「蔓延する」は一般的によく知られている漢字ですが、「蔓延る」と送り仮名を付けると、読み方に迷ってしまいがちです。これらは同じ熟語を使っている言葉でもともとの語源が同じであっても、意味のニュアンスが少しずつ異なります。しかし、読み方や意味がどう違うのか、よくわからない人も多いでしょう。

この記事では、「蔓延る」「蔓延する」の2つの意味や読み方の違い、使い方・例文などを紹介していきます。あわせて類語と対義語、英語表現についても紹介します。

  • 「蔓延」「蔓延る」の意味と読み方

    「蔓延」「蔓延る」の意味や使い方などを紹介していきます

「蔓延る」の意味とは

「蔓延る」の意味は大きく分けて3種類あります。

  • 勢いが盛んになって広まる、広まり栄える、威勢を振るう
  • ものが満ちて一杯になる、充満する
  • 草木などがのび広がる、広がり茂る

「蔓延る」は「蔓延する」と書くこともありますが、一般的に、草木がのびて広がり茂る場合に「蔓延る」と表現し、何かが充満したり威勢を振るったりする場合に「蔓延する」と表現することが多いです。

「蔓」の持つ意味

「蔓延」に用いられている「蔓」は「つる」と読み、平安時代頃の書物にも登場しています。

「蔓」のもつ意味のひとつが、「長くのびて絡みつく草の総称」「つる草」などです。つる草は植物の茎ですが、長くのびて壁や塀などに巻きついたりよじ登ったりする性質があります。

「蔓」は常用漢字ではないことから「蔓延」は「まん延」とあらわされることが多いです。

「延」の持つ意味

「蔓延」の「延」の読み方は、音読みだと「エン」、訓読みだと「のびる・のべる・のばす・ひく・はえ」などです。

「延」には「のばす、のびる、広がる」などの意味があります。

つるがのびて広がるさまをあらわすことが語源となり「蔓延」という言葉が生まれました。つるは成長が早いことの比喩から、「蔓延」が「あっという間に社会に広がっていく様子」を意味するようになりました。

「蔓延る」と「蔓延する」で読み方が違う

「蔓延る」と「蔓延する」では、読み方が異なるので注意が必要です。

「蔓延る」と書く場合には「はびこる」と読みます。一方、「蔓延する」は「まんえん」という読み方になります。混同しないよう気をつけてください。

  • 「蔓延」「蔓延る」の意味と読み方

    「蔓延」はつるがあっという間に成長し広がる様子から生まれた言葉です

「蔓延る」の使い方・例文

「蔓延る」や「蔓延する」がどのようなシーンで使われる言葉なのか、例文を挙げて紹介していきます。

「庭には雑草が蔓延っている」

「蔓延る」という言葉は、つる草以外が広がっている場合にも使われています。夏などに庭にあっという間に雑草が生えてしまった状態を指して、「雑草が蔓延っている」と表現することも多いです。

「洋館にはつたが鬱蒼と蔓延っている」

「蔓延る」とは、もともと植物のつる草があっという間にのび広がった様子をあらわす言葉です。例文のように、つたなどつるが広がりやすい植物が建物を覆っている様子を指して、「蔓延っている」と表現することはよくあります。

「学校でインフルエンザが蔓延している」

ウイルスや病気など、人にとってよくないものが流行している場合、「蔓延している」と表現することが多いです。厚生労働省の指標でも、インフルエンザが拡大している様子のひとつに「まん延」という言葉を使っています。

「ウイルスに関するうわさ話がSNSに蔓延している」

「蔓延する」は、病気以外にもネガティブなものが広がっている様子を指して使うことがあります。真偽不明なうわさ話など、人を混乱させたり動揺させたりするものが広がっている場合にも「蔓延する」と表現して、不確かな情報が広がっている様子をあらわしています。

  • 「蔓延」の使い方例

    「蔓延する」「蔓延る」は嫌なものが広がるときによく使われる表現です

「蔓延る」の類語と対義語

「蔓延る」は日常会話でよく使われる言葉のひとつとあって、類語や対義語などもあります。ここでは、「蔓延る」の類語と対義語を紹介していきます。また、「蔓延する」の類語と対義語も紹介します。

「蔓延る」の類語

物事が速く広がる様子をあらわす「蔓延る」の類語は以下のようなものが挙げられます。シーンに応じて上手く使い分けましょう。

  • 広く知れ渡ること : 広まる、流布する、のさばる
  • 広範囲に広がること : 行き渡る、広がる

「蔓延る」の対義語

「蔓延る」はどんどん広がる様子をあらわす言葉です。対義語は広がらずにとどまっているさまをあらわす、「停滞する」「滞る」や「滞留する」などがあります。

また、植物が育たない様子を表す「枯れる」も、「蔓延る」の対義語のひとつです。

「蔓延する」の類語

「蔓延する」の場合には、さまざまな類語があり、使用時のニュアンスにより類語が異なります。

  • 「広く伝わる」 : 行き渡る、流布する、広まる
  • 「広範囲に広がる」 : 浸透する、充満する、満ちる
  • 「拡散する」 : 拡散する、伝播する

「蔓延する」をどんな意味で使っているのかで、類語となる言葉が異なります。

「蔓延する」の対義語

「蔓延する」の明確な対義語はありませんが、言葉の使い方に合わせた対義表現はできます。

例えば「インフルエンザが蔓延している」の対義語として使うのであれば、「インフルエンザの流行が収束する」などが対義表現となります。また、「噂話が蔓延している」の対義語は、「噂話が沈静化した」などが対義表現です。

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  • 「蔓延」の類語と対義語

    「蔓延」の類語や対義語は使用時のニュアンスによって少し異なります

「蔓延る」の英語表現

「蔓延する」や「蔓延る」に該当する英語表現はいくつかあり、シーンに合わせて使い分けが可能です。その中でも代表的な英語表現を紹介していきます。

spread

「spread」には「広げる」という意味のほかに「覆う」という意味があります。

<例文>

・spread of infection (感染症の蔓延)
・The branches spread far and wide. (枝葉が大きく蔓延っている)

名詞・動詞ともにあることから、「蔓延」「蔓延する」「蔓延る」の英語表現として使える言い回しです。

overgrow、grow over

草木が茂る様子をあらわすのであれば、「overgrow」や「grow over」などが使いやすいです。

<例文>

・grow over time (時間とともに蔓延る)
・grow over and spread fast (蔓延ってどんどん広がる)
・Weeds overgrow the garden. (草が庭に蔓延っている)

横切って広がる様子をあらわすことから、「蔓延る」の英語表現としてふさわしい言葉です。

grow thick

密集していることをあらわす「thick」を使った「grow thick」も、「蔓延る」の英語表現のひとつです。

<例文>

・ weeds grow very thick (雑草がたくさん生い茂っている)
・the trees that grow thick in summer (夏に葉が蔓延った木々)

とくに草木が蔓延る場合に、よく使われる表現です。

  • 「蔓延」の英語での言い換え表現

    「蔓延する」「蔓延る」はさまざまな英語表現で言い換えできます

「蔓延る」の意味や読み方を理解して使い分けよう

「蔓延」は、「まんえん」という読み方のほかに、訓読みで「はびこる」という読み方を行う場合もあります。ただし、「蔓」は常用漢字ではないため、「まん延」「はびこる」と表示されることが多いです。

もともとはつたなど細いつるの植物があっという間に広がっていくことから、「蔓が延びる」と書いて「蔓延」という言葉が生まれました。現在では植物だけでなく、うわさ話や病気などが広がる様子に、「蔓延する」という言葉が使われています。

「蔓延」はどちらかというとネガティブな内容に対して使われることが多い言葉ですので、「蔓延」「蔓延る」を使うべき内容かどうかを見極めながら、活用していきましょう。