ポルシェの新型「911 カレラS」に試乗してきた。乗り込んだ時には先進的な内装に驚いたが、クルマ自体の構造は、高出力のエンジンを後輪車軸の後ろに置く伝統の「RR」を採用している。なぜRRなのか。そして、新型の乗り味はどうなのか、2回に分けてお伝えしたい。

  • ポルシェの新型「911」

    新型「911」も採用する伝統のRRレイアウトは、どのようにして生まれたのか(写真は911 カレラ4S)

初代ビートルがルーツ?

ポルシェ「911」は1964年に誕生した。後輪駆動で、その後輪車軸の後ろ側にエンジンを搭載する手法は、初代の発売から56年を経た今日もなお変わっていない。このレイアウトは、リアエンジン・リアドライブであるため「RR」と称される。車体前方にエンジンを搭載しないので、ボンネットフードは低い。左右のヘッドライトが持ち上がった姿も、永年にわたりポルシェ911を象徴する。

  • ポルシェの「911 カレラ2 type964」

    低いボンネットと飛び出した目玉は「911」の伝統的なスタイルだ(画像は911 カレラ2 type964)

ポルシェ911は、その前の「356」と名付けられたオープンスポーツカーの後継として開発された。356はフェルディナント・ポルシェ博士の長男であるフェルディナント・エルンスト・アントン(愛称:フェリー)・ポルシェらが設計・開発したクルマで、1948年に生まれた。

第二次世界大戦前、フェルディナント・ポルシェ博士は小型乗用車の製作に熱心であり、戦後のフォルクスワーゲン「タイプ1」(通称:ビートル)に通じる開発を行っていた。そうした経緯もあり、356はポルシェ博士の作ではないものの、タイプ1の技術的構想を受け継ぐスポーツカーとして誕生した。それを継承した911が、今日もRR方式を最大の特徴として引き継いでいるのである。では、なぜRRなのか?

  • ポルシェの新型「911」

    RRにすることで得られるメリットとは何か

911に見る重いエンジンの上手な活用方法

世界で唯一、速度無制限区間のあるドイツの高速道路「アウトバーン」は、1913年から1921年にかけてベルリン郊外に自動車専用道路として建設されたのを始まりとし、1929年にアウトバーンの名称がつけられた。その後は1933年に首相となったアドルフ・ヒットラーによって、ドイツ全土を網羅する高速道路網の建設が推進されたのである。当時、メルセデス・ベンツとアウトウニオン(現在のアウディ)によって最高速度記録が競い合われた際には、アウトバーンの一部区間が用いられた。

米国では、1907年に世界で最初の高速道路であるフリーウェイ(インターステイトハイウェイ=州間高速道路)が建設されたが、それらには時速75~80マイル(時速約121~129キロ)の速度規制があった。したがって、アウトバーンの速度無制限は特異な例である。そうした高速走行が必要とされる環境下において、ましてや戦後間もない時代でもあった中で、ポルシェがRRを採用したことには技術的な意味があったと推測される。

ひとつは、空気力学の側面だ。いわゆる流線形とは異なるが、ポルシェ911の姿は車体前半が薄い造形で空気を切り裂くような格好であり、客室から後ろは流れるように絞り込まれていく。この形状を実現できた背景には、RRのレイアウトだけではなく、空冷エンジンの採用もあった。現在の911は水冷エンジンだが、空冷エンジンではラジエーターを車体前部に搭載せずに済む。これが、ボンネットフードを低く造形するのに役立つのだ。

もうひとつは、走行性能の部分である。リアエンジンのクルマでは、エンジンの重さが後輪に乗る。荷重を掛けることで、後輪のグリップ(接地性)を高めることができるのだ。タイヤ性能を出し切ることは、高速走行時の安定性向上につながる。

  • ポルシェの新型「911」

    重いエンジンを後ろに積むことで、911にとっては駆動輪である後輪の接地性が高まる

例えば後年、ポルシェを含むスポーツカーやスポーティーな車種で見かけるようになる車体後端のウイングは、速度が上がっていった際、後輪に空気の力による荷重をもたらすことで、タイヤのグリップを高める目的で装備されている。

クルマは、速度が上がるほど車体が浮き上がるような空気の力(揚力)を受けるため、タイヤの路面への接地力が薄れていく。それを抑えるのがリアウイングの役目だ。

いずれにしても、駆動を担うタイヤに荷重を掛けることは、より速く、しかも安定して走るために不可欠な要素である。RRであることは911にとって、後輪をしっかり接地させることに役立った。

当時はまた、今日のようなラジアル構造で扁平な高性能タイヤが必ずしも完成の域に達していなかったので、エンジンの重さを利用してタイヤ性能を引き上げることには大きな意味があった。ポルシェ911はもちろんのこと、フォルクスワーゲンのタイプ1にとっても、アウトバーンを高速で走ることを考えると、後輪の接地性能を高めることは安全上、重要な課題であったはずだ。

しかし、50年以上も前の技術水準から必要とされた911の構成要素が、今日なお必要であるかどうかには議論の余地があるかもしれない。したがって、ポルシェも歴史の中で、ミッドシップ(前後輪の車軸の内側にエンジンを搭載)の「914」や「916」、あるいはフロントエンジン・リアドライブ(FR)の「928」「944」「946」といった車種開発も行ってきた。だが、結局911は、伝統的なRRのままで進化を遂げることになった。同時に、ミッドシップの「ボクスター」や「ケイマン」といった車種も新たに追加され、品ぞろえを充実させている。

  • ポルシェの新型「911」

    ポルシェはさまざまなエンジンレイアウトのクルマをラインアップしているが、新型「911」は伝統のRRを継承した

伝統を守りながら進化を続ける最新の911に改めて試乗してみると、時代を超えて伝承されてきたスポーツカーとしてのポルシェの神髄に触れる思いにさせられた。次回の記事では、試乗で感じたことを詳しくお伝えしたい。

著者情報:御堀直嗣(ミホリ・ナオツグ)

1955年東京都出身。玉川大学工学部機械工学科を卒業後、「FL500」「FJ1600」などのレース参戦を経て、モータージャーナリストに。自動車の技術面から社会との関わりまで、幅広く執筆している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。電気自動車の普及を考える市民団体「日本EVクラブ」副代表を務める。著書に「スバル デザイン」「マツダスカイアクティブエンジンの開発」など。