長谷川博己主演のNHK大河ドラマ『麒麟がくる』(毎週日曜20:00~)の第20回(5月31日放送)で、風間俊介が初登場。演じるのは、のちに徳川家康となる松平元康だ。幼少期の竹千代役を演じた岩田琉聖、元服した元信役の池田優斗からのバトンを受けとり、悩める若き武将役を好演。戦国武将の真打ちで、策略家というイメージの家康だが、風間が演じる“前身”の元康は、繊細さと青臭さが際立っていた。

  • 『麒麟がくる』第20回の場面写真

風間の大河ドラマ出演は、『西郷どん』(18)の橋本左内役以来2度目。『麒麟がくる』における家康は、戦国三英傑というトライアングルの一片を担う重要な役どころとなる。

風間演じる徳川家康のキャストビジュアルには、“悲運の三河大名”とあるが、子役時代からすでに“悲運キャラ”は積み重ねられてきた。松平広忠の嫡男として生まれた竹千代は、尾張古渡城で織田家の人質となる。

その後は、信長の異母兄である織田信広(佐野泰臣)との身柄交換により、今川家へ。幼少期から、いつ首を切られてもおかしくない政治の“道具”として、敵地をたらい回し状態にされてきた。

そんな環境で育った利発な竹千代は、大人の政治事情を踏まえたうえで、そつなく立ち振るまっていく。世間から“うつけもの”呼ばわりをされていた信長の賢さを見抜き、彼と将棋で真剣勝負を楽しむ一方で、信長の弟である信勝との将棋では、相手が弱すぎて全く手応えを感じないため、わざと負け、信勝の喜ぶ姿を冷めた目で見ていた。

常に戦況を見極めて動くというしたたかさと、ある種の割り切り方は、明日をもしれぬ人質にとっての生き残る術だったに違いない。信長に父の松平広忠を討たれた時も決して悲しまず、父の無能さを口にするという冷徹さものぞかせた。竹千代の登場回数はわずかながらも、将来、天下人となる家康の片鱗をすでに感じさせてきたが、そこを巻き取った風間が、さらにそのキャラを深堀りしていくに違いない。

風間は、優男のイメージが強いが、腹に一物の黒いキャラを演じさせたらピカイチだ。俳優としての出世作は、『3年B組金八先生』第5シリーズで、優等生の仮面を被ったイジメの黒幕、兼末健次郎役で注目される。続いて『それでも、生きてゆく』(11)で演じたサイコパスの少年A役でも高い評価を受けた。

そして、その翌年、早くも朝の連続テレビ小説『純と愛』でタイトルロールを演じ、ジャニーズきっての個性派兼実力派俳優としてのポジションを確立した。

『麒麟がくる』は、主人公が長谷川演じる明智光秀であり、このあと光秀の主君となるのが信長(染谷将太)、光秀の好敵手となるのは豊臣秀吉(佐々木蔵之介)だ。そして、風間がキャスティングされたことで、長谷川、染谷、佐々木たちとの演技合戦が見ものとなる。

ちなみに第19回では、伊藤英明演じる美濃の守護代・斎藤高政(義龍)がまさかの“ナレ死”。時が流れた第20回では、今川義元が虎視眈々と尾張を狙っていることをかぎつけた光秀が、今川に一番近い三河の武士として、松平元康を調略すべきだと、帰蝶(川口春奈)に入れ知恵をするという展開だった。この回では、過去に光秀と竹千代が出会ったエピソードも描かれ、鮮やかに伏線も回収された。

また、ここでも、『麒麟がくる』きっての聞き上手といえる駒(門脇麦)が、元康と交流。元康は、いまだ祖母の源応尼(真野響子)と共に人質となっている身について「なにもかも致し方ない」と嘆きつつ、「時折すべてを投げ出したくなる」と弱音をポロリ。駒が、元康の武運を祈り、薬をお守り代わりに渡したことで、今後も元康とかなり絡んでいきそうな予感だ。

風間は元康役についてこんなコメントを寄せている。「僕が演じる松平元康時代の家康は、まだ何も成し遂げていない青年です。テレビの前のみなさんには、この青年があの家康になるのかと思いながらドラマを楽しんでもらいたいのですが、僕はそう思って演じてはいけない、逆算してはいけないと思っています。演じるのはあくまでも、母と引き離された、逆境に立たされた若き武将です」。

さすがは風間俊介、抜かりはない。第20回を見た限りでは、母への思慕が強調された切ない回でもあった。望月東庵(堺正章)の言うところの「裏表のない」純粋な元康は、計算高い“古狸”といった家康のパブリックイメージとは少し違っていたようだ。これまでにない光秀や信長像に続き、風間が演じる青くてフレッシュな家康像を今後も見守っていきたい。

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