ウェブ会議システム・Zoomで観覧する生演劇『オンラインノミ』が、業界で注目を集めている。脚本、キャスティング、稽古、そして本番まで全て、それぞれの自宅からリモートで行い、企画からわずか1週間で公演にこぎつけるという迅速な取り組みで、緊急事態宣言の延長に合わせ、さらなる追加公演と『オンラインノミ2』の公演を行うことが決まった。
企画したのは、“キャンプ芸人”としても活躍するお笑い芸人のスパローズ大和と、『笑っていいとも!』『笑う犬の生活』などを手がけた放送作家の天野慎也。今回の舞台裏について、もちろんリモート取材で聞いた――。
■仕事のなくなった演劇関係者のために
新型コロナウイルスの感染拡大に伴う外出自粛要請で、エンタテインメント業界の活動がほとんど止まっている中、お笑い芸人は動画配信でネタやギャグを、アーティストは歌を披露してファンを喜ばせている。だが、大和は「役者さんは何もできることがないな…」と問題意識を持っていた。
そんな中、今回の『オンラインノミ』の作・演出を手掛けるA・ロックマン(シャカ大熊)とZoom飲み会をした際、予定していた舞台の仕事が全部なくなってしまい、ウーバーイーツの配達員を始めたという話を聞いて、「舞台をそのままZoomでやればいいんじゃないかと思ったんです」(大和)という。
すると偶然にも、Zoomでの婚活パーティーを企画していた天野から、大和にそのMCのオファーの連絡が。それに対して、大和が「Zoomで演劇をやろうと思ってるんですけど、天野さんが整えているインフラでそのままやれませんか? 大熊さんが暇になったって言ってたから、速攻で台本書いてもらったらどうですかね?」と提案し、今回の企画が立ち上がった。
この提案を聞き、「有名な舞台の脚本家や演出家が、絶対1カ月後にやってくるだろうから、どんな状態でも1週間後には上演しないと意味がない」と感じたという天野。大和とともに早速動き出すと、A・ロックマンは2日で台本を書き上げ、役者のスケジュールも調整し、4月26日に本当に1週間で公演が実現した。
■初回公演後に涙したキャスト
ストーリーは、大学が休校中の夏子(加藤亜実)と春海(中冨杏子)が、サークルでZoom飲み会を企画し、部員のLINEグループに声をかけるが、そこへアッコ(今安琴奈)が現れ、予想だにしない話をはじめて…というもの。
急速に普及するZoomだが、役者陣は当初、操作に慣れていなかったため、稽古に入る前には“Zoom講座”が必須。劇中では、5人の出演者がZoom飲みに加わったり退出したりするが、それをすべて管理して操作するのが、春海役の中冨だ。
天野は「彼女はもともとパソコンが苦手な人なんですが、全責任を負ってやってくれています。いつものお芝居と違ってセリフだけじゃないので、初日はプレッシャーでめちゃめちゃ胃が痛かったみたいです。終わった後に泣いてましたからね」と明かす。
■劇場代・舞台セット代も不要
実際に公演を行い、Zoomを使った舞台のメリットを大いに感じている様子だ。「例えば、下北沢の劇場で夜7時に開演する舞台を見に行くとしたら6時から動かなければいけませんが、6時50分から準備しても間に合います。それに、芝居を見ながら食べたり飲んだりできるし、終演後すぐ寝ることもできる。それから、お客さんの感想でうれしかったのは、お芝居が好きなんだけど子供を連れていけなかったのが、一緒に見ても他のお客さんに迷惑がかからないと言われたことですね」(天野)
さらに、作り手側の目線では、役者のスケジュール調整で利点が。「出演できる時間をパズルのように組み合わせていくと、連休中にこの日は絶対できないという何日かあったんですけど、細かく時間を見てたら1時間だけ空いてたんですね。普通の演劇だったらありえないんですけど、『じゃあ行けるじゃん!』となって40分の上演ができたんです」(大和)
本番中にセリフを変更したいときは、LINEで指示を送ることも。「音声が悪いときに、次に入ってくる役者に『音声が悪いよ』というセリフを言うように指示を出して、アドリブで入れているような感じが出せるんです」(大和)。こうした役者の対応力で、毎公演少しずつセリフが変わっているそうだ。
その上、劇場代、舞台セット代もかからず、天野は「すごい革命が起きている気がします」と強調する。