ただ一方で、経済の落ち込みが深刻化しています。これに対応して政府は総額108兆円と過去最大の緊急経済対策を決定しました。対策は

(1)感染拡大防止策と医療体制の整備・治療薬の開発
(2)雇用の維持と事業の継続
(3)次の段階としての経済活動の回復
(4)強靭な経済構造の構築
(5)今後の備え

の5つの柱で構成されています。

メディアでは同対策についてかなり批判的な論調が多いようですが、感情論で論ずるのではなく冷静に分析したいと思います。

私は以前から、第1段階として最優先で感染防止に取り組み、その中で苦境に立つ人たちへの経済的支援をまず緊急に実施し、収束が見えてきた段階で景気全体を回復させる対策が必要と主張してきました。その視点から言うと、上記の5つの柱のうち(1)と(2)が「第1段階」、(3)と(4)が「第2段階」に当たり、その組み立てはきわめて適切です。

さらに、(4)の「強靭な経済構造の構築」では、生産拠点の国内回帰促進への補助や海外サプライチェーン多元化への支援など、中長期的な視点からの対策を盛り込んでいます。

  • 図表1 緊急経済対策の5つの柱

    図表1 緊急経済対策の5つの柱

緊急経済対策の規模についても、当初は「リーマン・ショック時の経済対策(56兆8,000億円)を上回る」とされていましたが、その2倍近くになりました。108兆円という金額規模は日本のGDP(国内総生産)の20%に相当します。

これは世界を見渡しても最大規模です。米国の経済対策は総額2兆ドル(約220兆円)です。やはりリーマン・ショック時を大幅に上回り過去最大の規模ですが、GDPの約10%に当たります。欧州各国の経済対策の多くもGDPの10%程度です。こうしてみると日本の経済対策の規模の大きさが際立っています。

規模だけでなく内容面でも一定の効果が期待できると言えます。多くの人にとって最も身近でメディアでも議論の的となっているのは上記の(2)の緊急支援策です。具体的には、事業継続や生活に困っている人たちへの緊急支援策としては、低所得世帯や収入減少世帯への現金30万円給付、子供手当の臨時増額、中小企業や個人事業主・フリーランスへの給付金(100または200万円)、社会保険料・税金・公共料金の支払い猶予などです。

  • 図表2 主な緊急支援策

    図表2 主な緊急支援策

現金30万円給付は支給基準の大幅緩和を

これに対し「こんな程度ではだめだ」などの批判が上がっています。特に現金30万円給付については特に評判が悪いようです(図表2の1)。

この支給対象となるのが、今年2~6月のいずれかの月の月収が「年間ベースで個人住民税の非課税水準まで減少」または「収入がコロナ以前から半減し、かつ年間ベースで住民税非課税の2倍以下」などとなっていますが、確かにこれは厳しすぎます。支給対象の基準をもっと緩和すべきでしょう。

しかしこうした個別の問題点があるからと言って、対策全体を「だめだ」と言って切り捨て全面否定するような評価を下すのは適切ではありません。対策の中には中小企業や個人事業主への事業持続化給付金(図表2の6)などのように、従来の制度の枠組みにはなかった新規の対策が盛り込まれていますし、社会保険料や税金の支払い猶予もかつてない規模となっています。

このほか、メディアではあまり注目されていない対策もあります。たとえば、個人向け緊急小口貸付資金(図表2の3)。これは緊急経済対策の一環としてすでに3月から実施されているものですが、最大20万円まで無利子で据え置き1年・返済期間2年で借りることができ、その後の状況によっては返済免除も可能というものです。

また日本政策金融公庫の特別貸し付け(図表2の7)は、担保なし・最長5年の元本返済不要・当初3年間は実質無利子で、複数回の利用も可能という制度です。これも3月から実施していますが、同公庫には申し込みが殺到しているそうで、今回の緊急経済対策ではこの融資制度を民間金融機関でも創設することを盛り込んでいます(図表2の8)。

これらのそれぞれ1つ1つの対策だけでは対象が限られていたり、金額が十分でなかったりするかもしれませんが、それらによって救われる人が多数存在するという事実を忘れてはなりませんし、全体として一定の効果を上げることは間違いないところです。こうした点は正当に評価されてしかるべきでしょう。

ただ、これで十分と言えないことも事実です。支給対象の基準緩和(例:前述の収入減少世帯への30万円給付)、給付金額の引き上げ(例:中小企業や個人事業主への事業持続化給付金)など、改善すべき点がありますし、今後もし感染収束が長引けば、経済対策もこれでは足りなくなる可能性があります。今回の対策は、前述の支給対象の条件(2~6月のいずれかの月)などから察すると6月頃までを想定しているようですが、その後も感染拡大が続けば「第1段階」が長引くことになり、緊急支援策の追加が必要となるでしょう。景気回復に向けた「第2段階」も後にズレ込むことになります。

だからこそ、感染拡大防止に全力を挙げることが何よりも重要なのであり、それが経済的打撃を和らげることにもなるのです。