進化が止まらない、現代の缶コーヒー事情

――BOSSといえば、1992年に発売されたときに矢沢永吉さんがCMに出たことが話題になりました。「永ちゃんがサラリーマンの格好でCMに出てる!」と思って、まんまとBOSSのコーヒーを飲むようになったんですけど(笑)。

野口:ははははは、ありがとうございます。矢沢さんのファンの方でBOSSを飲んでいるという方はいまだにすごく多いですね。

――逆に、その頃まで缶コーヒーの味ってそれほど意識して飲んでいなかった気がするんです。今では味にも色んなタイプがありますよね。そうした変遷について教えていただけますか。

野口:昔は、さきほどの話にも出たように、エナジードリンク的な飲まれ方もしていたと思うんですけど、近年はどちらかというと、すっきりした味が増えていると思います。2月4日に新商品「ボス ファイブミニッツコーヒー」が発売されたのですが、パッケージも"男らしいコーヒー"というよりは、少し軽い気持ちで、休憩がとりたくなるような世界観のものを作ったんですけど、苦みも押さえて甘みも控えてますし、味も相当軽やかなんですよ。味も色々と試しながら、「この容量×コーヒーの味わい」で休憩するのが一番心地よい、というところを捉えに行こうと思っています。同じ缶コーヒーでも、ずっと同じ味ということでは、新しいお客さんにはアプローチできないんだろうなということもあって、そのあたりを考えて商品開発しています。

  • 新商品の「ボス ファイブミニッツコーヒー」。軽い味わいで飲みやすい

――昨年発売された「カフェ・ド・ボス ふんわりカプチーノ」・「カフェ・ド・ボス ほろあまエスプレッソ」を飲んでいる人をよく見かけるのですが、反響はいかがですか?

野口:発売したときの反応は、ここ最近の缶コーヒーの中ではトップクラスでした。トライアルしてくださった方も40代50代の男性とかではなくて、それこそ20代とか、街中で女子高生が飲んでくれていたりとか。「ボスの缶コーヒーがインスタに載ってるぞ!?」という、今までにない体験をしました(笑)。パッケージも、レトロっぽい感じがかわいいとか言ってもらえて。出しようによっては、缶コーヒーでもまだまだ新しいお客さんっているんだなって気付きました。その流れも感じながら、これからも色んな提案をしたいなという思いがあります。

  • 発売したときの反応は最近の中でトップクラスだったという「カフェ・ド・ボス」シリーズ

――近年、カフェが増えたり、コーヒーのトレンドが変化していることもこうした商品が誕生する背景に影響を与えているのでしょうか。

野口:それこそ、コーヒーの淹れ方から、エスプレッソが流行ったり、サードウェーブコーヒーと呼ばれるコーヒーが人気になったりとか、流れとしては色々あるんですけど、その中で缶コーヒーとして描くとしたら、こういう切り取り方がお客さんにとって魅力的に映るかなというのは、考えています。ただ、トレンドには敏感ではあるんですけど、急にこの見た目の缶コーヒーのまま、「最新のサードウェーブコーヒーです」みたいに出しても、たぶん上手くいかないだろうなと思います。だいぶ前ですけど、写ルンですが女子高生に流行るとか、チェキが再ブームになったりというのを見ていると、少しレトロな世界観をあえて出すことが、逆に新しく見えるみたいなことが、缶コーヒーっぽい切り取り方かなと思ったんです。そういう意味で言うと「カフェ・ド・ボス」は、ちょっと昔の喫茶店感も残したカフェを意識して作った商品ですね。

――缶コーヒーは男性の方が飲むイメージがありますけど、こうした商品は女性にも好まれているようでしょうか。

野口:そうですね。商品やジャンルによっても違うんですけど、もともと缶コーヒーは男性の方が多い傾向が強いです。ただ、「カフェ・ド・ボス ふんわりカプチーノ」は見たこともないぐらい、かなり女性の方に手にとってもらえたので、なかなか珍しかったですね。

"働く人の相棒"であり続ける、缶コーヒーの魅力

――そうした多様化した市場の中で、缶コーヒーのメリットや魅力ってどんなところに感じてもらいたいですか?

野口:容量的にも、味わい的にも、ちょっと休むのに良い飲み物だよっていうところですね。みなさん忙しいと思うんですけど、5分と言わず3分もあれば飲めちゃうものなので、ちょっとした休憩を取る方が、仕事も良い結果が出るんじゃないかなっていうことも含めて、そういうときにピッタリな飲み物だと思います。カフェ気分とか、5分間ぐらいとか、男らしくとか、色々タイプはあるんですけど、総じてこのカテゴリーはそういう休憩を取るというスタイルが、働く人たちにとって、「意外といいものじゃないですか?」ということが伝わってほしいなと思っています。すごく細かいことですけど、飲んでいるお客さんに聞くと、缶を開けるときの「ガコッ」っていう音とか、ゴミ箱に捨てて「よし、やるか!」っていうスイッチを切替える一連の流れの含めて良いって言ってくださる方もいるんですよ。仕事に気持ちを切り替えるためのリズムというか、メリハリが付けられる缶コーヒーもたまにはいいよって伝えたいですね。描き方次第では、もう少しそういうところに興味を持ってくれる方はいるかもしれないなというのは、諦めずにやりたいことです。

  • 缶コーヒーへの熱い想いを語ってくださった野口さん。その言葉からはコーヒーへの深い愛情が感じられる

――ちなみに、缶コーヒーとタバコって、休憩のセットだったイメージもあるんですが、喫煙者が減ったり喫煙場所がなくなっているいま、影響はありますか。

野口:厳密には測りきれないところはありますけど、やはり影響はあるとは思います。ただ、良し悪しだと思っているんです。というのも、タバコの相棒として缶コーヒーを飲むという方もいれば、タバコがなくなったので何で休んだらいいのかわからない、口寂しいというときに、タバコを吸っていた頃に飲んでいた缶コーヒーを飲むかって、ちょっと飲む量が増えている人もいるので、上手く捉えられたらプラスにもなるかなと思っています。

――そういう意味で言うと、糖質オフやダイエットを気にして缶コーヒーを避ける人がいる一方で、疲れたときに糖分を手軽に取れるという考え方もできますよね。

野口:おっしゃる通りで、どうにもこうにも欲するときがあるような味わいだと思いますので。でもやっぱり、その中でも微糖タイプのものとかブラックよりのものの方が、徐々に売り上げの構成としては増えているので、そこのフィットさせていかなければないけないということは感じています。

――色々なタイプのコーヒーがあることで、幅広い世代にアプローチできることも、ボスの缶コーヒーの強みですね。

野口:そうですね。色々な職業、働き方、モードに合わせてとなると、数は増えますけど、柔軟に幅広く寄り添えるのが一番かなと思っているので、そう感じてもらえたらいいですね。

――ところで、セブンイレブンに行くと、セブンプレミアムとボスがコラボした缶コーヒーが売っていますよね。あれは「関東・甲信越」の味だけでなく、色んな地域の味があるんですか?

野口:「7つの地域、7つの味。」を、スタンダードタイプと微糖タイプで発売しているので、全部で14種類の缶コーヒーがあります(※北海道、東北、関東・甲信越、東海・北陸、関西、中国・四国、九州・沖縄の7テイストが販売されている)。セブンイレブンさんが、「地域密着、近くて便利」をコンセプトに打ち出しているので、それを踏まえて「微糖でもこの地域はこれぐらいの微糖が好き」とか、全国で味わいの分析をして、同じ商品で味を変えて地域ごとに販売しています。

――へえ~! すごいですね。甘党な地域とかあるんですか?

野口:ありますね。スタンダードで多いのは、関西エリアです。昔から、甘いカフェオレが好まれていたりするので。逆に関東の人ほど、カフェとかコンビニでコーヒーを飲む機会が多いので、できるだけ甘くない微糖が良いとか、地域によって嗜好はあるんです。

――自動販売機での缶コーヒー販売の特徴や戦略について、教えてください。

野口:そもそも缶コーヒーが広まった経緯から考えても、自販機と缶コーヒーは切り離せないです。今でも自販機が半分ぐらい割合を占めるんですけど、同じ自販機でも置いてある場所、エリア、季節によって全然売れる商品が違うんです。一番強いところで言うと、工場の中とか、サービスエリアだと、他の何倍も缶コーヒーが売れることもあります。季節で特徴的なのは、圧倒的に冬ですね。飲料は全般的に、喉が渇いて飲むものですから、夏が強い商品が多いのですが、缶コーヒーは冬に強いです。大事なカテゴリーなので、うちの自販機としても、缶コーヒーは幅広いラインナップを入れていますが、ずっと入れておけば良いというものでもなくて、売れる時期に少しラインナップを増やすということはきめ細かくやっています。ボスは自販機限定とか季節限定商品が多いので、「このロケーションに置く缶コーヒーはこういう味であるべきだ」とか、「こういう人たちが喜ぶ見た目であるべきだ」ということは、場所、エリア、季節まで含めて掛け算でイメージして出し分けてます。自販機の缶コーヒーというのは、一番大事な接点だと思っていますので、働く人たちの顔はだいぶ細かくイメージして出し分けています。

――例えば駅1つとっても、屋内と屋外だと商品が違うということですね。

野口:屋内、屋外は一番違いますし、同じ屋内でもビルと工場では全然違ったりします。本当は1つ1つ違うので、1つ1つの自販機で変えたいところですけど、限界がありますので(笑)。ある程度イメージして作っています。

――今後、缶コーヒーの展開にはどんな戦略・展望を考えていらっしゃいますか。

野口:ちょっと前までは、「缶コーヒーのお客さんはこういうお客さん」ということが、すごく狭かった気がするんです。いまは、幅広い方々に受け入れてもらえる可能性がありそうだなという思いはあります。もちろん、昔から缶コーヒーを支えてくれている人々のために、というのはおろそかにしないので、例えばCMのテイストひとつとっても大きくは変わらずにやっていくんですけど、絆を深める方と、新しい絆を作る方、今まで飲んだことのない方々にも飲んでもらおうということを両方やろうという意識はなくしちゃいけないなと思っています。ボスはずっと、"働く人の相棒"というブランドコンセプトがあるので、缶コーヒーでちょっとでも休憩を取って、「頑張って働くか!」と思ってもらえる人が一人でも増えたらいいなと思っています。