キャッシュレス決済による「ポイント還元制度」が6月末で終了した。消費増税に伴う景気対策としてスタートしたこの制度。経産省は同時に、日本のキャッシュレス化の普及促進を目指したが、少し中途半端な結果に終わったという印象は拭えない。

7月からはキャッシュレス決済とマイナンバーカードの普及のダブル効果を狙った「マイナポイント事業」がスタートしたが、これもあくまで一時的な施策。カンフル剤としては弱い。我々は現金やキャッシュレスとどう向き合っていくべきか、このタイミングで一度、状況を整理して考えてみよう。

「新しい生活様式」に寄り添うキャッシュレス決済

そもそもキャッシュレス決済の最大のメリットと言えば、やはり経産省主導で行われていたポイント還元制度だった。中小の小売店などでキャッシュレスで決済すると5%、フランチャイズ店なら2%が還元されるこの仕組み。数字だけみれば小さく感じるかもしれないが、8%から10%に上がった消費増税の"痛み"を和らげるには効果的だった。

また、コロナ禍の影響で「新しい生活様式」が求められるようになった今、キャッシュレス決済は安全性という観点でも大きなアドバンテージがある。現金の受け渡しがなくなることで人との接触が避けられるうえに、買い物もスピーディに済ますことができる。ただし、キャッシュレス決済でもクレジットカードだと現金と同じような接触が発生するケースが多いので、この場合は電子マネーやQRコード決済に分があると考えたほうがいい。

お金の流れを管理しやすいという点もメリットのひとつだ。どこでいくらの買い物をしたかは、どんなキャッシュレス決済を使っていたとしても大体の場合は一覧で見ることができる。一方で、手元で管理する現金と違って、いくら使ったかがわかりにくいというデメリットを指摘する人も多い。

インフラが壊れる災害時にキャッシュレスは不安か

また、「災害時に弱い」というデメリットも長らく指摘され続けている。

現在、九州などを中心に、非常に激しい豪雨が甚大な被害をもたらしている。気象庁はこの雨を「令和2年7月豪雨」と命名した。まだ被害の全体像は正確に把握できていないが、洪水や土砂崩れの影響で、少なくとも1万棟以上の住宅被害が発生し、多くの人が避難所生活を強いられている。

キャッシュレス決済はインフラ環境に左右されやすく、停電が発生したりネットワーク回線がダウンしてしまうことで、キャッシュレス決済の利用そのものが不可能になったケースがこれまでにも発生していた。キャッシュレスに依存していたせいで、災害時に無一文の買い物難民になる可能性だって大いにありえる。

もちろん、災害時にどれだけの現金を持ち出せるのかも怪しい。現状は、キャッシュレス決済と現金をバランスよく使い分けられれば理想的かもしれない。

キャッシュレス決済、続けたくても難しい?

加盟店でなければキャッシュレス決済が使えない、という課題も未だに残っている。キャッシュレス決済派の消費者にとって、キャッシュレス化はどんどん推進してほしいところだろうが、最近では逆に、キャッシュレス決済を廃止しようとする小売店も出てきているようだ。

キャッシュレス決済の場合は、店舗に売上が振り込まれるまでにタイムラグがあるだけでなく、月に一度しか入金がないケースも多い。

もっとも重くのしかかっているのは、キャッシュレス決済で生じる手数料だ。日本の決済手数料は世界的にも割高だと言われており、販売額のうち3~7%が決済事業者に支払われることになっている。小売店からすればさらなる増税が課せられた感覚だろう。

海外では規制によって手数料に上限を設けているケースもあるが、日本はまだそこに至っていない。今後、手数料は引き下げられるどころか、主な決済会社約400社のうち、4割が手数料を引き上げる方針を示しているという。今年4月、公正取引委員会も「(手数料は決済会社の)事務コストを大幅に上回っている」と指摘しているが、今のところ規制の動きはない。

今後、本格的に襲いくる増税のコロナ禍の二重苦

政府は2025年までにキャッシュレス決済の割合を40%にまで引き上げたいと目標を掲げている。主要各国では40%~60%台だが、日本はまだ20%台を脱していない。

増税後、キャッシュレス決済を導入した中小店舗は激増した。経産省によれば、最終的にポイント還元制度の登録加盟店数は約115万店に上ったという。当初、政府は40万店程度と予測していたので、大幅に上回る結果となった。

ただ、ポイント還元制度はすでに終わってしまった。今後はマイナポイント事業が始まったとはいえ、これも最大で5000円相当のポイント支給という上限があるし、期間も2021年3月末までの限定となっている。決済サービスごとにお得なポイント還元などもあるが、今後、キャッシュレス決済がこれまでのように促進されていくかは疑問が残る。

増税とコロナ禍の二重苦に苦しむ人や企業は多い。消費者からすれば、どんな形であれポイント還元を受けられるのは大歓迎だが、そのツケを小売店が手数料という形で払っているのであれば、この仕組みが長く続かないのは明白だ。

このままポイント還元などが衰退していけば、いよいよ本格的に消費増税の重みを実感することになるだろう。しかもコロナ禍に出口は見えず、さらなる不況も見込まれる。この二重苦にどれだけの人が耐えられるだろうか。

消費税の減税も一部で議論されているが、減税か、キャッシュレス決済のポイント還元か、いずれにしても長期的な消費税対策がマストで求められる。