新型コロナウイルスの影響で、SNS上では自宅でいかに楽しく過ごすかの「#おうち時間」や、新ドラマの放送延期を受けて様々な過去作が再放送されることで「#再放送希望」というハッシュタグが流行中だ。
そこで、テレビドラマの脚本家や監督などの制作スタッフに精通する「テレビ視聴しつ」室長の大石庸平氏が、外出することを忘れるほど熱中してしまうおすすめのテレビドラマや、再放送してほしい思い出深い作品を紹介する。
今回は医療ドラマ”の第2弾。先日再放送され、コロナと戦う医療従事者の姿と重なり、多くの共感を呼んだ『JIN―仁―』(TBS)が、医療モノにタイムスリップを融合させた作品だったように、スーパードクターの活躍だけではなく、何か新しい要素をプラスアルファした様々な趣向の医療ドラマをセレクトした。
■“青春群像劇”を巧みに融合…『輝く季節の中で』
医療ドラマに“青春群像劇”を巧みに融合させたのが、石田ひかり主演『輝く季節(とき)の中で』(95年、フジテレビ)。医師を目指す5人の医大生が、実習課程の中で成長していく1年間を描いた物語で、朝ドラ『ちゅらさん』(01年、NHK)や『ひよっこ』(17年、同)などで知られる脚本家の岡田惠和氏が手がけた初期作だが、この頃から今に通じる丁寧な筆致を見せている。
普通の医療ドラマの場合、院内の描写が多く閉じこもった世界になりがちだが、この作品は大学病院周辺のロケーションを多用。象徴的な場所にもなっている吹き抜けの図書館など、開放的な映像が気持ちいい。
序盤は仲間との交流や、実習課程の中で出会った患者とのふれあいの中で成長していくエピソードを穏やかに紡いでいくが、後半は関係性の微妙な変化で仲間割れしたり、医師にならなければならない焦りと重圧で押し潰されてしまったりと深刻さが徐々に増していく展開も見どころ。
石田が演じるひたむきでまっすぐな主人公や、中居正広が演じる明るさの裏側にある危うさを秘めた青年など、登場する5人のキャラクターやエピソードがどれも素晴らしく、25年前の初々しい演技も堪能できるが、現在から見た“意外性”という点では、医師を目指す主婦を演じる井森美幸に注目したい。
勉学と家庭との両立に悩み、中盤思いがけない帰路に立たされるという繊細なキャラクターを見事に演じており、バラエティタレントとは違う、立派な役者としての一面を見ることができる。優秀でプライドが高いキャラクターを演じる篠原涼子との友情物語も素晴らしく、最終回に訪れる2人の結末まで感動的な仕上がりだ。
そして、FIELD OF VIEWが歌う主題歌「君がいたから」も印象的。ともすればショッキングな場面にだけ目を向けてしまう展開も、この主題歌のおかげで爽やかな青春ドラマの体裁を保つことに成功している。後半、歌詞に沿うような場面も見せており、主題歌の重要性を改めて感じさせられる作品になっている。
25年前の作品で、時代を感じさせる演出もあるが、今でもタイトル通り“輝き”は色あせていない。VHS版しか存在しておらず、配信もされていないので、ぜひ再放送してほしい作品だ。
■心温まり、癒やされる…『透明なゆりかご』
命の現場を“少女の目線”から描いた点が新鮮だった清原果耶主演『透明なゆりかご』(18年、NHK)もおすすめしたい作品だ。
主人公の女子高校生が、町の小さな産婦人科にアルバイトの看護助手として働き、その中で出会う命の現場を描いた物語。スーパードクターの活躍や、懸命に治療する医師を主人公に据えた作品ではなく、様々な事情をもって産婦人科へ訪れる妊婦とその家族を、少女の目線で描いた点が新鮮で、医療ドラマというよりも人間ドラマに重きを置いた作品に仕上がっている。
さらに画期的だったのは、母子ともに健康に出産できることが当たり前ではないという厳しい現実を正面から描き、その中で悲しい結末が訪れながらも、視聴後感になぜか心温まり、癒やされるという点。
タイトルの通り“透明感のある映像”と、清水靖晃氏が手がける“心洗われる音楽”、Chara歌う“子守歌のような”主題歌(「せつないもの」)など、煽情的にならない真摯(しんし)な演出が癒やしを与える。これによって、目を背けてしまいそうな深刻な場面も、ジワジワと心に染み入り、自然と考えさせられてしまう効果を生み出している。
また、コミュニケーションを苦手とする繊細な役柄を清原がドラマ初主演ながらみずみずしく演じている点にも注目だ。
今作は評価が高く、数々の賞を受賞。昨年の夏に再放送されているが、このドラマの脚本家で、『コード・ブルー ―ドクターヘリ緊急救命―』(第3シリーズ 17年、フジテレビ)や『きのう何食べた?』(19年、テレビ東京)などで知られる安達奈緒子氏は、主演の清原とともに来年春スタートの朝ドラ『おかえりモネ』でもタッグを組むことが決定している。その期待感を高めるためにも、ぜひもう一度堪能しておきたい作品だ。