人はリラックスする時に「アルファ波」という脳波が出ている――こういったことを見聞きした経験がある人もいることでしょう。実はアルファ波以外にも複数の脳波があることをご存じでしょうか。
本稿ではその中の一つである「シータ波」について解説していきます。
シータ波とは
脳波とは脳がさまざまな働きをしているときに生じる微弱な電流波形であり、アルファ波・ベータ波・シータ波・デルタ波・ガンマ波の5つがあります。
この5つは周波数によって分類されています。
■1~3Hz: デルタ波
■4~7Hz: シータ波
■8~13Hz: アルファ波
■14~30Hz: ベータ波
■30Hz~: ガンマ
シータ波は記憶を司る脳の部位・海馬との関係が強く、眠気のあるときや勉強、あるいは具体的な作業に集中しているときなどに発生します。短時間だけ情報を保持し,同時に処理する能力「ワーキングメモリ」にも関連しています。
シータ波以外の脳波
脳波にはシータ波以外に4つの脳波があり、それぞれ特徴のある条件の下で発生します。巨大な神経細胞である脳は、ニューロン間での情報受け渡しの際に脳波を発生します。多数の神経細胞の活性が脳波として現れます。
脳細胞の働きや場所の違いによって脳波の周波数に違いができるのです。その違いが5種類の脳波として表れているので、それぞれについて特徴を見ていきましょう。
脳波1:アルファ波
アルファ波はリラックスしている場面で出ると言われています。周波数は8~13Hzで、睡眠においてはノンレム睡眠の初期段階で発生します。
脳波2:ベータ波
ベータ波は周波数14~30Hzです。心身共に活動的な場面で派生しています。論理的な思考や議論・判断しているときの興奮した脳活動に現れ、心身共に緊張した状態にあります。何かしらストレスを引き受けているときにベータ波が出ているのです。
脳波3:ガンマ波
ガンマ波の周波数は30~80Hzで、知覚機能とともに高次の脳機能活動において発生します。特に提起された課題に対して答えを導くときのような洞察力の遂行においてガンマ波が発生します。
脳波4:デルタ波
デルタ波は周波数1~3Hzで、5波の中で一番遅い状態です。デルタ波はノンレム睡眠の第3段階から第4段階にかけて現れます。深い睡眠を示す波長がデルタ波なのです。このことからデルタ波の発現量によって睡眠の質の高さが評価されます。
シータ波が出るタイミング
シータ波が発生する脳の状態にはいくつかの条件があります。そのタイミングについてみていきましょう。
タイミング1:睡眠に入るタイミング
睡眠は時間の経過と共にレム睡眠とノンレム睡眠の2種類を繰り返しています。レム睡眠では脳が活発に働いており、記憶の整理や定着が行われています。ノンレム睡眠では脳は休息しており、脳や肉体の疲労回復のため時間とされています。
ノンレム睡眠は4段階あると考えられており、ノンレム睡眠の第4段階が最も深い眠りと言われています。そしてシータ波はノンレム睡眠の第1段階、すなわち寝入りばなにアルファ波と交代するようにして出てきます。アルファ波の後から出てくることからわかるように、リラックスした状態です。
タイミング2:瞑想が深まったタイミング
国際総合研究機構生体計測研究所の河野貴美子氏らの研究によると、瞑想の深い状態でもシータ波の発生が確認されたそうです。瞑想の深い状態では、アルファ波とシータ帯域の脳波が確認され、アルファ波の周波数が低くなることでシータ波に移行すると考えられており、睡眠時における発生とは作用機序が異なると河野氏は論文で述べています。
シータ波の効果
覚醒中、脳内でシータ波が出ている状態は、精神的に集中していて効率のよい作業をしているときです。記憶や学習がはかどる環境が脳内で実現しているときにもシータ波が出ています。このようなシータ波が出るような状態を意識的に作り出せれば、作業効率や精神的な安定感をもたらすことができます。
学習や記憶といったテーマへの影響から、どういった実践的効果が期待できるのかをみていきます。
記憶力が高まる
シータ波は、記憶を司る海馬と関係が深いとされています。海馬は睡眠時に、その日脳内に収集されたさまざまな情報を整理整頓して、記憶に残しておくべき情報を選り分けるのが仕事です。
レム睡眠時に海馬でシータ波が発生するため、シータ波と記憶には関連性があることがわかっています。覚醒時でも外部刺激が遮断されるような集中した状態では、シータ波が発生し、記憶力が高まるとされています。
ひらめき力が高まる
睡眠に入る過程では、初めにアルファ波が発生し、次いでシータ波が出てきます。この状態は覚醒と睡眠の境界上にあり、半覚醒状態で特殊な脳活動がみられる段階です。
このような寝入りばなでは、収集された情報はバラバラな未整理状態で一時記憶されています。カオス状態にある情報が、脈絡のない結びつき方をすることによって新奇な発想(ひらめき)が生まれると考えられます。
シータ波を出す方法
以上のことから、シータ波は自由な脳活動が保障されている状態で発生することがわかりました。そこから、意図的にシータ波を出すコンディションに心身を持っていくことで、作業能率向上や新発想を手助けできるでしょう。
シータ波を脳内に出す方法を紹介します。シータ波の発生条件を逆手に取って、シータ波を利用しましょう。
方法1:昼寝をする
スペインにはシエスタ(午睡)という習慣がありますが、昼寝は睡眠不足の解消や心身のリフレッシュに役立ちます。働く人々にとっては昼休憩の時間が利用できます。
睡眠は15~20分が理想で、それ以上になると睡眠が深くなり、逆に起きたときの爽快感が無くなります。ちょうど、アルファ波からシータ波に転換していくタイミングで睡眠から目覚めるのがベストです。
方法2:瞑想をする
瞑想には呼吸が大切です。ゆっくりと深呼吸をすれば、自律神経が安定し気持ちが落ち着いてきます。すると自身の深部に注意を集中することで雑念にとらわれない精神状態を作れるのです。
このような感覚の際に脳内ではシータ波が出ています。睡眠状態と違うのは、覚醒していて意識がはっきりしていることです。呼吸と意識を自分の意志で制御することで穏やかな脳内環境を作れます。
方法3:興味のあるものについて調べる
シータ波は何か新しいモノ・コトに熱中することでも発生します。学習・記憶を担う海馬が刺激されるので、興味あるものを見つけそれについて調べるという行動は、シータ波を発生させる条件になります。
シータ波を効果的に使おう
これまで見てきたように、5つの脳波はそれぞれ特徴的な条件の下で、特異的に発生します。逆に言えば、条件を満たせば意識的に特定の脳波を利用できるということです。
シータ波が発生する条件は学習・記憶に都合のよい環境を提供します。アルファ波と合わせてリラクゼーションとも関連するので、余裕のある作業遂行に適しています。積極的にシータ波発生の環境を作りましょう。