マネ―スクエアのチーフエコノミスト西田明弘氏が、投資についてお話しします。今回は、来年の見通しについて注目したいポイントを語っていただきます。


12月も中旬に差し掛かり、そろそろ来年の見通しを作成する時期になってきました。いつも先のことは分からないながらも、なんとか1年間のイメージを作るものです。しかし、今回はあまりにも不確実要素が多い。年末年始だけでも大きなイベントが控えており、その結果次第では最初から年間見通しを見直す必要が出てきそうです。以下ではそうしたイベントを概観しておきましょう。

米新政権の誕生

大統領選挙の結果は確定していません。トランプ政権の起こした訴訟は多くが取り下げられたり、却下されたりしているようです。そうした中、バイデン氏は政権移行を着々と進めています。しかし、トランプ氏が敗北宣言をしないために、バイデン氏を「次期大統領」と呼ぶのは躊躇するところ。12月14日に各州の選挙人が投票を行い、その結果が来年1月6日に新しい議会によって確認されるまで、最終決着は付かないかもしれません(選挙人の投票結果にトランプ陣営が異を唱えて最高裁の判断を仰ぐような事態は起こりうるのでしょうか)。新大統領の就任は1月20日です。

米上院の決選投票

大統領選挙の結果以上に不透明なのが、上院を制するのは民主党か、共和党かという点です。先の選挙では、共和党が50議席、民主党が48議席を現時点で獲得しています。来年1月5日に残る2議席のジョージア州での決選投票が行われます。民主党がどちらも勝てば議席数は50対50のタイとなります。その場合は上院議長も兼ねる副大統領、すなわちバイデン政権が誕生すればハリス副大統領が最後の1票を投じるので、民主党が上院を制することになります。

民主党が上院も制すれば、政府・上院・下院をいずれも民主党が制する「トリプル・ブルー」となり、バイデン政権の政策は実現しやすくなります。ただ、民主党内左派の影響力が増し、リベラル色の強い政策が打ち出される可能性が高まります。その場合、金融市場、とりわけ株式市場はそれを嫌気しそうです。

共和党が2つのうち一つでも勝てば上院のコントロールを維持します。その場合、バイデン政権の政策は相当に制約を受けるでしょう。保守派にも受け入れられる中道的な政策は実現しやすいものの、企業や富裕層への増税などリベラル色の強いものは日の目は見ないでしょう。それは、株式市場にとっては好ましい状況といえるかもしれません。

ブレグジットはどうなるか

12月31日にブレグジット(英国のEU離脱)の移行期間が終了します。移行期間中、英国はEU加盟国と同等の待遇を享受してきましたが、移行期間後はそれができなくなります。関税や輸出入枠の対象となり、免除されていた申請・認可の手続きも必要になります。それらを回避するために今年3月以降、英国とEUは新たな関係について、FTA(自由貿易協定)を含め交渉を続けてきました。しかし、合意には至っていません。

移行期間終了までに合意が発効するためには、EUサミット(首脳会議)で承認され、さらに英国とEU加盟全27カ国の議会がそれを批准する必要があります。このまま物別れとなるのでしょうか、それとも臨時サミットなどの緊急対応がなされて、年内に滑り込むことができるのか。新たに12月13日が交渉期限とされていますが、その時点で結果が判明するかどうか、それともその後も交渉が続くのか、それさえ不透明です。

EUの予算と復興基金

12月10日のEUサミット(首脳会議)で、7カ年予算案と復興基金構想が承認されました。ポーランドとハンガリーが復興基金の分配ルールに異議を唱えて反対を表明していました。しかし、EU議長国ドイツの仲介によって両国とも反対を撤回しました。これにより、7カ年予算案と復興基金構想の障害はなくなりました。実現すれば、コロナの影響で大きな打撃を受けたEU各国経済は支援されそうです。

主要中央銀行の会合

コロナ禍に対して主要中央銀行は強力な金融緩和を打ち出しました。そして、ここへきて金融緩和を一段と強化する動きがみられます。

12月10日のECB(欧州中央銀行)の理事会では追加緩和が実施されました。PEPP(パンデミック緊急購入プログラム)などが増額・延長されました。ただし、会見でラガルド総裁が「全額を使うとは限らない」と述べたこともあって、通貨ユーロは上昇しました。ラガルド総裁から「為替レートを極めて注意深く監視する」とユーロ高をけん制する発言もありましたが、ほとんど効果はありませんでした。

12月16日には米FOMC(連邦公開市場委員会)の結果が明らかに。FOMCはすでに9月時点で現在のゼロ金利を2023年まで継続する意向を示唆しています。今回の会合では、QE(債券購入)を修正して長期金利を押し下げる、あるいは政策変更の条件を示すガイダンスを明確化するなどの措置が打ち出されるかもしれません。

17日にはBOE(英中央銀行)の会合結果が判明。上述の英国とEUの交渉からも影響を受けそうです。今年末のブレグジットの移行期間終了の影響を見極めてから、経済が混乱するようなら追加金融緩和を打ち出すという選択肢もありそうです。

18日にはBOJ(日本銀行)の会合結果が判明。来年3月に期限が到来する企業の資金繰り支援策を延長する可能性が高いとみられています。ただ、欧米で予想される緩和措置に比べれば力不足で、円高を招きかねないとの見方もあるようです。

もちろん、年内だけでなく、来年1月以降の主要中央銀行の金融政策も注目されるところです。