新型コロナウイルスの影響で多くの番組が収録を休止するなど、大きな影響を受けたテレビ番組。収録再開後は、ソーシャルディスタンスを守り、アクリル板を設置するといった対策を進め、安全な番組制作に努めている。

この現場を支えているのは、番組セットのデザイナーだ。制約が課せられた環境の中で、放送では見えない部分までさまざまな工夫が凝らされていた。そんなコロナ禍の番組セット作りの裏側を、数々の人気番組を手がけるフジテレビ美術制作局デザイナーの鈴木賢太氏に聞いた――。

  • 観覧客のモニターを配置した『VS嵐』のセット (C)フジテレビ

    観覧客のモニターを配置した『VS嵐』のセット (C)フジテレビ

■『VS嵐』観覧客のリアクションが復活

早期から対策に着手していたのは、『VS嵐』(毎週木曜19:00~)。嵐とゲストチームが大規模なセットを使ったゲームで対決していく番組だが、3月26日の放送から無観客となり、通常収録の実施が困難になった。

そこで、「ウゴウゴルーガみたい」なCGセットをデザイン。嵐5人は別々の部屋にいるが、合成することで隣同士にいるようにしたり、リアクションで顔を大きくしたりするなど、「演出の萬匠(祐基)さんと、“普段できないことを逆にやれるチャンス”だと考えてやってみようという話をしました」(鈴木氏、以下同)と準備を進め、5月14日に「リモート嵐-1グランプリ」を放送した。

番組の肝である嵐同士の丁々発止のやり取りを見せるため、それぞれの部屋には他のメンバーの切り抜き顔写真を浮かべて立て、目線を合わせることに成功。その後もステップアップし、「バーチャル収録をやればやるほど、あらためてお客さんの応援が力になっている番組だということを感じたんです。大勢のお客さんに囲まれてゲームをするというのが、『VS嵐』のセットコンセプトでもあったので。そこで、客席に1メートル高のモニターを並べて、お客さんをランダムに見せていきました。これで、初めてライブのリアクションが返ってきて、収録がにぎやかになったんです」と手応えを感じた。

このように、コロナの状況に応じて収録の体制が変化していくが、「それによってあまり出演者を振り回したくないという気持ちもあるので、『VS嵐』は形がやっと見えてきたという感じです」と語る。

■『ダウンタウンなう』飲み屋視察でリアル追求

  • 飲み屋街を再現した『ダウンタウンなう』のセット (C)フジテレビ

初期にコロナ対応を行うことになったのは、『ダウンタウンなう』(毎週金曜21:55~)。ダウンタウン、坂上忍、女性タレントの“飲み仲間”の4人が、ゲストの待つ街のお店をハシゴする「本音でハシゴ酒」を展開していたが、ロケの実施が困難となったため、4月10日の放送からスタジオ内に特設の“飲み屋街”セットを建てた。

「いわゆる新宿のションベン横丁(思い出横丁)やゴールデン街、有楽町のガード下など、盛り場を見て回った上で、背景の雰囲気が変わるようにセットを作りました」とリアルさを追求。この新セットで1回収録を行った後、収録自体が休止となってしまったが、完全グリーンバックでのバーチャル収録を経て、再び日の目を見ることになった。