企業と求職者が直接やりとりできるプラットフォームを日本で初めて開設した企業として知られる「ビズリーチ」。2020年2月、同社の代表取締役社長として新たに多田洋祐氏が就任した。ビズリーチの本質、そして多田氏から見た労働市場について伺ってみたい。

  • ビズリーチ 代表取締役社長 多田洋祐 氏

「インターネットの力で社会を変えたい」

「私たちは先人たちが築いてくれた社会に生きています。では私自身は、生きている間に次世代に向けてどのような社会を残せるのか。……そんなことを学生時代から漠然と考えていました。これを実現するためには起業して大きな会社にするか、大きな会社に入ってなにかを成し遂げるかのどちらかですが、私は前者を選び、これまで2度起業しています」

多田氏はもともと、最初に就職した企業の同僚とともに2006年に創業したヘッドハンティングファームで副社長を務めており、その頃はビズリーチのサービスを利用する側だった。2012年、多田氏はその会社を辞め、自身で会社を立ち上げる。この新たな会社でもビズリーチとの間に仕事が生まれ、それがきっかけで同年、ビズリーチへ参画することになる。

「ビズリーチと関わりを深めていく中で、HR市場を変革して行こうという方向性に合致を感じたのです。過去の日本はモノづくりの力で社会が変わっていきましたが、ビズリーチの仲間たちとならそれと同じようなことがインターネットの力で行えるのではないか。こう考え、ビズリーチへの参画を決めました」

その後、2013年にビズリーチ事業部長を務めようになり、2015年より取締役として、人事本部長、スタンバイ事業本部長、HR Techカンパニー長等を歴任。そしてビズリーチがVisionalとしてグループ経営体制へ移行していく中で、2020年2月、現職である代表取締役社長に就任した。

「私のルーツには、小学校の先生の言葉があるのかもしれません。その先生はことあるごとに『あなたは必ず世の中で何かを成し遂げるんだ』と言ってくれたんです。そして、大学で国際法を専攻するなかで、今の時代があることは当たり前じゃないと歴史から学びました。人間が他の生物と違うのは、過去を残し、より良くして未来に繋いで行けることです。日本は課題先進国ですが、これを民間の立場から改善していきたいと考えています。日本は多様性を許容できる国民性を持っています。この気質によって、世界をより良くするためのリーダーシップを発揮していけると思うのです」

  • 小学校の担任の先生の言葉に自身のルーツを見出す多田氏

ビズリーチは人材のマーケットプレイス

まさにHRのプロフェッショナルであり、ビズリーチをもっとも理解している人物といえる多田氏。同氏は、ビズリーチの特長を次のように説明する。

「ビズリーチというサービスでは、そもそも人材紹介や仲介をやっていません。あくまで人と企業が出会うプラットフォームなのです。いわば株式市場や築地市場のような、人材のマーケットプレイスですね」

従来の日本には人材のマーケットプレイスがなかった。人材のデータベース自体は存在し、人材紹介会社であれば閲覧できたが、企業が見ることはできなかった。企業が積極的に人材を採用するためのツールがなかったのだ。多田氏はこの仕組みに長年疑問を感じていたという。

「データベースを企業が閲覧できる以前は、企業から仲介会社に『人材を口説いてほしい』という要望があったりしました。ですが私は、データベースを開示し、企業が自ら欲しい人材を説得するのが本来あるべき形だと感じていたのです。そのためのツールを用意したのが、ビズリーチです」

現在、200万人以上の個人がビズリーチに登録している。「個人と企業はこれから、フェアにお互いが選ばれる時代になる」と多田氏は話す。個人はインターネットを介して企業を選べるし、企業も優秀な人材に選ばれようと思ったら良い報酬ややりがいのある仕事を用意しなければならない。お互いに選ばれる、そんなフェアな時代がすでに来ているのだ。

多田氏は「これから、労働市場はより流動化が進む」とはっきりと明言する。そしてその理由として大きく4つを挙げた。

「1つ目は人材不足です。これは求人倍率をみても明らかで、新型コロナウイルスの影響下にある現在においても1倍を切っておりません。2つ目は人口動態です。15年前であれば人口の多い団塊ジュニア世代が中途採用のメインターゲットでしたが、現在は若手さえ採用していればよいわけではなくなりました。終身雇用が成り立たなくなってきており、企業内の人口ピラミッドを維持しようと思ったら能動的に新陳代謝を生まなくてはならないのです。3つ目は政府が支援していることです。中途採用の強化を国は強く後押ししています」

  • 多田氏は労働市場の流動化がより進む理由を3つ挙げる

独立行政法人労働政策研究・研修機構「データブック国際労働比較2019」のデータによると、日本では「勤続年数が1年未満の割合が少ない」のだという。これは「転職して1年未満の割合が少ない」ということであり、「1つの企業に長く勤めている人が多い」ということだ。ドイツではこの1年未満の就職数が約2倍、アメリカでは約3倍になる。日本も雇用の流動化が進むにつれ、こういった国に準じた形へと変化していくことだろう。

「情報が可視化されたことによって企業の人材獲得・育成の競争が始まっていますし、個人にとってはとてもいい時代になっていくのではないかなと思っています。図らずも、コロナ禍は働く人がキャリアを主体的に考えるきっかけになっており、考え方にも変化が見られました。副業や兼業への理解も進んでいます」

これまで副業や兼業は制度面からも困難だったが、これも変わり始めている。ビズリーチは福島県と連携した地方創生事業の1つとして、外部からの人材登用を支援している。Iターン、Uターン、Jターンとなると難しいが、副業・兼業として求人を行ったところ、大都市圏から多数の応募があったという。