マネ―スクエアのチーフエコノミスト西田明弘氏が、投資についてお話します。今回は、米大統領選について語っていただきます。


米国で「コロナ禍」に対応した追加経済対策の協議が難航しています。大統領選挙前の成立はかなり難しそうです。また、大統領選挙後に成立するのか、成立するとすればいつ、どんな形になるのか、いずれも予断を許さない状況です。

追加経済対策の協議が継続

米国では3月以降、思い切った金融緩和に加えて、企業や家計、州・地方自治体などに対する幅広い財政支援が展開されました。その効果もあって景気は5月以降に回復基調となりました。ただ、家計への小切手送付は1回のみ、また失業保険の上乗せも7月末には失効。そのため、引き続き脆弱な景気を支えるために追加経済対策が求められています。

7月以降、トランプ政権を代表したムニューシン財務長官と、民主党が過半数の議席を握る下院のペロシ議長とが、断続的に協議を続けてきました。当初、民主党が3.5兆ドル規模の経済対策を提案したのに対して、トランプ政権は1兆ドル以内に留めるとしていました。

トランプ政権と民主党の歩み寄り

その後、協議の停滞に業を煮やしたトランプ大統領はいったん交渉打ち切りを指示。しかし、大統領候補のディベート(TV討論会)などでバイデン氏の後塵を拝していることが明らかになると、トランプ大統領は一転、大規模な経済対策を要求しています。そうした紆余曲折を経て、民主党は2.2兆ドル規模、トランプ政権は1.9兆ドル規模へと歩み寄りをみせています。ただし、民主党が求める州・地方自治体支援、共和党が求める企業に対するコロナ関連の訴訟免除などの項目が、引き続き協議進展のネックとなっているようです。

上院共和党は強い抵抗も?

今や、トランプ大統領は「やるなら大きくやれ」と民主党の提案を上回る規模も良しとの姿勢を打ち出しています。ここで高いハードルとなりそうなのが、議会の共和党です。とりわけ、上院の共和党議員のなかには、財政規律(=赤字の抑制)を重視する保守派グループがあります。彼らは民主党の提案のみならず、トランプ政権の提案に対しても批判的です。

追加経済対策案は法案です。そのため、上院と下院がそれぞれ全く同じ法案を可決したうえで大統領に送付、大統領が署名して初めて成立します。今回の場合、トランプ政権と民主党の合意が成立すれば、合意内容が法案となり、下院では問題なく可決されるでしょう。しかし、上院では可決されないかもしれません。

トランプ大統領は、合意が成立すれば議会共和党に受け入れさせると自信満々です。しかし、共和党のマコネル上院院内総務()は「審議と採決はする」としつつ、自身が合意を支持する、あるいは共和党議員に支持させるとは明言しませんでした。
(
)上院では副大統領が議長を務めるため、多数党の院内総務が事実上のトップ。

上院の採決妨害、フィリバスターとは

実際、合意が成立しても上院で審議・採決されるのは選挙後になりそうな雲行きです。さらに言えば、上院で採決さえ行われない可能性もあります。上院には審議を延々と続けることで採決を妨害するフィリバスターと呼ばれる戦術があります。フィリバスターを停止させて採決に持ち込むためには、スーパーマジョリティー(100議席中60議席以上)の賛成が必要です。すなわち、上院の民主党議員47人(独立系2人を含む)が賛成するとの前提でも、少なくとも13人以上の共和党議員が賛成に回る必要があります。

米景気は持ちこたえられるか

追加経済対策をめぐる争いは、「トランプ政権対議会」、あるいは「共和党対民主党」といった二項対立から、「民主党対トランプ政権対議会共和党」という複雑な関係へと変容しているのかもしれません。

結局のところ、追加経済対策は、大統領選後、それもトランプ政権2期目、あるいは新政権が始動する来年1月20日以降に仕切り直しとなるかもしれません。コロナの感染再拡大が懸念されるなか、それまで米景気は持ちこたえられるでしょうか。