現在、「くてくて」こと『青くて痛くて脆い』の実写映画が公開されているが、住野氏によると「『くてくて』の映画版は、これまでのメディアミックス作品のなかでも、群を抜いて口を出させてもらいました。脚本も、最初の段階から赤ペンを入れまくってから戻し、それを基にしての話し合いを何カ月も続けました」と言う。
映画化にあたり、脚色された部分もある。例えば劇中で、吉沢演じる楓と杉咲演じる秋吉が立ち上げたサークル「モアイ」が、ボランティア活動に参加し、そこでやさぐれた少女、西山瑞希(森七菜)と出会うのは、映画のみの設定だ。
「西山瑞希を登場させるという提案は、先方から出たものでしたが、その際に、原作で描かれたとしてもおかしくないようなシーンにしたいとお伝えしました。オリジナルシーンの中でも楓や秋好が言わないような台詞は言ってほしくなかったし、ちゃんと原作の部分と地続きになるようにしてほしかったので」
ちなみに、主題歌「ユメミグサ」を担当しているのは、アーティストのBLUE ENCOUNTだが、そこも住野が初期段階でリクエストをしている。それは、『青くて痛くて脆い』の小説発売当時に、イメージソングとなる「もっと光を」をBLUE ENCOUNTが担当していたからだ。「BLUE ENCOUNTの曲が、『くてくて』にすごく合うと思ってお願いしたので、そこを、大人の事情で違うミュージシャンに頼むということは出来ないと思っていました」と告白。
そのやりとりを聞くと、音楽と小説という垣根を超えたコラボレーション作品『この気持ちもいつか忘れる』が生まれたのは、自然な流れのように思える。「特定の曲を聴いて、小説を書くということはないのですが、明らかに影響を受けていると思う曲や、書いている途中で担当さんに原稿を見せる時、こういう音楽を聴きながら書いてます、と伝えることがあります」
また、『青くて痛くて脆い』については「『キミスイ』や『また、同じ夢を見ていた』、『よるのばけもの』がきっかけで、僕の小説を好きになってくれた読者さんが読むと、いろんなことを思うんじゃないかと想像しながら書きました」と述懐。「僕としては、また違った絆ができればいいなと思って書いた作品です。それを言葉にするのは難しいのですが、『アホか、お前』と中指を立て合うような絆を目指しました」
住野氏は、小説の映画化について「1回は、丸投げしてお願いしてみたい気持ちもあります」とのこと。「僕は『告白』(10)の中島哲也監督がすごく好きですが、中島さんのように、個性的な作品を作られる方に映画化してもらうなら、丸投げした方が絶対にいいとも思っています。それと似たような意味では、『か「」く「」し「」ご「」と「』のコミカライズは、描いてくださってる二駅ずいさんにほぼ丸投げしてます。二駅さんには、好き勝手にやっちゃってください、とお伝えしています。原稿を見て、毎回すごい! と感心してしまいますね」