カーマニア垂涎の空冷エンジン搭載ポルシェ「911 カレラ2 (type964)」(以下、964型911)に安く乗れる20代限定のレンタカーサービスが始まったと聞いたので、取材してきた。“若者のクルマ離れ”に歯止めをかけるには、魅力的なクルマを安く貸し出すのが一番なのかも……。そんな気がする体験試乗だった。

  • ポルシェ「911 カレラ2 (type964)」

    レンタルできるのは、このクルマだ

ポルシェが1泊2日で2万円ちょっと?

中古輸入車の買い取り・販売などを手掛けるカレント自動車は、ネオクラシックカー専門のカーシェアリング「カレシェア」で新たな取り組みを始めた。20代限定で、事前にレクチャーを受けてもらうことを条件に、ポルシェの964型911を3割引きで貸し出すというサービスだ。

  • ポルシェ「911 カレラ2 (type964)」

    ポルシェ「911 カレラ2(type964)」は、911で初めて一般的なトルコン式オートマチックトランスミッションを採用したクルマ。生産終了から20年以上が経過しているが、今でも人気のモデルだ

料金プランは通常で45分5,400円、10時間(1DAY)19,800円、24時間(1泊2日)29,800円、48時間(2泊3日)45,800円。以降は1日ごとに19,800円かかる。延長は1時間5,400円だ。この価格が、レクチャーを受けることで3割引きとなる。あのポルシェが1泊2日で2万円ちょっと……。カレント自動車 WEB事業部の齊藤優太さんは「この価格だと、やっぱり身近になってくるので、乗りやすいと思います。国産車のコンパクトカーを借りても、1泊2日だと結構、いい値段しますよね。ほかの輸入車レンタカーと比べても相当、安いのではないかと思います」とする。

  • ガレージカレントの店内

    レンタカーの拠点となる「ガレージカレント」(神奈川県横浜市青葉区)。たまプラーザ駅からバスで10分くらいのところだ。並んでいるクルマは取材日(2019年7月12日時点)のものであり、すでに入れ替わっている可能性もある

なぜ、こういうサービスを始めようと思ったのか。20代のクルマ好きである齊藤さんは、「クルマに興味・関心を持っていない友達が結構いますし、クルマは『乗れればいい』という声も聞きます」と話を切り出した。

「まず、ポルシェに触れる機会って、少ないですよね。クルマに興味を持って、ポルシェというメーカーを知って、カッコいいな、乗ってみたいなと思ったとしても、ディーラーに行けるかどうかというと、なかなか難しい。目の前まで行けたとしても、敷居が高くて入れないのではないでしょうか。私自身、そういう経験をしています。その敷居を下げて、いいクルマに触れる機会を増やしてあげられたら、そんな思いで始めました」(以下、発言は齊藤さん)

  • ポルシェ「911 カレラ2 (type964)」

    ポルシェに限った話ではないが、確かに、高級車のディーラーに入るのには勇気がいる

では、なぜポルシェで、しかも964型911だったのか。

「空冷エンジンのポルシェには、そのクルマでしか味わえない魅力があります。そこを知ってもらいたいんです。今のクルマって、ほとんどが水冷エンジンなんですが、それとは違った魅力が当然、あります。例えば音や振動ですね。乗ってもらえば分かると思いますよ」

今回は筆者が20代という設定で「カレシェア」を体験させてもらった。

  • ポルシェ「911 カレラ2 (type964)」

    知り合いの自動車ライターに聞いてみたところ、「964型911」はクラシックなポルシェらしいデザインが特徴で、空冷エンジンを搭載していることもあり、カーマニアにとっては憧れの1台だという。状態にもよるが、買えばかなり高いクルマだ

  • ポルシェ「911 カレラ2 (type964)」

    実際のところ、筆者は20代ではないのだが、取材ということで特別に、事前レクチャーから乗車、運転までの流れを体験させてもらった

料金を3割引きとするには、クルマに乗る前にレクチャーを受ける必要があるのだが、その内容は実にあっさりしたものだった。聞かれたのは「日頃、運転してますか?」「どのくらいの頻度ですか?」「乗っているクルマは?」といった感じのこと。これで3割引きかと思うと拍子抜けがしたほどだ。ちなみに、レクチャーを担当する齊藤さんは以前、自動車教習所で教官をしていたという経歴の持ち主。その時に得た知見を現職でも活用しているという。

名車「911 カレラ2 (type964)」に試乗!

レンタルするのは貴重なポルシェだし、なにより、左ハンドルであることに対しては、かなり高い心理的ハードルを感じる。そのあたりについて齊藤さんは「そのハードルを超えることは、レクチャーの中で最も大事にしている部分です。左ハンドルに抵抗を持つ方は、絶対にいるはずですから。ただ、ポイントさえ分かれば、誰でも乗れるということを知ってもらいたいです」と話す。

齊藤さんによれば、964型911は左ハンドルが初めてのドライバーでも運転しやすいクルマだという。その理由は、コンパクトなボディサイズと車幅感覚の把握しやすいクルマのカタチにある。

「ポルシェの場合、横幅をつかみやすいのをご存知ですか? フェンダーが運転席から見えるので、車幅を把握しやすいんです」

  • ポルシェ「911 カレラ2 (type964)」

    前輪をカバーする部分を「フェンダー」というが、このクルマはフェンダーが盛り上がっているので、運転席から見た時、左右のタイヤがどのあたりにあるかを把握しやすい

乗るクルマは年式が古いので、気をつけるべき部分もあるという。齊藤さんのレクチャーはこんな感じだ。

「年式がそれなりに古いので、アクセルとブレーキの感覚は今のクルマと少し違います。そこは、気を付けてもらいたい部分です。例えばブレーキは、ある程度、しっかり踏んでいただかないと効かなかったりしますので。なので、最初は前のクルマとの車間距離を長めに取ってください」

そんなアドバイスをもらって、いよいよポルシェに乗り込んだ。最近のクルマはボタン1つでエンジンがかかるので、キーを差し込んで回すという動作も新鮮だ。

「ブオーン!」。月並みな表現だが、こう書くよりほか仕方がないような、しびれる音を立てつつエンジンが回りだす。「静けさ」を売りにするクルマが増える中で、こういったエンジン音を堪能できるのも嬉しいポイントだ。蒸し暑い日でもあり、窓を開けたまま走り出したのだが、停車した時に車内に流れ込むガソリンの匂いも、いかにもという感じがして気分が高まる。

  • ポルシェ「911 カレラ2 (type964)」

    レンタカーにはカーナビ、ETC、エアバッグ、保険などが付いているので、安心して遠出できる。今回の試乗では齊藤さんに同乗してもらったが、実際にレンタカーを利用する場合でも、不安であればスタッフの方に同上してもらって、拠点の近場を一回りさせてもらえるそうだ

運転してみると、確かにブレーキペダルは固いし、ハンドルも重い。スポーツカーならではの点なのかもしれないが、道路のデコボコも身体に伝わってくる。ただ、クルマ自体の動きは軽やかだ。いかにもクルマを操縦しているという感じがする。車線変更などをうまくこなせた時には、自分の運転スキルが上達したかのような、達成感や満足感にも似た感覚を味わえる。

「今のクルマって、いかに静かに、振動なく走るかが注目されがちですよね。それはそれでいいんですけど、“こういう感覚”は“こういうクルマ”でしか味わえないんじゃないかと思いますよ。もともと、持っているポテンシャルの高いクルマですしね」

  • ポルシェ「911 カレラ2 (type964)」

    このクルマは4人乗りだが、後部座席は見た感じ「おまけ」のような印象。「大人4人で乗る場合、後部座席の人は相当、気合を入れる必要があります(笑)。オススメは1人か2人ですね」と齊藤さんは話していた

それでは、最も心配だった左ハンドルの操作はどうだったのか。一言でいえば、「案ずるより産むが易し」だった。

これまで、2度ほど左ハンドルのクルマを運転した経験があるのだが、その際に気になったのは、クルマの右側が、道路のどのあたりまで達しているかが分かりにくい、ということだった。右ハンドルのクルマであれば、右側の車線が身体の近くにあり、確実に認識できるので、右側(時には対向車線)にはみ出す心配はあまり感じない。左ハンドルでは感覚が違うので、そこが心配になる。

また、左ハンドルを運転する場合は、ひょっとすると自分だけかもしれないが、クルマが勝手に右側に寄って行ってしまう、ということがある。これはおそらく、右ハンドルに乗っている時の道路と自分(ドライバー)の位置関係が頭にも身体にも染み付いているので、左ハンドルのクルマを運転していても、その位置関係に戻ろうとするからではないかと思う。そのあたりも、左ハンドルを運転する際に不安を感じるポイントだ。

ただ、そういった不安も、964型911であれば、あまり意識せずに済むかもしれない。実際に乗ってみると、ボディサイズ(特に横幅)は本当にコンパクトだし、右側のフェンダーを目安にしておけば、まず、想定外に右側に寄り過ぎるということはなさそうな感じがした。試乗中、道路の左側に路上駐車しているクルマを避けるため、右側にふくらまざるを得ないシーンにも遭遇したが、その際にも的確な判断ができた。初めて乗った左ハンドルのクルマであるにも関わらずだ。

  • ポルシェ「911 カレラ2 (type964)」

    空冷エンジンは空気でエンジンを冷やす仕組みであるため、エンジンをかけて止まったままの状態で長時間が過ぎるとオーバーヒートを起こす。「そこまでデリケートではないので、何時間も(エンジンをかけたままの停止状態が)続かなければ大丈夫です。空冷エンジンとの付き合い方というのもありますので、そういったクルマを手に入れたい場合は、このクルマで体験してみてから、というのもアリではないでしょうか」と齊藤さん

もっと乗っていたかったのだが、ガレージカレントの周辺を一回りして試乗は終了した。そんなにクルマの運転に習熟しているわけではない筆者でも、あまり不安を感じずに左ハンドルを操作できたし、できれば高速道路も走ってみたいと感じたというのが正直な感想だ。とにかく、高性能なクルマを“操縦”するのは痛快だった。このクルマに乗っていれば、カーマニアからは「話の分かる奴だ」という視線を集められるだろうし、クルマに詳しくない友達や彼女の前に登場したとしても、おそらく話が盛り上がるのではないだろうか。写真を撮っても“ばえる”に違いない。

  • ポルシェ「911 カレラ2 (type964)」

    レンタカーを利用してみて、964型911が欲しくなったとしても、このクルマはレンタカー専用なので売ってはもらえない。ただ、似たようなクルマの有無を含め、クルマ選びについてはいろいろと相談に乗ってもらえるそうだ

カレント自動車がこのレンタカーサービスを始めたのは2019年6月12日。取材したのは7月12日だったが、その時点までに1人の利用があったという。今後の予約も入っているそうだ。

「ポルシェもそうですが、フェラーリやランボルギーニなども含め、『スポーツカーって、自分には関係ない』と感じている人が、結構いると思うんです。でも、敷居は高くないし、誰でも運転できるということを身をもって分かってもらえれば、クルマ好きも増えるのではないでしょうか」というのが齊藤さんの考え。確かに、クルマには、乗らなければ知ることができない魅力があるというのは今回、まさに身をもって学んだことだ。

カレント自動車が扱っているような輸入車は、単なる移動手段としてクルマを買いたい人の購入検討リストには、おそらく入らない。ターゲットカスタマーは間違いなく、「クルマ好き」ということになるだろう。このレンタカーサービスは、同社にとって、将来の顧客(候補)を増やすための施策でもあるようだ。

自動車は電動化して、自動化していく流れだ。そうなれば、クルマは所有するものというよりも、自律走行しているものをスマホで呼び出して、必要な時にだけ使うものになってしまうかもしれない。そうなれば、クルマを買おうという人は、かなり減るに違いない。でも、例えばポルシェが好きな人は、あるいはポルシェを「道具」ではなく「好きなもの」に分類している人は、そういう時代がやってきたとしても、やっぱりポルシェを買うのではないだろうか。

今のうちに、いいクルマに乗る機会を増やして、いいクルマのファンを増やしておくことは、輸入車を取り扱うカレント自動車のような会社にとって、潜在的な顧客を増やすためにも大事な施策なのだ。

  • ポルシェ「911 カレラ2 (type964)」
  • ポルシェ「911 カレラ2 (type964)」
  • ポルシェ「911 カレラ2 (type964)」
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  • ポルシェ「911 カレラ2 (type964)」
  • ポルシェ「911 カレラ2 (type964)」
  • ポルシェ「911 カレラ RS(type964)」
  • 右端はガレージカレントに展示されていたポルシェ「911 カレラ RS(type964)」というクルマ。値段は2,100万円(税込み)としてあった