ホンダは石川県金沢市で「ホンダe」(Honda e)の無償レンタルを始めた。「はじめての地元 with Honda e」と名付けたプログラムで、期間は12月25日まで。なぜ金沢でホンダeなのかが気になるが、ホンダとしてはクルマ、街、マイクロツーリズムの3つに親和性を感じたようだ。

  • ホンダの電気自動車「ホンダe」

    電気自動車「ホンダe」を無償で借りて金沢を周遊できれば嬉しい限りだが、なぜホンダはこのような施策を打つのか。現地で担当者に話を聞いてきた

街とクルマの親和性とは

ホンダでは、自宅から30分~1時間で行ける範囲に出かけて地域の魅力を再発見する「マイクロツーリズム」に着目。その移動にホンダeを使ってもらうべく、金沢で同プログラムを始めた。クルマを借りたい人はホンダのレンタカー・カーシェアサービス「エブリ・ゴー」(EveryGo)に登録し、カレンダーから空いている日を探して予約する。11月16日に聞いた限りでは、11月中の予約はかなり埋まり始めてきたとのこと。利用を希望する方は急いだほうがいいかもしれない。

クルマの貸し出し時間は9時~17時の間で利用者が希望に応じて設定できる。発着場所は金沢市の「金沢彩の庭ホテル」だ。対象者は「金沢在住の方」となっているが、仕組み上は県外の人でも利用可能。乗車定員は4人までとなっている。クルマのレンタルは無料だし、充電に必要な充電カードはクルマに備えつけてあるのでこちらもタダだ。ホンダは利用者に巡ってもらいたいコースとして「アート&クラフト体験」「ローカルストリート巡り」「歴史と自然のいいとこ探し」の3つを提案。それぞれに面白そうな目的地が設定されているが、必ずそこを訪れなければならないということでもないらしい。

  • ホンダの電気自動車「ホンダe」

    「ローカルストリート巡り」の目的地の1つとして指定されている「お味噌汁食堂 そらみそ」の前で撮影

ホンダはホンダeによって実現する未来の生活を想像できるプロジェクトとして「“with” Project Honda e」を実施中。今回のプログラムも同プロジェクトの一環だ。金沢でホンダeを無償レンタルする理由は、やはりこのクルマのある世界を多くの人に体感してもらいたいからなのだろうか。ホンダ 日本本部 商品ブランド部 商品企画課 主任の河津健男さんに聞いてみた。

「そうですね。ホンダeは試乗車も少ないですし、値段のこともあるので、購入してもらえるお客さまはそこまで多くありません。いろいろな場所で、さまざまな機会を捉えて、さらには社会情勢も踏まえながら、多くの方にホンダeを体感してもらいたいと思っています」

ホンダeは通常版が451万円、「アドバンス」が495万円という高価なクルマだし、日本への割り当ては年間1,000台(2020年度)ということなので、ホンダが何も仕掛けなければ、普通に生活していると乗る機会も見かける機会も少ない存在となってしまう。カッコよくていいクルマなのに、それではもったいない。

  • ホンダの電気自動車「ホンダe」

    「ホンダe」の発売日は2020年10月30日。第1期オーダー分の数百台はすぐに売り切れた。現在は第2期分(数百台)の注文を受付中だが、好評とのことなので、そのうちソールドアウトとなりそうだ。なぜ日本の販売が少ないかといえば、ホンダは欧州での環境規制に対応するため、かの地でたくさんのホンダeを売らなければならないからだ

ではなぜ、マイクロツーリズムなのか。その理由は想像できる。ホンダeの航続可能距離が、長距離の旅行よりも地元をめぐる旅に向いているからだ。ホンダeはホンダが「都市型コミューター」を志向して作ったクルマ。バッテリーをたくさん搭載して距離を稼ぐのではなく、小さくて小回りが利き、距離は必要十分なEVを目指したのだ。

  • ホンダの電気自動車「ホンダe」

    フル充電での航続可能距離(WLTCモード)は通常版が286キロ、アドバンスが259キロ(写真は金沢ではなく木更津で撮影したものだが、充電シーンのイメージとして掲載)

アートの街である金沢は、「レッド・ドット・デザイン賞」の2020年プロダクトデザイン賞で「ベスト・オブ・ベスト賞」を獲得したホンダeとの親和性が高い場所だと河津さんは説明する。金沢には魅力的なスポットが点在しているが、それらはクルマで15~20分の圏内に密集しているので、マイクロツーリズムおよびホンダeにはぴったりの街なのである。実際、今回は金沢彩の庭ホテルを出発し、「ローカルストリート巡り」コースの中から「金沢港クルーズターミナル」と「お味噌汁食堂 そらみそ」を回って戻ってみたのだが、充電はほんの数%しか減っていなかった。金沢には細い路地も多いそうだが、コンパクトなボディで最小回転半径4.3mと小回りの利くホンダeであれば、すり抜けるのも容易だろう。

  • ホンダの電気自動車「ホンダe」

    「金沢港クルーズターミナル」にて。時間とセンスが足りずこういった写真になってしまったのだが、もっと“ばえる”写真はいくらでも撮れるはずなので、フォトジェニックなスポットは皆さんで探してみていただきたい

とはいえ、無償でホンダeを貸し出すのには、ビジネス上の理由もあるのでは。例えば、エブリ・ゴーの会員増加につなげたいとか……。そんな疑問も河津さんに投げかけてみたが、答えはこんな具合だった。

「正直、そこまでは本当に考えていなかったんですけど、結果的に会員数はかなり増えました。ホンダeは東京、神奈川、大阪、福岡のエブリ・ゴーでも運用していまして、15分200円で利用できるのですが、これを機に会員がぐっと増えたので、ホンダe効果かなと思います」

大学生や免許取得から日の浅い人を含め、幅広い年齢層にホンダeを体感してもらえれば本望。そう話す河津さんに、これ以上突っ込む理由はなかった。

金沢や鎌倉、あるいはエブリ・ゴーなどでホンダeを見かけたり体感したり人の中には、このクルマが欲しいと思う人もいるはず。ただ、日本の販売台数は上記の通り2020年度1,000台と限られているので、誰でも手に入れられるクルマではないことが惜しい。来年度、日本向けに何台のホンダeを確保できるかは未定だそうだが、これでは機会損失になってしまう気もするので、何とか弾を増やしてほしいものである。「本音としては、日本でも1万台くらい売りたいんですけどね」と話す河津さんも、同じ思いを抱いてはいるようだ。