昔から、働く人の休憩のお供といえば、缶コーヒー。働き方改革の浸透もあり、その存在感が見直されている。ペットボトルコーヒー等、さまざまなコーヒー飲料が市場を賑わせるいま、なぜ缶コーヒーの人気が再燃しているのだろうか。1992年の発売以来、"働く人の相棒"として愛されているコーヒー『BOSS』を販売するサントリー食品インターナショナルを訪れ、ブランド開発事業部の野口裕貴さんに缶コーヒーの魅力や今昔のトレンドなどについて伺った。
缶コーヒーの人気再燃は「働き方の変化」も影響
――まず、現在の缶コーヒーを取り巻く状況から教えてもらえますか?
野口:ペットボトルコーヒーの発売以降、なかなか販売が苦しい時期というのもあったんですけど、また少しずつお客様が戻ってきている感じはあります。ペットボトルコーヒーは量が多いので、ゴクッと飲み干して「よし、次! 」というよりは、1日ペットボトル1本でもってしまうような方もいるぐらい、ちびちびだらだら、働きながら飲めるというものなのですが、逆に缶コーヒーには缶コーヒーの良さがあるということかと思います。
――ペットボトルコーヒーにはキャップがついている、ということも大きいですよね。
野口:そうですね。量が多くてキャップができて、味も軽やかなので、長く飲めるんですよね。働き方改革によって早く帰れるようになった方も多いと思うんですけど、それで日中の仕事の量が減るわけではないので、密度濃く忙しくされている方々が、快適に働けるためのものとして、受け入れられているのかなという気がします。ただ、なかには休憩をとる時間もあまりないという方もいて、席を立つ理由じゃないですけど、自販機に行って、缶コーヒーを買ってゴクッと飲んで、5分ぐらいちゃんと休んだ方がむしろ働きやすい、休憩したいという需要が高まっているんじゃないかという感覚はありますね。2019年9月に「カフェ・ド・ボス」という商品を出して「この惑星では、働かないと、サボれない。」というコピーのCMを流したときに、ネット上で「サントリーさん、いいこと言った!」みたいな声がすごく広まって、驚いたんですよ(笑)。単純に、サボれるって働いてる証拠だよっていうことだったんですけど、すごく反響があったんです。思った以上に、"仕事中にひと息つく"ということを欲している方がいるというのが、缶コーヒーの人気が戻ってきている理由なんじゃないかなと思います。
5分間で飲み切れるサイズ感も人気再燃の理由に
――もっと昔からの缶コーヒーのトレンドの変化でいうと、どんなことが挙げられますか?
野口:缶コーヒーは、1960年代ぐらいからあったのですが、高度経済成長期の流れの中で、一気に広まった飲料だったんです。それこそ現場作業員の方々やタクシードライバーといった体を使う方々にとって、砂糖があって牛乳の脂肪分があり、カフェインがあって、まさにエナジードリンクのように飲まれていたんです。近年はカフェもコンビニもありますし、コーヒーとの接点が増えた分、缶コーヒーも体を使う方々だけの飲み物ではなくなっているというか、幅広い方々が飲むようになって、トレンドが変わってきているんだと思います。
――缶コーヒーってすごく昔はもっと長い缶でしたけど、それが短い缶になったり、容量の変化もありますよね。ペットボトルコーヒーも量は多いですが、どういった需要の違いがあるのでしょうか。
野口:RTDコーヒーとしてはペットボトルの前に、量の多いボトル缶に人気が集まった時代があります。ただ、単純にいつでも量が多ければ売れるという問題でもないんです。比較的この辺の世界観って、コーヒーの量が多いというお徳さで動く方も多いんですけど、味わいも結構濃いんですよ。「本格的なコーヒーが飲める」というイメージがボトル缶のコーヒーにあるので、また捉えている気持ちも違ったのかなって思います。今は飲まれるスタイルもさまざまあって、500mlのペットボトルをちびだら飲むスタイルが合っている方と、昔から缶コーヒーで甘くて濃い味わいを飲んで5分間休むっていうスタイルが合っているという方。色んなコーヒーが出てみなさん色々と試された結果、自分にしっくりくるものが個人によって分かれているというか、働き方によってコーヒーの組み合わせが分かれてくる時代なのかなって思います。
――自販機に買いに行って5分間で飲み切れるサイズ感も、缶コーヒー人気が再燃している理由なのでしょうか。
野口:そう思います。30円ぐらいの違いで大きいペットボトルコーヒーがあるんですけど、それでもこれだけ飲んでくださっている方がいらっしゃるんですよね。とくに外で働いている方なんかに聞くと、缶コーヒーはホットが人気なので、持ち歩いたところで次に飲めるタイミングにはぬるくなっちゃうから、温かいうちに飲み切れる分だけいま飲めればいい、次の休憩にはまた温かいものを飲みたいという方が多いんです。仕事が忙しくて休憩が取りづらい中で、休憩が取れるところだけは最大限休めるコーヒーがほしいとなると、意外とこの量も悪くないという空気があるんだなっていうことを最近すごく感じます。