フジテレビのドキュメンタリー番組『ザ・ノンフィクション』(毎週日曜14:00~ ※関東ローカル)で、心臓移植を待つ2組の夫婦とその家族を追った『私、生きてもいいですか ~心臓移植を待つ夫婦の1000日~』の前編が、15日に放送された。

登場したのは、心臓が肥大し、血液を送り出す心臓のポンプ機能が低下してしまう原因不明の難病「拡張型心筋症」と闘う容子さん(取材開始当時51)とクマさん(同41)。悪化すれば心臓移植しか助かる道はないが、2人は体に補助人工心臓(VAD)を埋め込み、いつ来るか分からない移植を何年も待ち続けている。

密着したのは、『ザ・ノンフィクション』で放送された“平成の駆け込み寺”の熱血和尚への密着ドキュメンタリーで「ニューヨークフェスティバル」「日本民間放送連盟賞」「ATP賞」など国内外の賞を受賞した八木里美ディレクター(バンエイト)。今回の番組には、多くの人が臓器移植に対して“無関心”になっている現状を打破したいという使命感で取り組んだという――。

  • 『ザ・ノンフィクション』の密着を受ける容子さん(右)と友人 (C)フジテレビ

    『ザ・ノンフィクション』の密着を受ける容子さん(右)と友人 (C)フジテレビ

■臓器提供の待機期間が長期化

八木Dが最初に心臓移植の取材をしたのは14年前、フジテレビ夕方のニュース番組『スーパーニュース』の企画だった。

「当時の補助人工心臓は、本当に大きな冷蔵庫みたいなものにケーブルをつないで、その状態でずっと病院の中で移植を待っている方を取材したんです。その方は移植ができて、今もお元気にされているんですが、こんな魔法のような医療があるんだと感動して、自分がもし脳死になったらぜひぜひ臓器提供したいと思ったくらいでした」と振り返る。

それから年月が経ち、厚生労働省の審議会で臓器移植の委員を務めるなど、長年にわたってこの問題に取り組むフジの木幡美子CSR推進部長が今回の番組を企画し、取材経験のある八木Dに白羽の矢が立った。

久しぶりに心臓移植について調べてみると、「VADが小さくなり、体の中に埋め込められるようになって、あんなに大変だった生活が外に出られるようにもなって。患者の皆さんが本当に元気そうにされていて、すばらしいなと思ったんです」と医療技術の進化を実感。その反面で、臓器提供の待機期間が長期化しているという現状を知った。

「14年前は3年くらいで移植の順番が回ってきていたんですが、取材を始めた3年前に容子さんは4~5年と言われていたんです。今はもっとかかって6~8年と、本当に長いこと待たなければいけない状況になっています。そんな状況でも、メディアはすっかり臓器移植のことを報道しなくなっていたので、これはまた取材しなきゃいけないと思いました」

心臓移植は年間50~80例程度行われているが、それに対し、移植を待つのは886人(20年10月末時点)。待機中に多くの患者が、移植までたどり着けずに亡くなってしまうそうだ。

■本当に勇気ある取材対象者

こうした現状を伝える決意をしたものの、臓器移植を待つ人たちが取材を受けてくれる例は、非常に少ないのだという。

その理由は「日本ではまだ『他人の心臓をもらってまで生きなきゃいけないのか』といった遅れた見方があるみたいなんです。後ろ指を指されるような気持ちがして職場にも言えず、隠して生きてらっしゃる方がたくさんいると聞きました」とのこと。

そんな中、今回密着した容子さんとクマさんは、顔出しで取材を受け、テレビで見せたくないような、おなかの刺入部(=VADのケーブルが皮膚を貫通する部分)の消毒作業や、家族との関係性までさらけ出してくれた。

  • 刺入部の消毒作業を行う容子さん (C)フジテレビ

“自分は人が亡くなるのを待っているのか? 人の心臓をもらって生きる価値が自分にあるのか?”と葛藤することもあったそうだが、移植について勉強し、啓発のイベントを自ら企画するバイタリティがあり、「本当に勇気のあるお2人で、なおかつ明るく前向きに病気と闘っている方だったので、稀有(けう)な取材対象だったと思います。こういったドキュメンタリーは、あまりジメジメしていると共感を得づらい部分があるので、本当に助けられました」と感謝する。