マイナーチェンジした「シビック タイプR」の高性能バージョン「リミテッドエディション」は、細部にまでホンダのこだわりが詰まったクルマだ。中でも注目したいのは、BBSと共同開発した専用のホイール。何がすごいのか、担当者に話を聞いてきた。

  • ホンダの「シビック タイプR リミテッドエディション」

    マイナーチェンジした「シビック タイプR」の高性能バージョン「リミテッドエディション」。注目は足元だ

「力」と「粘り」を持つ専用ホイール

シビック タイプRの高性能バージョン「リミテッドエディション」は、軽さとスポーツフィールを研ぎ澄ましたモデルとして、2020年秋に1,000台限定(日本向けは200台)で発売となる。そのキモとなるのが、車両のバネ下重量を10キロも軽量化させることに成功した専用の鍛造ホイールだ。軽さと速さを“削り出した”というこのホイールは、ホンダとホイール専門メーカーのBBSが共同開発したものである。

そもそも論だが、ホイールの性能は当然ながら、作り方によって変わる。「鋳造」(casting)で作るのか、「鍛造」(forging)で作るのかによって、軽さや強度が違ってくるのだ。

  • ホンダ「シビック タイプR」のホイール

    左が「シビック タイプR」が装着する鋳造ホイール、右が「シビック タイプR リミテッドエディション」がはく鍛造ホイール

鋳造では、溶けたアルミを型に流し込む。その際、金属組織の内部には空間ができてしまうので、相対的に強度は低下する。一方の鍛造で作ると、金属は鋳造の1/4という微細な金属組織の集合体に生まれ変わる。その代表例は日本刀だ。

鍛造ホイールも日本刀と同じく、美しく、薄く、強く、そしてしなるという特性を持っている。つまりは見栄えが良く、力と粘りを兼ね備えたホイールとなるのだ。さらに、リム厚は現行より25%も薄くなり、ホンダ史上最薄にすることができたという。

  • ホンダの「シビック タイプR リミテッドエディション」

    日本刀のように金属を圧縮し、鍛え上げることで生まれた「リミテッドエディション」のホイール

そんな専用鍛造ホイールの開発に携わったBBSジャパン 技術部の村上貴志部長とホンダ 第11技術開発室 開発戦略ブロックの竹内治研究員に話を聞いてみた。

初期、中期、最終の3モデルを制作

専用ホイールの開発は、単純な道のりではなかったそうだ。そのあたりについて、村上部長はこう語る。

「単純に強度と重量を求めるのであれば、すぐにある程度まではいけるんですけど、タイプRは『本物のクルマ』なので、狙っているところは更に上にあったんです。最終的に、そこに性能を落とし込むというところで、ホンダさんとは手探り状態で積み上げていきました。ホイールはクルマに装着してみてナンボですから、性能的に狙ったところが出る、出ないというのがありました」

ホンダ側の動きはどうだったのか。竹内研究員の話は以下の通りだ。

「最初はホンダのデザイン室でシビック タイプR用鍛造ホイールのイメージを3D化し、できたのが11.37キロの初期モデルです。それをベースにBBSさんが強度や性能の解析を行うと、デザインと実際に力がかかった時の形状にギャップがあり、NGという結果でした。散々議論を重ねた上で、目一杯軽くするとともに、とにかく強度を確保したのが、最軽量の10.56キロという中期モデルです。BBSで試作品を作り、独ニュルブルクリンクに持ち込んでテストを行うと、ドライバーのフィーリングという面で、『もうちょっとステアリングを切り込んでいきたいんだけれども、これ以上切っていいのかどうか、感覚で感じ取り難い』というフィードバックがありました」

その時のドライバーは、タイプR開発責任者の柿沼秀樹氏だったという。竹内研究員は続ける。

「私も助手席に乗っていましたが、それ(フィードバックの内容)が手に取るように分かりました。力の伝わり方という部分で、スポーク部の肉盛りなどのチューニングを現地で行い、更にテストを重ねると、ドライバーが安心して舵を入れられることが、結果的にクルマの挙動にも現れるということが分かりました。クルマの向きの変わり方が全く変わってくるのが、助手席でも体感できたのです。ウェイトにして1本200グラムちょっとという単位ですが、全然違ってきます」

  • ホンダの「シビック タイプR リミテッドエディション」

    「シビック タイプR リミテッドエディション」と開発責任者の柿沼氏

そうしてでき上がったのが、最終モデルである10.79キロ仕様だ。このホイールはニュルブルクリンクだけでなく、鈴鹿サーキットでも十分な性能を証明してみせたという。その証として、リム部には「BBS/FORGED」の文字が切削加工してある。

  • ホンダの「シビック タイプR リミテッドエディション」

    リムには「BBS/FORGED」の刻印が

「初期モデルから最終モデルに至るまでの6カ月ちょっとの開発期間は、とても密度が濃かったですね」と笑う村上さんは、「通常、こうしたホイールの製作工程は、メールや電話、データのやり取り程度で終わるのですが、会社(BBSの所在地は富山県)からメーカーさん(栃木のホンダ)まで、あれほど足繁く通うことになるとは思いませんでしたし、ここまで面直に話し込むのは初めての経験でした」と回想する。

「ニュルブルクリンク北コースのFF量産車最速のラップタイムは、2019年4月にライバルのルノー(メガーヌ R.S. トロフィーR)が獲得しています。ホンダのお膝元である鈴鹿サーキットのラップタイムも、同様にルノーが持っています。これは本当に悔しいところです」とした竹内さん。専用鍛造ホイールと防音材の削ぎ落としにより、ノーマル比で23キロも軽くなったマイチェン版シビック タイプR リミテッドエディションは、サーキットのラップタイムを削り取るためのトップガンだ。是非、最速の座を取り戻してほしい。

著者情報:原アキラ(ハラ・アキラ)

1983年、某通信社写真部に入社。カメラマン、デスクを経験後、デジタル部門で自動車を担当。週1本、年間50本の試乗記を約5年間執筆。現在フリーで各メディアに記事を発表中。試乗会、発表会に関わらず、自ら写真を撮影することを信条とする。