また、「5年目にしてやっと、自分でこういうことができるのかとか、どこまで自分が関われば、作品に対する責任感が持てるのかということを考えるようになりました」とも言う住野氏。ちなみに、「小説にしかできない表現」にこだわった住野氏の小説は、そのままを映像化することがかなり難しい。例えば、『青くて痛くて脆い』の小説では、名前にまつわるトリックが非常に利いているが、『この気持ちもいつか忘れる』は、いろいろな面でハードルが高い。

「別に小説が映画よりも上とか下とか思っているわけではなくて、それぞれで手法は違っていいと思っています。そう考えると、音楽と小説も違うはずだから、その違う文化2つを合わせてみたら、一体どう見えるのか? と思って、作ったのが『この気持ちもいつか忘れる』です。匂いから物語が浮かんでくるとか、針金みたいにたわむチカの髪の毛とかは、おのおのが想像するしかないものですが、僕はそういう表現が好きなんです」

これまでの5年間を振り返ったうえで、スランプなどの期間はあったのかと尋ねると「スランプと言えるのかはわかりませんが、自分は以前の方が小説を好きだったはず、と毎日思うようになりました」と告白。

「今年と比べたら、去年の方が面白いことを考えていた気がするし、もっと言えば、過去の自分のほうがすごかったとずっと思ってきました。以前、シンガーソングライターの日食なつこさんと対談をした時、日食さんが『17歳の頃の自分が一番すごかった』とおっしゃられていたのですが、まさにその感覚です。『くてくて』が出た時、自分の最高傑作と言って、それもあの頃の本心ですが、実は僕のなかで、作家デビュー前に書いた『また、同じ夢を見ていた』よりも満足できる小説が、果たしてこの先、1本でも書けるのだろうかとずっと思ってきました」

『また同じ夢を見ていた』は、住野氏が自分の好きなものをすべて詰め込み、本当に楽しんで書いた小説とのことで、思い入れも強かったそうだが、今回、『この気持ちもいつか忘れる』ができた瞬間、「一番いいものができた」と素直に思えたそう。

「この小説には、THE BACK HORNへの愛だけではなく、僕を好きでいてくれる読者さんへの想いも含め、今、僕が言いたいことが全部詰まっています」と胸を張る。また、そこには『また同じ夢を見ていた』と同じく「極めて純粋なことだけが美しいことじゃない。そこからいろんなことを知って学んでいく姿勢が美しい」という気持ちによりフォーカスを当てることができたそうだ。

今後もさらに高みを目指すであろう住野氏。「そこからまた、住野よるとして、新しい一歩を踏み出していくのかなと思っています」と、最後は笑顔で締めくくってくれた。