2020年7月を目指して準備を進めてきたリコーだが、新型コロナウイルスにも迅速に対応できたという。2月27日に、3月2日から13日にかけての2週間は原則在宅勤務と発表。急なことだっただけに最初の数日は出勤することになった社員がいたものの、ちょうど定例のテレワーク促進日が組み込まれていたタイミングであったこともあり、順調に利用数は拡大し出社抑制ができたという。

「社内ネットワークにはVPN経由で接続しますが、1年ほど前には接続上限数が1万程度だったため利用者が増える中で一度パンクしました。その後段階的に増やし、現在は3万接続に対応できるようインフラを増強しました。グループ関連会社からの利用を含めて、5月14日現在は2万以上がVPNでアクセスしています。テレワーク・デイズなどでオリンピックに備えていなかったら、新型コロナウイルスに対応できなかったと思います」(長瀬氏)

しかし、利用する側に問題がなかったわけではない。これまでテレワークを経験したことがないまま在宅勤務に突入してしまった人の中には、Teamsをはじめとしたコミュニケーションツールの使い方がわからない、マニュアルの記載場所がわからないなど、戸惑いながらサポートに頼るケースも少なくなかった。

「これまでテレワークに積極的でなかった人の中にはITツールに不慣れな人もおり、問合せも増えていますが、チャットボットを利用するなど効率化を図っています。また、不慣れな人がコミュニケーションに課題を感じているところはありましたが、Web会議時には他のアプリは起動しない方がいいなど、利用を重ねるうちにスムーズな利用方法のノウハウができました」(長瀬氏)

PCは一部の開発職を除きノートPCを普段から利用しているため、それを持ち帰って利用している。普段はデスクトップPCを利用している人でも、サブ端末や部署共有のノートPCが存在したため、それを活用した。回線面では、ブロードバンド回線をもたないユーザーにはWi-Fiルータをレンタルしたという。

「独身者などではブロードバンド回線を自宅に引いていない例がありました。社用のスマートフォンは貸与してあり、テザリングも可能ですが、テレワークでずっと利用するような設定にはなっていません。Web会議中に容量制限に達して低速化したなどの問題もあり、Wi-Fiルータのレンタルをしています」(長瀬氏)

開発業務も工夫で対応、業務のセルフマネジメント効果も実感

業務内容によってはテレワークに対応しづらい部分もあるが、例外的な対応やアイデアで乗り切っているという。

「請求書等のやりとりはできるだけ電子データでやりとりするようにしていますが、原本は後から提出する必要があります。取引先との交渉も必要になりますが、いずれ電子システム化できればいいと思っています。開発は実機を見ながら話すことも多いですが、出社人数を最小限にし、出社したメンバーが実機を確認し、他のメンバーはできるだけリモート参加する等の工夫をしています。効率がどうかはわかりませんが、こういうところから業務プロセスの改善に繋がればいいなと思っています」(長瀬氏)

出社抑制という目標に向けて全社的にテレワークを導入していった結果、リモートではできないと思っていた業務に解決方法が見つかるケースもあるようだ。またミーティングも顔を合せて行いたいという声がある一方、Teamsのホワイトボード機能や資料の共同編集機能を利用することで、会議室の後ろに座っているよりも資料が見やすい・発言しやすいという声も出ているという。

「人事としては、ワークライフ・マネジメントが向上し、生産性が下がっているということもないので、いい方向に向いていると感じています。テレワークでは作業前に計画を立て、終了時に進捗報告をすることで自分の仕事をセルフマネジメントすることになります。これが効率的な業務遂行に結びついていると思います。出社して目の前の仕事をなんとなくやっていたのとは違います。ただ、業務によってはテレワークできないという不公平感があります。さらに社内をデジタル化することで、テレワーク可能にしていくことは今後の課題です」(長瀬氏)

緊急テレワークを経て見直す制度

今後、新型コロナウイルスの状況変化にあわせて、企業に求められる対応も変化していくだろう。そうした中、リコーはこれまで以上に長期間かつ大人数が利用するテレワーク制度の活用と見直しを検討しているという。

「今後は段階的に出社率を増やすことになるはずなので、そこに向けた体制づくりをしているところです。その中で、リモートワーク制度の改定も検討しています。たとえば月10日までという制限に戻すのは今の状況では難しいですし、通勤しないのならば通勤手当はどうすべきなのか、リモートワークできる場所の選択肢を増やせないかなどを考えはじめています」(長瀬氏)

リコーにはすでにフレックス制度や時短・短日数勤務の制度も存在するため、平常時でも柔軟な働き方の実現に取り組んできていたが、今後はさらにそれが強化された企業になりそうだ。