5月29日、ワーク・ライフバランスが、働き方改革の社内推進に取り組む担当者向けにオンラインセミナーを開催。

コロナ禍においても、オンラインを活用して、積極的に働き方改革や研修を行っている企業の担当者から、働き方改革に取り組む理由や、オンライン研修を成功させるコツなどが紹介されました。本稿では、そのセミナーの一部をお伝えします。

  • テレワークによる課題はありますか?

テレワークの課題は働き方の根本に根ざす

まずは、ワーク・ライフバランスの代表取締役社長の小室淑恵さんが登壇。

「新型コロナウイルスにより、テレワークを余儀なくされる多くの企業では、さまざまな課題が顕在化していると思います。しかし、それはテレワークが原因でなく、根本的に働き方を変えなければいけない時期にきているのが要因です」と、話す小室さん。

その背景には、「日本の『人口ボーナス期』から『人口オーナス期』の急速な移行がある」と、言います。

「人口ボーナス期は、労働力人口が多く、安い人件費で、世界中の仕事を受注することができます。社会保障費も極めて低く、国として儲かったお金は全てインフラ投資に回すことができるので、日本は爆発的な経済発展をして急成長を遂げました。しかし、90年代後半から突入した人口オーナス期では、たくさんの引退世代を少ない働く世代で支えていくため、社会保障制度の維持も困難になっていきました」。

そして、人口オーナス期真っ只中の今、勝ち残っていくためには「働き方を180度変えなければいけない」と、小室さんは指摘します。

「男性ばかりで長時間労働をして、同質性の高い組織を作ることが人口ボーナス期の企業の勝ち方でした。それによって商品・サービスを早く安く大量に提供でき、時間の単価が安いので、残業をしてでも先に納品すれば、利益を生み出せたのです。

しかし、今は若い世代が少なく、しかもほとんどが育児か介護をしながら働くことになります。

そうなると、『長時間労働できる男性』だけに限定してはまったく足りなくなるので、性別にかかわらず多様な人たちをフル活用して、しかも短時間で成果をあげる必要があります。同時に、異なる考えを持った人材がフラットに議論することで、これまで思いつかなかったような発想で、組織にイノベーションを起こしていかなければなりません」。

  • 人口ボーナス期、人口オーナス期の経済発展しやすい働き方 提供:ワーク・ライフバランス社

テレワークでは社員の自律性が大切

こうした時代背景の中で、テレワーク中心の働き方になりつつある今、社員が生産性を上げる鍵は、「時間を自律してデザインしていくこと」だと、小室さんは言います。

「今までは、当たり前のようにオフィスに出社して、職場での徹底したマネジメントにより売り上げを伸ばしてきました。しかし、これからは社員一人ひとりが自分で考えて、高い生産性を生み出せる状態を確保していくことが求められます」。

そのためには、日々の業務で「時間の自律性」をトレーニングすること。

「毎朝、その日の業務を30分単位で組み立て、帰宅前に終わらなかった仕事の要因を振り返る。こういったことを朝と夜にチーム内で共有し、仕事を可視化することで、個々の時間の使い方を学ぶことが可能になります」。

  • 時間自律性をトレーニングする方法 提供:ワーク・ライフバランス社

会社と社員のWin-Win関係を目指して

続いて、オンラインを活用した、先進的な働き方改革を行っている企業の紹介。ここで印象に残ったのは、自動車部品の製造・販売を手がけるアイシン精機の事例でした。

「100年に一度の大変革期を迎えている自動車業界を乗り越えるために、働き方改革に取り組みました」と話すのは、登壇した同社の人事部 グループマネージャー 佐野智弘氏。

「これまでの仕事の質を思い切って変革し、ワークライフバランスの向上を通じて、働きがいのある充実した人生を実現する。そうすることで、新たな価値を創出できるだけでなく、生まれた自由な時間を社員にしっかり還元し、会社と社員一人ひとりがWin-Winの関係になることを目指しました」。

そのために、同社は改革の目的を途中から「働き方改革」から「働きがい改革」に変更しました。

オンライン研修は効果が大きい?

取り組みとして、今年4月初旬に、グループ会社の役員や管理職200~300名を対象にオンライン研修を実施。当初予定していたリアルな集合形式を、新型コロナウイルスのためオンライン形式に急きょ切り替えたそうです。

大規模な研修にも関わらず、短期間で決断し、実現できたのは、どういう理由があったのでしょうか。

「1~2月に50~100名単位のオンライン研修を実施し、運営側に基本的なノウハウが蓄積されていましたし、2019年からコミュニケーションの効率化を実現するためSkypeを導入し、参加者にもオンライン研修を受けるに必要なITスキルが整っていたことが要因としてあります」。

  • アイシン精機のオンライン研修事例 提供:ワーク・ライフバランス社

そして当日の運営では、15分ごとにワークを入れたり、研修中は随時チャットによる意見や感想を受け付け、それらを紹介したりするなど、一体感のある研修を目指したそうです。

「リアル形式だと少ない質問が、チャットを通すとさまざまな質問が寄せられるので、研修効果としては非常に高かったと思います」と、同氏はオンラインに一定の手応えを感じているようです。


「働き方改革」を推進している企業は、今回のような緊急事態でも、留まることなく、むしろ研修などの取り組みを加速しています。個人としても、「時間自律性」のような意識改革が当たり前に求められるので、前のめりで取り組んでみることで、自分を成長させる良い機会になるのではないでしょうか。