鉄道の運転士には、普段は起こらない出来事でも、対応しなければならない能力が求められている。JR東海では、東海道新幹線の運転士に安全を確保するための能力を習得させることを目的に、異常時訓練シミュレータを使用することになった。

  • 東海道新幹線の異常時訓練シミュレータが報道関係者らに公開された

11月13日、JR東海の各種研修が行われる静岡県三島市のJR東海総合研修センターにて、東海道新幹線の異常時訓練シミュレータが報道関係者らに公開された。東海道新幹線の前方再現画像とともに、自然災害や列車火災、飛来物や線路への土砂流入などの異常事態をCGでリアルに再現。その疑似体験を通じて、運転士の異常時対応力を向上させようというものだ。

■指令とのやり取りを再現する対話形式訓練シミュレータ

東海道新幹線の運転席を再現し、そこから見える前方の様子を大画面で映し出す装置が、研修センターの一室に1台設置されている。その後方には、指令員や車掌の役を担当する講師が、運転士の訓練を行う人に指示を出す設備がある。複数のディスプレイとマイクが備えられ、マンツーマンでのやり取りが可能になっている。

報道公開では、まず米原~京都間の下り線で、架線に飛来物がかかった状況を再現した訓練が公開された。減速の指示が運転台に表示される一方、運転士には指令からの無線。制限速度を120km/hに落とした後、緊急徐行で30km/hのマニュアル運転を行う。現地確認のためだ。ブレーキハンドルを非常位置に。東京起点から448kmの場所にあるトロリ線に、飛来物のビニール袋がかかっていた。除去されるまで、運転は禁止となる。

  • 指令から指示を出す

  • 列車無線を受ける

  • トロリ線にかかる飛来物を再現

  • 撤去を確認し、再び動き出す

撤去は画面上でのことなので、画面から消え去るだけで処理された。その後、指令から指示があり、運転を再開する。

続いて列車内火災の訓練。静岡駅から新富士駅へ向かう上り線において、6号車で火災が発生したとのことで、非常ブザーが鳴る。トンネル内なので運転は継続。地上の安全な場所に出たところで停止し、6号車を確認すると、充電器による発火であることがシミュレータの画面に表示された。

■弱点を克服するための自習形式訓練シミュレータ

1台の液晶モニタと、机上の左側にブレーキハンドル、右側にマスコンハンドルが備えられ、運転席を簡易にしたようなシミュレータが、対話形式シミュレータと同じ部屋に9セット備えられている。こちらのシミュレータでは、各自でハンドル類やタッチパネルを操作し、自習形式で訓練ができるようになっている。運転士自身が訓練メニューを選択し、苦手項目や弱点を補強することが可能になっている。「弱み」を自覚し、克服するために効果的なシステムである。

この自習形式のシミュレータでは、大雨・強風時の対応が再現された。非常停止の指示が出ている。しかし、列車は橋の上を走行しており、ここで停止するわけにはいかない。突風で車体が倒される可能性が高いからだ。徐行して橋を渡りきり、安全な地上で停止する。

  • 自習形式のシミュレータは9名まで同時に使用できる

  • 簡易的ながらもマスコン・ブレーキは再現されている

  • 自習形式のシミュレータにも列車無線設備が備わっている

これらの異常時訓練シミュレータを導入したことに関して、JR東海新幹線鉄道事業本部運輸営業部運用課の早津昌浩課長は、「難易度の高い訓練ができるように、このシミュレータを導入しました」と話す。近年の台風による風水害の被害の増加を踏まえ、自然災害など65項目の訓練内容を盛り込んだ。地震なども想定している。「乗客に安心して乗っていただけるように訓練しています」と早津課長は言う。

東海道新幹線のように利用者が多く、高頻度の高速運転を行っている路線では、なにかあったときの対応能力が重要になる。運転士のスキルアップを図るという意味でも、この異常時訓練シミュレータが重要な役割を担っていると感じられた。