フジテレビのドキュメンタリー番組『ザ・ノンフィクション』(毎週日曜14:00~ ※関東ローカル)では、野良猫や捨て犬など飼い主のいない動物の治療を積極的に行っている獣医師・太田快作さんと愛犬・花子の日々を追った『花子と先生の18年 ~人生を変えた犬~ 前編』を10日に放送する。
構成・演出・プロデューサーの山田あかね氏は、これまで犬や猫をテーマにしたドキュメンタリー作品を数多く手がけてきた人物。このジャンルを追い続ける背景や、犬猫への深い愛情をリモート取材で聞いた――。
■獣医師は犬と飼い主の両方を診るもの
山田氏が、犬猫のドキュメンタリーを取材するようになったきっかけは2010年、自身の愛犬の死だった。
「病気になってしまい、どんなにお金をかけても助けてあげようと思って、東京で一番高いと言われる病院に連れて行ったり、最高の手術ができると聞けば病院を4つくらい転院したりしたんですけど、1カ月でボロボロになって死んでしまったんです」(山田氏、以下同)
その事実に衝撃を受けた山田氏は、国立大学の獣医学部に解剖所見を出してもらい、英訳して、動物愛護の先進国と言われるイギリスに飛び、ロンドンで最高と言われる獣医に見せ、何が間違っていたのかを聞いた。
「そしたら、『日本の動物医療は進んでるから何ひとつ間違っていない。ただ、唯一間違っていることは、獣医師たちのあなたに対する態度だ。あなたが犬を失うことでここまで落ち込む人間であれば、こんな医療をする前に、あなたの心のケアをすべきだった。獣医師は犬と飼い主の両方を診るもの』と言われて、それで考えが変わったんです」
これを機に、イギリスの動物保護施設などを取材し、日本で保護団体を設立することも考えたというが、「長年テレビを作ってきたので、メディアを通して多くの人に現状を見せて、犬猫が少しでも生きやすい世の中になるように発信していきたいと思ったんです」と、15年に映画『犬に名前をつける日』を制作・監督し、現在に至る。
■犬の向こう側に必ず人間がいる
18年に『ザ・ノンフィクション』で放送され、多頭飼育崩壊の問題に取り組む団体を追った『犬と猫の向こう側』で、放送文化基金賞の優秀賞を受賞した際、「犬猫モノに対しては、どこか軽く見られていると思っています」と語っていた山田氏は、ポリシーを持ってこのテーマの取材に臨んでいる。
「私は、犬や猫のかわいさだけを撮ってるんじゃなくて、その周りにいる人間を映しています。特に犬は、2万年前から人間のそばで生きてきたと言われているので、犬を撮るとその向こう側に必ず人間がいて、その人間が見えてくるんです。今回も、花子はもちろんかわいいけど、太田さんの命に向き合う強さや、少しお茶目な人柄を中心に描いています」
太田さんは「獣医師が動物保護の先頭に立つべき」と考え、休みの日のほとんどで、野良猫の避妊去勢手術に出かけたり、福島の被災動物を治療したりしている。それを知った山田氏は「とにかくすごい人がいると思ったら、すぐ取材するようにしています。今回は『ザ・ノンフィクション』で放送されますが、この企画を出す前から撮ってますからね」と明かす。
その方針は、東日本大震災で被災した犬が幸せになっていく過程を追ったドキュメンタリー番組を制作した際の経験から。「NHKで放送することが決まったんですが、打ち合わせをしている間に、その犬が死んでしまったんです。結局、亡くなってしまったことをテーマに番組を制作したのですが、放送枠を待ってると何が起こるか分からないので、『迷ったら撮る』というのを決めています。無駄になってしまうこともいっぱいあるんですが、意外となんとかなるんです(笑)」