そこで何かが起きていることは、遠目にも明らかだった。

今年も残すところわずかとなってきた12月10日。個人的にも師走らしい慌ただしさに見舞われたその日、駅からの帰路でふと異変に気付いた。何人もの人たちが「なか卯」の店前で立ち止まり、表のポスターを見ては吸い込まれるように入っていくのだ。

「さては、なか卯がまた何か仕掛けてきたな」。すぐにそう察知し、さっそく視察をしに店先へ。そこで目にしたポスターの正体は――。

  • ローストビーフ丼!!!

「ローストビーフ丼」(税込790円)である。どうやらちょうどこの日から販売が始まったようだ。

なるほど、ローストビーフか。数年前、こんもり盛られた肉がインスタ映えするということで、軽いローストビーフ丼ブームが起きたが、そのときはどの店も行列で大変だった記憶がある。というか、並ぶのが億劫で結局食べず終いで流行は終わりを迎えた。

しかし、流行り廃りなど抜きに、ちゃんと落ち着いてローストビーフ丼を食べたい。クリスマス感もあるし、タイミング的にもピッタリだ。しかも、「大盛り」(税込1,200円)を上回る「豪快盛」(税込1,500円)まで用意されている。今日は忙しくてろくに食事もとれていなかったことだし、今日はこれで決まり。さっそく店に入ろ……うっ!?

「超豪快ローストビーフ無双」だと!?

大盛りを上回る豪快盛をさらに上回る「超・豪快盛」(税込1,800円)。そうか、これだな、さっきから街行く人たちが目を奪われていたのは。いやいや、でもこれは食べられないって。もう夜も遅いし、さすがにね。と、思いつつ……。

やってしまった……。本能がそうさせたのか、無意識のうちに「超・豪快盛」を押してしまっていたようだ。オプションで「こだわり卵」(税込80円)も追加。

そして、想像以上に……。

デカい! 一体、ローストビーフは何枚あるんだ? えーと、2、4、6、8、10……20……ん?

めくってもまだある! これは数えるのも難しい。とりあえず25枚以上は入っていることは確実。あとで調べたところによると、ローストビーフは並盛の3倍、ごはんは並盛の2倍もあるらしい。紛うことなき無双っぷりである。

ソースときざみわさびもしっかり2つ用意がある。確かに1つでは全然足りなさそうだ。ではさっそくいただこう。ソースをかけると、きらびやかでまた一段と美味しそうである。きざみわさびはまだ使わずに、まずはこのままいただきます。

ピンク色の赤身肉はしっとりとしていて柔らかく、噛めば噛むほど肉の旨みが口いっぱいに広がっていく。臭みのようなものも皆無だ。加熱した肉ではあるのだが、「新鮮」という言葉がピッタリだ。美味しい刺身や海鮮丼を食べたときのような感覚とでも言おうか。冷製のローストビーフにホカホカのご飯という食べ合わせもまさにソレに近い。

このソースも美味しい。風味豊かな黒胡椒に、少し甘みも感じる濃厚な醤油ダレ。ローストビーフとの相性は抜群だ。そして、なか卯と言えば……。

きざみ海苔である。角煮丼や海鮮丼を始め、なか卯はきざみ海苔の使い方が本当に美味い。磯の風味が味を重層的に、かつ爽やかにしてくれるので、角煮やローストビーフのような味の濃い具材でも最後まで重く感じず、美味しく食べられる。文字通り、縁の下の力持ちである。

では、そろそろ「こだわり卵」をトッピングしてみよう。

ああ、神々しい……。もはや芸術的で、崩すのがもったいないくらいだ。しかし、そうも言っていられない。ていっ! と黄身を崩して、いただきます。

やはり、完璧である。白身を入れてしまうと卵かけご飯のように、全体的に水っぽくなってしまいそうだったので(それはそれで美味しいのだろうが)、今回は黄身のみにしたのだが、これが大正解だった。ローストビーフと濃厚な黄身が絡み合い、まろやかで実にコク深い。うーん、至福。

このまましばらく食べ進めたあとに、今度はきざみわさびを溶いたソースの第2陣を投入。わさび特有のツーンとくる辛味が加わり、もう一段表情に変化が生まれたようだ。

まずはソースをストレートにかけ、次に卵の黄身を追加、最後にわさびを溶いた"追いソース"で味を引き締める――。

やや自画自賛になるかもしれないが、このローストビーフ丼の「三段活用」を用いれば、並盛の3倍のローストビーフ、並盛の2倍のごはんもペロリ(死語)である。気付けばあっという間に完食。その大きさに最初はどうなることかと思ったが、美味ければ意外と食べ切れてしまうものである。

これはさすがにカロリーを摂り過ぎたかな……と思ったが、なんと超・豪快盛でも1,171キロカロリー。豪快盛なら808キロカロリーと、まさかの1,000キロカロリーを下回る。並盛なら540キロカロリーだそうだ。この出で立ちとのギャップや満足感を考えれば、かなりヘルシーな部類に入ると言っていいはずだ。

ちなみに、超・豪快盛のローストビーフのみをテイクアウトできる「ローストビーフ盛」もあるらしい。

超・豪快盛、ローストビーフ盛は1月中頃まで販売されているようなので、このホリデーシーズンはローストビーフ無双で決まりだ!