俳優の長谷川博己が主演を務めるNHK大河ドラマ『麒麟がくる』(毎週日曜20:00~)。8日放送の第31回「逃げよ信長」では、「金ケ崎の退き口」が描かれた。明智光秀(長谷川)が織田信長(染谷将太)に逃げることを進言するシーンでは、信長が光秀を蹴飛ばす場面が。この“蹴り”は脚本にはなく、リハーサル中の長谷川の一言から生まれたという。この回の演出を担当した一色隆司氏に、撮影の裏話を聞いた。

  • 『麒麟がくる』明智光秀役の長谷川博己(左)と織田信長役の染谷将太

越前へ向けて出兵を開始した信長は、破竹の勢いで敦賀まで制圧。だが、朝倉義景(ユースケ・サンタマリア)のいる一乗谷まであと一歩に迫った金ヶ崎で、浅井長政(金井浩人)が突然裏切り、背後から迫ってきた。朝倉・浅井に挟まれ絶体絶命の信長軍。このまま前進するという信長に対して、光秀は逃げるように強く説得し、数万の兵を率いた熾烈な退却戦を繰り広げた。

光秀が信長に撤退を進言した際、信長は「逃げることなどできぬ」と聞かず、止めようとする光秀を蹴飛ばすも、光秀は立ち上がって「天下静謐という大任を果たされるまでなんとしても生きていただかなければなりませぬ。織田信長は死んではならんのです!」と説得し、「お願い申し上げまする」と土下座。光秀の気迫あふれる訴えをついに信長は耳を傾け、1人になって泣きわめいて怒りを爆発させたのち、逃げることを決意した。

光秀の土下座は脚本にも記されていたが、信長が光秀を蹴飛ばすというのは脚本にはなく、長谷川の「染谷さんに蹴飛ばしてみてもらってよいですか?」という一言から生まれたという。一色氏は「リハーサルで『織田信長は死んではならんのです』というセリフをどういう風に届けるか議論していく中で、長谷川さんが『蹴ってもらったらダメですか?』と。染谷さんも『いいですよ』と。実際にやってみたらダイナミックな感情表現になり、脚本に書かれている感情の流れをさらに豊かなものにするお芝居だと思ったので、即採用しました」と説明した。

そして、「お二人とも10キロ以上の甲冑を着けてのこの動き、さすがだと、芝居を作っていて脱帽しました。お二人のお芝居の相性がとてもいいのと、キャラクターをしっかり理解してつかんでいる賜物だと思います」と2人の芝居を絶賛。長谷川の土下座に関しては細かな演出はしていないそうで、「あのレベルの役者さんは気持ちを理解して入っていくと、体が無意識に反応するようになります」と信頼を寄せている。

ちなみに、長谷川が共演者の動きを提案することはあまりないとのこと。一色氏は「相手の思いや芝居にすごくリスペクトを持っている方で、相手がつかんでくれないと芝居ができませんというタイプではない。ですが、このシーンに関しては、自分自身が阻止するという意味合いでいうと、蹴飛ばされたほうが気持ちも上がるということで提案されました。こういうことはめったにないです。この回は、光秀にとってターニングポイントになる回だとお伝えしていましたし、長谷川さんもおのずと気合が入っていらっしゃったと思います」と、このシーンにかける長谷川の気合を明かした。

また、この第31回について「光秀が死の一歩手前までいくというのは今までになかった。がむしゃらに走ってきた光秀が、戦国の武将として生きていく中で、はじめて直面するシチュエーション。自分が作りたいと思っている世界に今後どう向かっていけるかという意味でこの回は大きい。光秀にとってターニングポイントの回です」と解説した。

(C)NHK