着脱式バッテリー「モバイルパワーパック」を採用したホンダの電動スクーター第2弾モデル「BENLY e:」(ベンリィ イー)シリーズが、間もなく公道デビューを迎える。法人向けに4月24日(金)より販売開始となる同車の実力を試乗して確認してきた。

  • ホンダの「BENLY e:」

    ラヴィドライビングスクール蒲田(東京・大田区)で開催された試乗会で「BENLY e:」の乗り味をじっくりと堪能してきた

ビジネスユースをターゲットに据えた理由とは?

自動車業界同様、二輪の世界にも電動化の波は確実に押し寄せている。その中で、電動二輪の課題といわれているのが1充電あたりの走行距離だ。

電動二輪は都市部での“ちょい乗り”に優れている半面、クルマのように大きなリチウムイオンバッテリーを搭載することが難しく、長距離走行を苦手としている。人によって目的地が異なるパーソナルユースを考えた場合、出先で充電できる施設が充実している状況が望ましいが、現状を見ると、理想的なインフラの整備状況には程遠い。また、再スタートに必要な充電を終えるのに、どれくらいの時間がかかるのかという問題も当然出てくる。

  • 個人と商売で異なる二輪車の使用用途

    目的地がユーザーによって異なるパーソナルユースと、ルートを巡って店舗に戻るビジネスユースの使用用途の違いにホンダは注目した

そこで導き出された解が、ビジネスユースに的を絞った電動スクーターの商品化だった。一般的に、パーソナルユースと比べて1台あたりの走行距離が長いとされるビジネスユースだが、走行ルートは決まっている場合がほとんどなので、充電スポットを整備しやすい。例えば、商品の配送で定常的なルートを回る場合であれば、充電スポットは店舗に1カ所のみ整備すれば済む可能性がある。

充電時間も、着脱式のモバイルパワーパックであれば問題にならない。配送を終えて帰ってきた電動スクーターは、バッテリーを充電済みのものと交換すれば、すぐに次のルートへと向かうことができる。

こういった条件を踏まえれば、電動スクーターはビジネスユースにぴったりな乗り物だと思えてくる。BENLY e:シリーズは70万円超と普通のスクーターに比べればかなり高額だが、業務にエコで経済的な乗り物を使いたいという企業のニーズは見込めそうだ。

働くバイクとしてブラッシュアップ

さしあたって問題となるのは、どれぐらいの性能を備えていればいいのかという点だ。ホンダはBENLY e:シリーズを開発するにあたり、商用二輪車の使い方を検証。車速に関しては時速30キロ以下での使用が8割以上、半日あたりの走行距離は平均約20キロ、最長でも約30キロとのデータを得ていた。大雑把にいってしまえば、1回の充電で時速30キロ以下の走行を30キロ以上続けられれば、電動二輪はビジネスユースに耐えうる乗り物となる。

  • ビジネスユース向け電動二輪に求められる性能
  • ビジネスユース向け電動二輪に求められる性能

    ホンダの調査結果によって明らかになったビジネスユース向け電動二輪に求められる性能

その検証結果を踏まえ、あらためてBENLY e:のスペックを見てみたい、まず、車両サイズはベースとなったガソリンモデル「BENLY」(ベンリィ)とほぼ同寸法。すでにビジネスユースで活躍している取り回しのしやすいコンパクトなボディーサイズを継承している。

  • ホンダの「BENLY e:」

    「BENLY e:」シリーズは50cc相当の「BENLY e: Ⅰ」(73万7,000円)と100cc相当の「BENLY e: Ⅱ」(74万8,000円)にそれぞれプロモデルが加わり、全4種類のラインアップとなる。写真は「BENLY e: Ⅰ」

次はシステムの確認だ。EVシステムはホンダの電動スクーター第1弾モデル「PCX エレクトリック」と同様、モバイルパワーパック2個を直列に接続する96V系を採用。定格出力0.58kWの「BENLY e: Ⅰ」の最大出力は2.8kW(3.8ps)/3,000rpm、最大トルクは13Nm/2,000rpm、定格出力0.98kWの「BENLY e: Ⅱ」は最大出力4.2kW(5.7ps)/3,900rpm、最大トルク15Nm/1,500rpmとなっている。

  • ホンダの「BENLY e:」

    モバイルパワーパックは車体に対して横に2個並べた配置に

  • ホンダの「BENLY e:」

    重量はモバイルパワーパックが1個10.5キロで、専用充電器が6キロだ。1セットあたり約17キロとなるため、持ち運ぶとなると少ししんどそうな印象

BENLY e:はコンタクターを介してPCU(パワーコントロールユニット)に電力を供給し、そこから三相交流(電流または電圧の位相が異なる3系統の単相交流を組み合わせた交流)でモーターにエネルギーを送り込む仕組みだが、ポイントは三相交流にベクトル制御を採用したこと。これにより、エネルギーロスが少なくてなめらかな出力を実現できたという。

  • ホンダの「BENLY e:」

    長期間の使用を想定し、アルミ製のモーターケースとモーターカバーを新たに製作。モーターをユニット化した。ステーターとローターが分割した構造を持つ「PCX エレクトリック」と比べ、メンテナンス性が格段に向上しているのはいうまでもない

気になる1充電あたりの走行距離だが、「BENLY e: Ⅰ」は積載量30キロの状態で87キロ(時速30キロでの定地走行テスト)、「BENLY e: Ⅱ」は積載量60キロで43km(時速60キロでの定地走行テスト)となっている。この数値はカタログスペックのため条件によって前後するが、いずれにしても、ビジネスユースに耐えられるだけの必要十分な性能を備えていると考えていいだろう。

試乗してわかった電動スクーターの魅力

試乗会では「BENLY e: Ⅰ プロ」に乗ることができた。プロモデルは標準モデルと基本的には同じ性能だが、大型フロントバスケット、大型リアキャリア、ナックルバイザー、フットブレーキが標準装備となっている。

  • ホンダの「BENLY e:」

    プロモデルが標準装備するフットブレーキ用コンビブレーキ。フロントブレーキと連動させた新システムだ。フットブレーキを踏み込むことで、前輪にも適切な制動力が配分されるのだとか

さっそくまたがってスタータースイッチをプッシュ。始動音はほとんど聞こえない。エンジンの吹け上がる音がしないのは寂しい気もするが、ビジネスユースには静粛性も重要ということで納得した。

その後、ラヴィドライビングスクールの教習コースを試走したが、S字カーブでの操作性は高く、坂道発進も難なくこなすことができた。乗り味は快適そのものだ。直線でアクセルを全開にしてみると、実にシームレスな加速を体感できた。

そして驚いたのが、ハンドルのボタン操作でモーターを逆回転させ、車体をバックさせる後進アシスト機能。これまでもホンダのフラッグシップツアラー「ゴールドウイング」など、ごく一部の車両には搭載されていた機能だが、体験するのはこれが初めてだった。

  • ホンダの「BENLY e:」

    EVシステムが起動中で車両が停止状態にある時、左ハンドル部のリバーススイッチと右ハンドル部のスタータースイッチを同時に押すことで後輪アシスト機能を起動できる。スイッチを離すと同機能は停止する

二輪がバックすることになんとなく違和感を抱きながらも、簡単なボタン操作でスッとバックした時には正直、感動した。ビジネスユースでは、リアに大量の荷物を積載した状態で取り回すシーンも想像できる。ライダーの疲労軽減まで考えた心憎い機能といえるだろう。

  • ホンダの「BENLY e:」

    ボックスの装着を想定したフラットなリアデッキ。「BENLY e: Ⅰ」と「BENLY e: Ⅰ プロ」は30キロ、「BENLY e: Ⅱ」と「BENLY e: Ⅱ プロ」は60キロまで積載可能なので、後進アシスト機能は重宝するはずだ(写真は「BENLY e: Ⅰ」)

わずかな試乗時間ではあったが、その魅力を存分に感じさせてくれた「BENLY e: Ⅰ プロ」。ホンダによれば、使用済みモバイルパワーパックの回収や充電場所の問題などがあるので、現時点で早期の一般販売は予定していないとのことだが、裏を返せば、環境さえ整えばすぐにでも一般販売ができるということでもある。

昨今の電動化の流れを考えれば、電動車が二輪の主役になる日もそう遠くなさそうだ。「BENLY e:」は、その時が待ち遠しいと思わせてくれる1台だった。

著者情報:安藤康之(アンドウ・ヤスユキ)

フリーライター/フォトグラファー。編集プロダクション、出版社勤務を経て2018年よりフリーでの活動を開始。クルマやバイク、競馬やグルメなどジャンルを問わず活動中。twitter:@andYSYK。