」が目的にすり代わり、本来の内的な動機が失われることです。
報酬をもらうことによって、報酬が出ないとやる気が出なかったり、やらされている、強制されている気分を感じるようになったりする心理状態を表します。
たとえば釣りが趣味の方がいるとします。釣りを純粋な気持ちで楽しんでいた方が、釣った魚が予想外に売れたことによって、お金儲け(報酬)に目的が移ってしまい、魚が釣れても売れないと楽しくなくなる――。この心の変化がアンダーマイニング効果です。
内発的動機づけと外発的動機づけの違い
動機づけとは、心理学用語で、行動を起こさせて、目標に向かわせる心理的な過程のことを示し、モチベーションとも言います。
動機づけには内発的動機づけと外発的動機づけがあります。内発的動機は興味や探求心、達成感や満足感など、内面的な動機のことです。外発的動機は、お金や物などの報酬や、他人からの評価や罰など、外からの働きによって生じます。
内発的動機づけは人間の内側から、外発的動機づけは他人からの干渉によって起こります。
アンダーマイニング効果が起こる理由・原因・例
アンダーマイニング効果が起こる理由を理解することによって、逆に起こらない方法に繋げられます。
これからアンダーマイニング効果が生じる原因と例を説明していきます。誰にでも起こり得るアンダーマイニング効果の理由を理解して、モチベーションの維持につなげましょう。
行動の目的が「報酬をもらうため」のものになる
内発的動機づけによる行為は、それが失われなければ継続できます。しかしお金や物などの物理的な報酬を渡されると、人間はどうしても、その喜びを求めるようになります。
ボランティアのように使命感や楽しみのために行っていても、もしその行為に報酬を与えられたら、内発的動機が外発的動機へ移ってしまう場合があるでしょう。使命感や楽しみといった目的が、報酬を得るための手段に変化してしまうのです。
【例】
・ボランティア参加に報酬
・昇給、昇進、インセンティブ制度
他者から強いられていると感じる
人間は本来、自発的に行動したいという欲求を持っています。内発的動機が目的の場合は、自発的に行動できます。しかし他人からの評価や報酬が目的に代わると、その達成のためにやらされている感覚が生じます。
自発的な動機が失われて、やらされている感覚が強くなると、自発的に行動したいという本来の欲求が叶わなくなり、次第にやる気を失ってしまうでしょう。
【例】
・上司からの過度な監視
・罰則
ノルマや締め切りを意識する
ノルマや締め切りといった外発的動機づけは、短期的にはモチベーションの向上に寄与します。目的を達成できずに罰を与えられるのは誰でも嫌ですから、回避するために行動しようとすることでしょう。またノルマを達成したときの報酬のためにも行動します。
しかし人間は、本来自発的に行動したいという欲求を持っているので、外発的動機づけは長続きしません。いずれはモチベーションが低下し、アンダーマイニング効果が起こることになります。
【例】
・ノルマ、締め切り
・過度な競争環境
アンダーマイニング効果が証明された実験
アンダーマイニング効果が明らかになったのは、心理学者のデシ(Deci,E.L.)氏とレッパー(Lepper,M.R)が行った実験でした。実験の内容は以下の通り。
- 大学生を2つのグループに分け、それぞれにパズルを与えて解いてもらう
- 1回目の実験では、各グループにパズルを解いてもらう
- 2回目の実験では、1グループにはパズルが解けたら報酬を与えると告げて、解けたら報酬を与える。もう1グループには何も告げず、報酬も与えない
- 3回目の実験では、各グループにパズルを解いてもらう。報酬はどちらにも与えない
上記の実験によると、2回目に報酬をもらったグループは、3回目の実験で明らかにモチベーションが下がりました。また、2回目の実験で報酬を与えなかったグループは、モチベーションが変わることはありませんでした。
アンダーマイニング効果を防ぐには?
アンダーマイニング効果が起こる理由を理解した所で、今度は起こさないようにする方法を学んでいきましょう。報酬が発生しないビジネスはありませんが、報酬のみがビジネスを長続きさせる要因ではありません。ビジネスを継続させるモチベーションを保つ方法を考えていきましょう。
対策1. アンダーマイニング効果の逆の「 エンハンシング効果」を活用する
信頼している方からの褒め言葉や期待は、モチベーションアップに役立つでしょう。他人からの言葉は外発的動機ですが、物理的な報酬と違って、内発的動機を高める効果があります。
努力や過程に対して、フィードバックし、承認して褒めることは、アンダーマイニング効果が起こることを防ぐ効果があります。
なお、このように褒め言葉や期待という外発的動機づけによって、内発的動機を高める方法を「エンハンシング効果」と言います。
対策2. 自己決定感を高める
他者から強いられていると感じることは、アンダーマイニング効果が起こる原因です。逆に自立を促し、自己決定感を高めることで、アンダーマイニング効果は起こりにくくなります。
成長に合わせ、自己決定できる部分を増やしていくことで、モチベーションを保ち続けられるでしょう。
アンダーマイニング効果について知識を深めていきましょう
自分や部下がアンダーマイニング効果を起こさないように、エンハンシング効果などを使用して、モチベーションを保つことは重要です。「報酬」という外発的動機づけだけでなく、自発的動機づけが必要不可欠であると学びました。
また外発的動機づけを利用する場合は、「言葉で褒める」など、金銭報酬以外の方法が適切です。
ビジネスにおいてモチベーションを効果的に持続できるよう、アンダーマイニング効果の知識を深めていきましょう。