子どもの頃、地元の野球やサッカーチームでスポーツに親しんでいたという経験をお持ちの方も多いだろう。小学生や幼少期に多様な運動経験に触れることは、将来的にスポーツ技能を身に付けるうえで非常に重要だと言われている。しかし今、そんな"小学生スポーツ"が危機に瀕していることをご存じだろうか。――言わずもがな新型コロナウイルスの影響である。
2020年2月末ごろから外出の自粛要請が始まり、4月7日には緊急事態宣言が発令。学校は休校に、仕事はテレワークに……と、私たちの生活は一転した。一時こそ落ち着きを見せたものの、今なお感染者数の推移は予断を許さない状況であり、まだまだコロナ前の生活には程遠いのが現状だ。
このような状況とあって、もともとボランティア運営が主であった小学生スポーツは、その影響を顕著に受け、ほとんどの大会の中止・延期はもちろん、チームとしての活動も停止や制限がかかっている。ここでは、そんな危機的状況にある小学生スポーツを応援すべく、様々な企画を行っている「FunSpo! (ファンスポ!)」の発起人である足達伊智郎さんに活動意図や今後のビジョンについて話を伺った。
小学生スポーツの可能性をもっと広げたい
「FunSpo!」は小学生スポーツを「もっと自由にオープンにFUNに!」というビジョンのもと、小学生のスポーツに特化した課題解決や小学生、その親、周囲の支える人たちを応援すべく立ち上げたインターネットサービス。その背景には、足達さん自身の子育て経験から直に感じた"小学生スポーツの課題"が根本にあったそうだ。
「小学生スポーツは、ほとんどがボランティアで運営されているので、今なおホームページがないチームが多いんですよね。そのため、その地域にどんなチームが、どれくらいの数あるのかわかりません。『子どもをチームに入れたいけど見つけられない』と悩む親御さんも多いですし、逆にチーム側も子どもたちが新しく入ってこないと消滅してしまうんですよね」
ホームページがある一部のチームや口コミで集まる強いチームばかりに加入者が集まり、そうでないチームはどんどん消えていく状況もあるそうだ。また、ボランティア運営とあって親の負担も大きい。そんな状況を改善すべく、大手IT企業で働く足達さんはご自身のノウハウを生かし、小学生とチームのマッチングを可能にする「FunSpo!」を立ち上げた。
「また、スポーツの体験自体に重きをおくのか、勝ち負けにもこだわるのか、というのも課題の一つだと考えています。親や指導者は勝ち負けに熱くなりすぎるところがあるんですよね。実は私もそうでした、反省してるんですよね。小学生の時期は可能性を広げたり、将来に飛躍的な成長する選手になるためのゴールデンエイジなんです。小学生の時にピークをもってくる必要はないんですけど、勝ち負けや競争はみてるほうも熱くなるからつい子どもを置いてけぼりにしてしまうですよね。小学生スポーツはすべての"子どもの成長や可能性を広げる時期"という考えや"FUN"というのがもっとベースにあって、その中で1番目指したい子がいれば応援する。こんな考えを親や指導者の方も取り入れると良いのではと思います。そのためにも、子どもに適したチームを見つけられるようなオンラインサービスを作りたいと思いました」
「練習を休んだら試合に出さない」「毎日欠かさず練習をする」など、高校や大学の強豪校のような厳しい指導スタイルのチームもあれば、純粋に楽しくスポーツ体験をすることに重きをおいたチームもある。どちらが良い悪いではなく、親や子どもが多様なチームの中から自分に合ったチームを選べるようにしたい、という想いも強かったそうだ。そのため「FunSpo!」では「勝負重視 / 楽しさ重視 / バランス」と各チームの特徴を見える化して紹介している。
デザインの力でも小学生スポーツを盛り上げたい
"小学生スポーツを「もっと自由にオープンにFUNに!」"の想いは、カラフルなロゴデザインにも込められている。足達さんと同じく、大手IT企業でデザイナーとして働きながら「FunSpo!」の活動に参加する石川和也さんは、デザインの面でも小学生スポーツを盛り上げたいと話す。
「『FunSpo!』のロゴには、"デザインの力でもワクワク感を出したい"という想いを込めています。一文字一文字をポップカラフルな色合いにすることで、"色々なスポーツを選べる自由"を表現し、文字の線をはねさせるこで"スポーツの躍動感"を出しました。足達も話していた通り、小学生のスポーツチームはホームページがないところが多く、"デザイン"や"クリエイティビティ"はあまり反映されていないように感じます。『FunSpo!』を通じて、そういった表現の楽しさも伝えられると嬉しいですね」
コロナに負けない。多彩な「FunSpo!」企画
そうした熱い想いが込められた「FunSpo!」の活動は、小学生スポーツが危機的な状況に陥ってしまったコロナ禍において、あらためて多方面から共感を受け、今ではこれまで以上に多彩な企画が生まれている。
「『FunSpo!』の本格的な立ち上げから間もなくして、新型コロナウイルスで小学生スポーツの存続自体が危ぶまれるような状況に陥ってしまったのですが、今こそ小学生スポーツの応援につながる企画ができないかと思い、多方面の方々に協力をお願いしたところ、大勢の方が賛同してくださり、今では色々な企画が進行しています」
〇スイッチマン
外出自粛やスポーツ活動の制限などで心身ともにストレスがたまっている子どもたちを応援すべく、プロコーチの青山剛さんとのコラボレーションで、家でできる小学生向けのさまざまな運動をYouTubeで配信中。
〇TOKYO FM「FunSpo!」(毎週日曜日7時~7時30分)
自身も熱心に少年野球を応援するお笑いコンビ「トータルテンボス」藤田憲右さんが番組パーソナリティを務め、アスリートや指導者をゲストに迎えて小学生のスポーツにとって必要なこと、考えていくべきポイントなどを発信するラジオ番組。7月5日より放送中。
〇「FunSpo! Dream 2020」
アスリートたちが競技の枠を超えて小学生スポーツ・子どもたちを応援するオンラインイベント。アスリートの心温まるメッセージやスペシャルプレゼント、オンラインで直接交流できる企画を開催中。
いずれもプロアスリートや著名人などが参加する魅力的な企画ばかりとなっている。このように業界の垣根を越えて様々な人たちが賛同してくれたのは、"小学生スポーツを通じて「日本をもっと良くしたい」"という足達さんの想いに共感してくれたからこそ。今後もまだまだ様々な企画を考えているとのことだ。
スポーツの未来は"小学生スポーツ"の発展にかかっている
今後「FunSpo!」では今後どのような活動を行っていくのだろうか。最後に今後のビジョンを伺った。
「もっともっと多くのチームに『FunSpo!』に登録してもらいたいですね。集まれば集まるほど、可能性が広がっていきます。チームは人を集められるし、子どもたちは自分に合った好きなチームを選ぶことができる。ほかにも、日本のどこにどんなチームがあるのかが分れば、アスリートにそのチームの練習場に行って交流してもらうことだってできます。それは現役アスリートはもちろん、引退した選手のセカンドキャリアにも繋がるかもしれません。小学生の対象年齢に沿ったコーチを派遣することだってできると思います。……と、こんな風に、可能性がどんどん広がるんですよね。それが、僕は日本のスポーツの発展にもつながると信じています」
「スポーツの未来は"小学生スポーツ"の発展にかかっています」。取材中、足達さんは度々そう話していた。「FunSpo!」のこれまでにない自由で楽しい企画の数々は、必ずや小学生スポーツの可能性を広げてくれるに違いない。きっと、それが日本のスポーツの未来にもつながっていくことだろう。