複数ある販売チャネルを一本化する方針を打ち出しているトヨタ自動車。これにより、チャネルごとの専用車種は集約が進み、トヨタ車の種類は全体として減っていく見込みだが、その流れに逆行するように増殖しているのがSUVだ。そんなに増やして、バッティングが起こる心配はないのだろうか。

  • トヨタのSUV

    トヨタのSUVが増殖中! なぜカニバらない?

全ディーラーで全てのクルマが購入可能に!

トヨタは「トヨタ店」「トヨペット店」「カローラ店」「ネッツ店」の4つの販売チャンネルでクルマを販売しており、チャネル毎に専用車種を設けることで店舗の差別化を図ってきたが、新時代に向けたサービスの提供を目的に先ごろ、販売ネットワークの改革を決めた。その取り組みの一環として今年の5月から、全ディーラーで全てのトヨタ車が購入可能となっている。

将来的に、販売チャネルは1本化する予定。今後はトヨタ車の車種統合が進む見通しで、ビックネームだったミニバン「エスティマ」とセダン「マークX」はすでに販売を終了している。

  • トヨタ「マークX」

    2019年12月をもって生産を終了した「マークX」

その流れに反して、車種拡大を続けているのがSUVだ。2019年にはミッドサイズSUV「RAV4」を復活させ、新型コンパクトSUV「ライズ」を投入。2020年秋にはヤリスの派生車となる小型SUV「ヤリスクロス」も発売するというから、更なるにぎわいが期待される。

  • トヨタの「ヤリスクロス」

    2020年秋に発売予定の「ヤリスクロス」

現時点でトヨタは、SUVのラインアップを7車種まで増やしている。しかも、ここにレクサスの4車種は含まない。国産他社が3~4車種程度であることを考えると、圧倒的な多さだ。かつてはSUVを得意とした日産も今では、国内に限定すると「エクストレイル」と「ジューク」の2車種しか販売していない。

トヨタSUVの強みは、単に種類が多いだけでなく、SUVだけで大・中・小のフルラインアップが完成されているところにある。簡単にサイズ分けを行うと、次のようになる。

■トヨタのSUVラインアップ

・小型SUVは「ライズ」と「C-HR」。今秋には「ヤリスクロス」も追加
・中型SUVは「RAV4」と「ハリアー」。ハリアーは6月にフルモデルチェンジの予定
・大型SUVは「ランドクルーザー」と「ランドクルーザープラド」。そこに“異色の存在”である「ハイラックス」も加わる

  • トヨタの「ライズ」
  • トヨタの「ランドクルーザー」
  • 小さなものから大きなものまでそろっているトヨタのSUV。左は小型SUVの「ライズ」、右は大型SUVの「ランドクルーザー」

バッティングなし! 完成度の高い車種構成

多彩なバリエーションがそろうトヨタのSUVは、同門でのバッティングを避けた隙のない車種構成となっている。例えば、同サイズでもハリアーとRAV4ではあまりにキャラクターが異なるため、ユーザーのバッティングはほとんどないだろう。

  • トヨタの「RAV4」
  • トヨタの「ハリアー」
  • 同じ中型SUVでも「RAV4」(左)と「ハリアー」(右、6月に発売予定の新型)では全くキャラが異なる

海外には大型SUVにスポーティーな走りを強調したモデルをラインアップするブランドも見られるが、日本国内の状況を考えると、その手のクルマを欲しがるユーザーは海外ブランド志向が強かったりもするので、トヨタを選ぶかどうかは微妙だ。そういう意味で、トヨタの大型SUVが本格クロカンのみの構成となっているのは、ある意味で正しい判断といえる。それに、高級SUVのニーズはレクサスでカバーすることができる。

SUVの購入希望者が、トヨタのラインアップの中から最適な1台を選べる構成となっているのは、見事といえる。自動車販売が厳しくなる中、トヨタのSUV拡充は矛盾しているようにも思えるが、1台のクルマで全ての用事をこなしたいという日本の需要に適したラインアップを、着実に構築しているのだ。まさに、トヨタの生き残りをかけた戦略が、今のSUVラインアップに表れている。

その反面、ニーズが食われ、まだ姉妹車も存在するセダンやミニバンでは整理統合が進むだろう。SUV拡充の帳尻をほかのカテゴリーで合わせることで、最終的にトヨタのモデル数はしっかりと整理されることになる。

著者情報:大音安弘(オオト・ヤスヒロ)

1980年生まれ。埼玉県出身。クルマ好きが高じて、エンジニアから自動車雑誌編集者に。現在はフリーランスの自動車ライターとして、自動車雑誌やWEBを中心に執筆を行う。主な活動媒体に『webCG』『ベストカーWEB』『オートカージャパン』『日経スタイル』『グーマガジン』『モーターファン.jp』など。歴代の愛車は全てMT車という大のMT好き。