店員のミスだろうか―― そう疑ってしまうほど、"ソレ"は溢れていた。

自家製うどんチェーン「久兵衛屋」は来る秋に向け、9月10日から新たな季節限定メニューを発表。中でも目玉は、昨年も人気を集めた「もつ鍋」と、今回初登場となる新メニュー「牛もつつけ汁うどん」である。

  • 久兵衛屋新メニュー「牛もつつけ汁うどん」を抜き打ちテスト

秋冬の定番でもある「もつ鍋」は当然、今年も安定のクオリティなのだが、このニューフェイスの「牛もつつけ汁うどん」が早くも久兵衛屋ファンの間で話題となっているようだ。美味しいだけでなく、ボリューム、コストパフォーマンスともに優れているらしい。

その真相を確かめるべく、残暑も収まりきらぬ中、「牛もつつけ汁うどん」を味わいに近くの久兵衛屋を訪問。その実力やいかに。

久兵衛屋がこだわる「武蔵野うどん」って?

まず、久兵衛屋について簡単におさらいをしよう。埼玉県を中心に、関東で約50店舗を展開する人気うどんチェーンで、その人気の秘訣は何と言っても自家製の"麺"にある。

うどんのメジャーどころと言えば香川県の讃岐うどん、秋田県の稲庭うどん、他にも群馬県の水沢うどんなどが有名だが、久兵衛屋は「武蔵野うどん」で勝負している。

実は関東は昔から小麦の生産量が多く、武蔵野うどんは郷土料理として江戸時代から親しまれてきた。温かい具だくさんの汁にうどんをつけてつけて食べるのが武蔵野うどんの特徴で、久兵衛屋も「つけ汁うどん専門店」を謳い、その魅力を発信している。

加水率が低く、コシの強いうどんは噛み応え抜群で、噛めば噛むほど小麦の味が出てくると評判だ。讃岐うどんや稲庭うどんにも決して引けを取らない魅力を備えているので、機会があれば一度、どこかで味わってみてもらいたい。

新メニュー「牛もつつけ汁うどん」とご対面

それでは本題に入ろう。今回のターゲットは、話題の新メニュー「牛もつつけ汁うどん」である。

福岡名物のもつ鍋は、ちゃんぽん麺で締めるのが定番だ。岡山には「津山ホルモンうどん」というB級グルメがあるが、ベースは焼きうどんである。そう考えてみれば、牛もつの入ったつけ汁うどんは、ありそうでなかなかない。

久兵衛屋は、人気のもつ鍋をうどんでも味わってもらいたいという思いからこの新メニューを開発したということだが、果たしてマッチするのだろうか?

関東エリアにお住まいならこの看板に見覚えがある人も多いかもしれない。特に埼玉県では30店舗以上を構えるというのだから、県民であれば一度は見かけたことがあるだろう。

入り口ではさっそく季節限定メニューの看板を発見。入り口でアルコール消毒し、他の客とはソーシャルディスタンスを取りつつ、迷わず「牛もつつけ汁うどん」をオーダー。待つこと約7分、ついに話題のルーキーと対面を果たす。

誰がどう見ても美味そうだ。正直に告白すれば、ついさっきまで「この残暑では時期尚早ではないか」「とろろざるうどん美味そうだ」という邪念もあったのだが、そんな考えも一蹴するルックスである。見よ、もつとうどんのツヤツヤした表情を。

薬味はネギの輪切り、辛味噌、おろし生姜。それでは、いただきます。

…… 美味い。やっぱり美味かった。弾力あるうどんはもちろんのこと、もつの存在感と言ったらない。使用しているもつの部位は「シマチョウ」(てっちゃん)で、脂肪が多く、栄養価が高いのが特徴。小さめにカットしてあるのはうどんと一緒に食べやすくするための配慮だと思われるが、食感は損なっていない。

店員のミスを疑うほどの"牛もつ量"に歓喜

「武蔵野うどんは具だくさん」というのは本当だった。ニラだけでもこの量である。見た感じ、もつの量もなかなか多そうだ。

汁も美味い。ベースは甘辛い醤油味。出汁は4種の魚と昆布からとり、かえしは牛もつつけ汁専用に配合したオリジナルのものを使っているという。そこにガーリックチップ、鷹の爪、白ゴマの風味が相まって、まさにもつ鍋を味わっているかのような満足感。自家製うどんにもよく合っている。

ここで辛味噌を投入して味変したのだが、これがコク深く、少量でもなかなか辛みが強くてインパクト大。おろし生姜は逆に濃いめの出汁をスッキリさせる効果がある。少し薬味を入れるだけでずいぶん雰囲気が変わる。面白い。汁全体に溶くのもいいのだろうが、個人的には全体の味を変えすぎることのないよう、一口分ずつうどんに絡めて食べるのがオススメだ。

半分ほど食べ終えた頃、まだまだ牛もつが残っていることに気付く。「美味しいものは最後までとっておこう」という心理が働いたのだろうか? ペース配分など気にせずズルズル食べていたつもりだったが。

何の気なしに残りの牛もつを持ち上げてみると……

…… 目の錯覚か? いや違う。ましてや幻覚でもない。まるで今から一口目にかかるかのごとく牛もつがゴロゴロと残っているではないか。これ、本当に一人前? 二人前では? 新メニューだから店員さんがミスったのか? と思いきや、これがデフォルトで正しいらしい。ちなみに、この日は抜き打ち訪問。取材用に"盛った"可能性はない。

牛もつの沼にありがたく溺れながら、最後まで美味しく完食。もつの脂肪がつけ汁の表面をコーティングし、最後まで温かく食べられたのもうれしい。甘辛いスープはヤミツキになり、もう麺がないのについズズッとすすってしまう。

値段は790円。税込みでも1000円以下だ。あれだけ牛もつを入れて、本当に採算が取れているのか? これは相当ハイレベルなコストパフォーマンスである。

爪楊枝で牛もつの筋をほじくりつつ、「次は大盛りにしよう」と誓って店を後にした初秋の候であった。