女優の柴咲コウが主演する日本テレビ系ドラマ『35歳の少女』(10日スタート、毎週土曜22:00~)の脚本・遊川和彦氏とプロデューサー・大平太氏が、4日に放送された同局のトーク番組『イントロ』で対談した。

  • 遊川和彦氏(左)と大平太氏=日本テレビ提供

『女王の教室』『家政婦のミタ』『過保護のカホコ』といったヒットドラマでタッグを組んできた2人が最初に手がけたのは、東山紀之と浅野温子が主演を務めた『平成夫婦茶碗』(00年)。当時ドラマ初プロデュースだった大平氏は、すでに数多くのヒット作を手がけてきた遊川氏から、この作品の脚本を「書かない」と宣言され驚がくしたことを告白した。

遊川氏は企画プロデュースという立場をとり、のちに大ヒットドラマ(NHK『おんな城主 直虎』、TBS系『義母と娘のブルース』)の脚本を手がけることになる新人ライターを脚本家として起用するという異例の展開に。そして17年には、大平氏自身が大学生の娘を甘やかしていたことから思いついた『過保護のカホコ』を遊川氏に提案。ところが、ここでも遊川氏は「書けない」と宣言し、「過保護だけではドラマにならない」と否定されたことを明かした。

遊川氏が脚本で意識していることは「怒り」。「なんでこんなに不公平なんだ」「なんでこんなに愛されないんだ」など、人間の根っこにある“怒り”の感情に常に敏感であろうとしているという。そのため『過保護のカホコ』の「愛されていて何も考えてない」主人公には問題意識がなく、遊川氏は「ドラマにならない」と大平氏に宣言。

しかし、先にこの企画が通ったため、遊川氏は“親もいない、愛された記憶もない”という主人公と対極にある登場人物を生み出した。そして、遊川氏は「『お前は甘いんだ』って責められたら主人公はどう反応するか。そこで『愛を純粋に信じていて何が悪いのか』と言い返されたら何も言えないなと。愛を100%信じる人間がいたほうがいいんじゃないかって逆に思った」と、同ドラマ誕生の経緯を語った。

社会現象にもなった『家政婦のミタ』(11年)については、大平氏が「不安だった」と当時の心境を吐露。主役を演じる松嶋菜々子のイメージがガラリと変わることについて「視聴者に受け入れられるかどうか」「初回放送までめちゃめちゃ怖かった」と告白した。遊川氏は、折しも震災が起こったこの年、“家族の再生”をテーマにドラマを作って行く上で、「他人」という外的要因“家政婦”をあえて家族の中に投入。隠れていた家族の一面を露わにしていくために、「何を考えているかわからない人がジッとこっちをみている」という影のあるシチュエーションでドラマに深みを生み出し、見ている人たちを大きく引き込んだ。

「生ぬるいドラマっておもしろくないでしょ。健康的なドラマを見せられてもウソっぽいって思ってしまう」と、遊川氏は当時から、ドラマのストーリーだけではなく、ドラマそのものに対しても疑問や問題提起を感じながら脚本を作っていたことをうかがわせた。

  • 『35歳の少女』=同

そんな2人が今年、タッグ20年目にして挑む最新作『35歳の少女』は、さまざまなことが異例づくめ。物語の方向性やイメージはほぼ語られておらず、どのようなドラマなのかがベールに包まれている。しかし、それこそが「ドラマっぽくないドラマを目指そう」という遊川氏の狙いだという。

「日本のドラマはサービスが過剰だと思う。こっち(見る側)の想像力をまったく無視。信用してない」という疑問を抱えている遊川氏。「登場人物たちが葛藤している姿を、いい役者を集めて作れば、余計な演出をつけなくても物語に没頭できる」ということをこのドラマで示そうというのだ。この、現在のドラマの在り方と逆行するともいえるドラマに、プロデューサーである大平氏は「理解するのが難しかったし、まだ理解できてないのかもしれない」としながらも同意。「やってみようと腹をくくった」と語った。

“10歳から25年眠り続けて35歳になった女性”という難役に柴咲を抜てきした理由について、『〇〇妻』(15年)で柴咲と仕事をして以来、「もう1回一緒にやってみたかった」という大平氏は「チャンスを探っている中で、今回の企画が彼女に合ってるんじゃないかと。遊川さんに相談したら大賛成してくれた」と明かす。2人が一様に柴咲に対して思っているのは「つかみどころがない」というイメージ。「ピュアさというか透明感というか、本人も言ってるけど幼児性みたいなところがある」(遊川氏)、「どういう女優って聞かれるとうまく答えれられない。なんでもできるがゆえに」(大平氏)。大平氏は「いつもゼロから入ってくる。どう役を吸収するのか」と、今回も柴咲に大いに期待をしている様子だ。

常に家族に思いをはせる大平氏らしく、『過保護のカホコ』同様、自身の娘がまさに今年25歳になったことがこのドラマに大きく関係しているという。

「生まれたばかりの赤ちゃんが25歳になるくらいの時間を実感している」という大平氏。「僕らはいろんなことがあって『あっという間だったね』って言うけど、それが寝ててすっぽり欠けてしまったらどんな感じなんだろうかと考えてみたい」「時間って誰にでも平等に与えられているのに、その時間すら与えられなかった主人公の悲しみや絶望を描いてみたい」と意欲を燃やしつつ、「描きながら自分自身も残された時間をどう生きていくかちゃんと考えたい」

また、「遊川さんの台本をもらうたび、『時間を無駄にしてないか』『ちゃんと生きているか』って言われている気がする」と大平氏から言われた遊川氏。「人ってちょっと先を見たりする」と、まさに遊川氏はこのドラマで“今”を投げかける。

「30歳前だと『30歳になったらどうしよう』とか思うけど、なったらなったで、人間ってそういうこと。時間を無駄にしているというのは、言い換えると『今を生きていない』。見ている人がそういうことを少しでも感じてくれれば」

決して簡単ではないテーマで、さらに“多くを視聴者に語らない”ことを決意して臨んでいるこのドラマ。「ドラマには何かを変えるきっかけになりうる力があると思う。だから僕らはがんばっていかなきゃいけない」と決意を新たにしていた。

『35歳の少女』では、公式ツイッターのフォロー&RTで、2人がタッグを組んだ『同期のサクラ』『過保護のカホコ』『偽装の夫婦』『◯◯妻』『家政婦のミタ』のDVD-BOXをプレゼントするキャンペーンを実施する。