お笑い芸人のBKBことバイク川崎バイクが、『BKBショートショート小説集 電話をしてるふり』(ヨシモトブックス)でいきなり作家デビュー。この短編集は、彼がコロナ禍で自粛中、作品投稿サイトnoteに毎日寄稿した短編小説50本を収録したものだが、連載中にSNSで話題を呼び、急遽出版される運びとなった。

特筆すべき点は、恋愛小説からミステリー、SF、ブラックコメディまで、ひねりの利いたストーリーテリングぶりだ。自由自在に球種を使いわける名ピッチャーのごとく、処女作とは思えない“技”を惜しみもなく披露しており、人気作家の吉本ばななが、帯にコメントを寄せたのも大いに納得。そんな“作家”BKBに単独インタビューを敢行した。

  • BKBことバイク川崎バイク

――まずは、書籍化が決まった時の感想から聞かせてください。

こんなにも早く本になった! という驚きと喜びがありました。最初に50日間、毎日書こうとは決めたのですが、ショートショートというジャンルだから、100個ぐらい書いて、誰かの目に留まってくれたらいいなと思っていたんです。そのうち、芸人仲間から「いつか本になるんとちゃう?」と冗談交じりに言われたんですが、まさか書き始めて30日くらいで、書籍化の話をいただけるなんて、夢のようでした。

――noteに投稿するのを勧めてくれたのは、同じ芸人であるオズワルドの伊藤俊介さんだったそうですね。書き始めて手応えを感じたのはいつ頃ですか?

たくさんの人に読んでほしかったので、無料で公開していたんです。10日を超えた頃から、フォロワーが毎日増えていきましたが、バズったりはしていません。毎日8時19分、“バイク(819)”の時間に更新していたら「すぐに読みたいから朝早く起きてます」とか「自粛中ですが、規則正しい生活を送ってます」といった声をいただくようになりました。それでエゴサーチをしてみたら「BKBの小説が面白い」とあって、マジか! とびっくりしました。

――以前から書き溜めた作品もあったそうですが、いつ頃から小説を書いていたんですか?

おぼろげですが、10年ぐらい前から趣味で書いていました。僕自身が、オチを軽く引っくり返す話や、2回読みたくなる話が好きなので、僕もそういうひとひねりあるものを書きたいと思ったんです。

――オチが最後まで読めない巧みなストーリーばかりですが、小説は独学で書かれたんですか?

独学です。星新一さんの小説が好きなんですが、ほかにもこれまでに読んだ小説から、無意識にインスパイアされているんだと思います。ミステリーも好きなので、叙述トリックなども使っています。また、できるだけ人の名前は、ありきたりな名字を避けたりもしました。たとえば、「山口」などよくある苗字にしちゃうと、山口さんが読みにくくなるかなと。とはいえ、女の子の名前は「真由美」とか普通の名前だったりもするので、一概には言えませんが。

――コロナ禍での自粛期間があったからこそ、毎日小説が書けたのでしょうか?

それは間違いないです。さすがに仕事をしながら毎日書くのは難しいので。「B、K、B!」とかやっていたら疲れますし、ネタもハーハー言いながら書いてます。でも、自粛中はずっと家にいて、体力も有り余っていたし、寝る時間もありましたから。

――芸人仲間の方から、タイトルだけを振られ、そこから物語を作った回もありましたが、与えられたお題から作るほうが書きやすいのでしょうか?

僕はそうです。0から1にするよりも、お題があって、そこから連想して作るほうが書きやすいです。

――すごくリアルなストーリーからファンタジーまで、作品の発想はどこから来ますか? 例えばご自身の実体験を生かしたものなどもありますか?

あります。単独ライブは毎年真面目にやってきたので、コントのネタのストックがありますし、知り合いから聞いた話を書いたりもします。また、ボケになってないようなネタの切れ端を日々、スマホにメモっています。あとは、他の方の短編集のタイトルだけを見て、そこから想像して書いたり、コントの話を広げたり、本当に困った時は、ファンタジーに逃げたりしていました。

――ファンの方からは、どんな反応があったのでしょうか?

僕の単独ライブなどに来てくれている人は、めちゃくちゃ驚いてはないと思います。コントでもオチだけ怖いネタはやっていたので。後輩だと、ジャングルポケットの太田とかは「俺は知ってましたよ。BKBさんのこういう一面」と言ってくれましたが、おそらくほとんどの人たちは知らなかったと思うし、先輩からも「ええ!」と驚かれたりしました。なかでも品川(祐)さんが反応してくれたのはうれしかったです。

――小説家としての自己評価はいかがですか?

こればっかりはね(苦笑)。やっぱりこの世界は、他人の評価が自己評価につながるわけで、自分でいくらいいものを書けたと思っていても、読まれて評価されなきゃ意味がないので。ただ、自分で読んで面白いと思うものは書けたんじゃないかという自負はあります。僕の芸風だと、「BKBの書いた本!? マジで!」と良いふうに捉えられることもあれば、「あのBKBの本やったら読まなくていいや」と悪いふうにいくこともあると思うんです。読まず嫌いの方をいかにして振り向かせるかが問題かなと。

――小説と、普段、書いているお笑いのネタを書く作業の共通点とは?

全然違うんですけど、隣り合わせにいるもんやなと僕は思いました。お笑いはネタを書いて終わりじゃなくて、そこから練習して、お客さんの前で笑ってもらってなんぼのものでしょ。今回の小説はショートショートだったこともあり、脳内で「おお!」と思ったらそこで終わるから楽でした。お笑いで面白いネタを簡単に書けるのなら、とっくに『R-1』で決勝に行けていると思います。

――同じ芸人で作家でもある又吉直樹さんは、芥川賞を受賞しましたが、今後、小説家としてそういった賞を獲りたいという目標はありますか?

本当のところ、賞は欲しいです。本来なら、そういう賞を獲ってから本を出すのが普通なんだと思いますし。もちろん表題作の「電話をしてるふり」が、(作家の岸田奈美さんがnoteで開催したコンテスト)「キナリ杯」をいただいたことはうれしかったです。調べてみたら、いろいろな短編の賞もありましたが、すでに書いたものはもう応募できないそうで、厳しいなと思いました。そこはもうちょっと緩くしてほしいです(笑)。

――芸人としてのBKBさんの今後についても聞かせてください。

できるかできないは別として、この本を出版できたことで、BKBに興味を持ってもらいたいです。目先の目標としては、単独ライブが即完するような芸人になりたい。そして、BKBの芸風は基盤として残しつつ、1人コントなどで『R-1』の決勝に行きたいです。

――小説を書く作業は、あくまでも芸人としての活動の一環なのでしょうか?

もちろんです。「BKBってこんな話が書けるんやったら、コントも面白いんとちゃう?」っていう説得力が欲しかった。書き物とお笑いは別の話かもしれないけど、「BKB!」とだけを言っていても裾野が広がらないので、もっと間口が広がってくれたらいいなと思っています。

■プロフィール
バイク川崎バイク
1979年12月17日生まれ、兵庫県出身のお笑い芸人。愛称はBKBで、略したら「BKB」になるネタで人気を博す。『R-1ぐらんぷり』では 2014年にBKB漫談で決勝進出、近年では1人コントで準決勝進出を果たしている。