■一日乗車券のデジタル化も

誰もがスマートフォンを持つ時代となり、公共交通機関においてもアプリの活用が大きな課題となっている。アプリ上で乗車券の購入とクレジットカード決済が可能なサービスは、ヨーロッパにおいてすでに一般化している。24時間有効といった、利用時間に制限がある乗車券では、購入時点から「カウントダウン」が始まるなど、デジタルならではのしくみを採り入れた例もある。

  • アプリで購入した24時間乗車券の例。デンマークのコペンハーゲン市のもので、有効時間が上部にカウントダウン方式で表示される

広島電鉄も日本電気(NEC)と共同で、年間約20万枚が発売されている「電車一日乗車券」などのデジタル化に取り組む。2020年3月のサービス開始が予定されている。

広島電鉄の場合、ウェブブラウザによるサービスとされ、アプリのダウンロードは不要。このモバイル乗車券サービスを利用すれば、「電車一日乗車券」や「一日乗車乗船券」(宮島への航路を含む)などがインターネット経由で購入可能となる。これまで、紙の乗車券では設定が難しかった24時間券(購入から24時間利用可能)の発売もできるようになり、英語をはじめ外国語にも対応する。

このデジタル化によって、乗車券の購入がいつでもどこでも可能となり、広島駅前などの窓口での混雑が軽減される。電車内で購入する場合も、運転士や車掌のところまで行かなくて済む。なお、一日乗車券や24時間券をアプリ経由で購入できるモバイル乗車券自体は、長崎市内の電車である長崎電気軌道に先例がある。

将来、広島電鉄では、第2段階として検索機能や予約購入機能の拡充を図り、旅行計画から決済までスマートフォン上からワンストップで行える「MaaS」への発展をもくろんでいる。今回の乗車券のデジタル化は、その第1段階と位置づけられている。

■さらに将来的な展開を期待

昨年11月下旬、筆者は実際に広島へ出向き、信用乗車方式とICカード利用による途中下車の様子を垣間見てきた。信用乗車方式のほうは、2018年5月10日に導入されてから約1年半が経過しているとあって、1000形に限定されているとはいえ、すでに利用者の間で定着しているように見受けられた。車内外や電停などでのPRも行き届いている。むしろ、8月6日の原爆記念日などに広島を訪れる遠来の利用者への周知が課題であると、改めて感じている。

途中下車のほうは、まだ2カ月ほどしか経過していなかった時点とはいえ、「乗降りのときには、とにかくカードリーダーにタッチしておけばよい」という意識で利用されていると思えた。当たり前だが、一般利用客は用件に合わせて電車を乗降りするわけであり、必要に応じて必要な運賃を支払うスタンスである。結果的に安上がりになればよい。

デジタル乗車券は、乗降時ではなく購入時にメリットがある施策だ。発売場所を気にせず、なんなら広島へ向かう新幹線の車内等でも「電車一日乗車券」などを手に入れられるのは大きい。市内電車の利用客増加につなげたいところだろう。

ただし、これも従来の紙の一日乗車券などと同じく、乗降りする際に運転士・車掌へ提示する必要がある。信用乗車方式の広まりに合わせて、FeliCa(おサイフケータイ)技術と結びつけ、ICカードリーダーへのタッチで利用できるようになれば、乗降りできる扉の数も増えて、なおよい。

  • ロンドンの公共交通機関で利用できるICカード「オイスターカード」。一日の利用額が一定金額を超えると、それ以上はチャージから引き落とされない制度が導入されている

さらに、将来的には「一日乗車券」という考え方すら排し、「途中下車」と結びつけ、ICカードで同じ日のうちに、電車やバスを一定回数以上利用すれば、一定額以上の引き去りを行わないやり方にできないものだろうか。そうなると、乗車券の購入の手間すら無用になる。

たとえば、現在の「電車一日乗車券」は600円。1回の乗車で運賃190円だから、4回目の乗車からは乗れば乗るほど得になる。そこで、1~3回目は190円ずつICカードから引き去り、4回目は30円(600円から190円×3回分を引いた額)だけ引き去り、5回目以降は引き去り額を0円とすれば、「電車一日乗車券」と負担額は同じになる。そうすることで、利用者としても、「電車に4回以上乗るだろうか」「一日乗車券を買ったほうがいいだろうか」と、電車に乗る前に思案する必要もなくなるだろう。

筆者プロフィール: 土屋武之

1965年、大阪府豊中市生まれ。鉄道員だった祖父、伯父の影響や、阪急電鉄の線路近くに住んだ経験などから、幼少時より鉄道に興味を抱く。大阪大学では演劇学を専攻し劇作家・評論家の山崎正和氏に師事。芸術や評論を学ぶ。出版社勤務を経て1997年にフリーライターとして独立。2004年頃から鉄道を専門とするようになり、社会派鉄道雑誌「鉄道ジャーナル」のメイン記事を毎号担当するなど、社会の公器としての鉄道を幅広く見つめ続けている。著書は『鉄道員になるには』(ぺりかん社)、『まるまる大阪環状線めぐり』(交通新聞社)、『新きっぷのルール ハンドブック』(実業之日本社)、『JR私鉄全線 地図でよくわかる 鉄道大百科』(JTBパブリッシング)、『ここがすごい! 東京メトロ - 実感できる驚きポイント』(交通新聞社)など。