出演俳優の不祥事で「2週間放送日が延期される」という危機的状況でスタートした大河ドラマ『麒麟がくる』(NHK)の評判がおおむね好評だ。初回視聴率が19.1%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)を記録したほか、ネット上の声も「やっぱり戦国大河は面白い」「いきなり戦いのシーンがあってしびれた」などの好意的なものが大半を占めている。

多くの記事が飛び交う中で、最も目立っていたのは帰蝶を演じる川口春奈に対するもの。昨年11月の沢尻エリカ降板騒動を受けての代役就任で時の人となり、「短期間での撮り直し」「時代劇未経験」という難しさもあって、主演の長谷川博己と並ぶ重要人物となっている。

初回の出番は、終了直前の「馬を飛ばして父・斎藤道三(本木雅弘)のいる城へ向かい、どすどすと音を立てて歩く」「道三に『父上が戦をはじめるという噂があり、馬を飛ばして帰ってまいりました。御陣にお加えいただきまする』と申し出る」「道三に『ワシは嫁に出した娘に加勢を頼むほど落ちぶれてはおらんわ』と言われ、『父上!』とすがる」「明智光安(西村まさ彦)に『明智の叔父上、十兵衛(長谷川博己)は息災でいますか?』と声をかける」というシーンのみ。

わずか1分程度にも関わらず、「違和感なかった」「代役とは思えない」という肯定から、「頑張って!」「次回の登場も楽しみにしてるよ」という応援まで、そのほとんどはポジティブなものだった。

川口は肯定や応援の声を受けて、どんな帰蝶を演じていくのか? これまで彼女が歩んできた女優人生を踏まえながら、そのポイントと可能性にクローズアップしていく。

  • 川口春奈

    NHK大河ドラマ『麒麟がくる』で帰蝶(濃姫)を演じる川口春奈

■早くも主役と同等レベルの好感度を獲得

川口が演じた初回の帰蝶は、わずか1分程度の出番ながら、「みずみずしく、気品がある」一方で「凛々しく、勝ち気」というギャップを感じさせるキャラクターを視聴者に印象づけた。「どう演じるかより、どう振る舞うか」を重視したような度胸あふれる役作りで、「時代劇未経験」という不安を見事に打ち消していたのではないか。

実際、国のために男たちの戦に加わろうとする帰蝶の姿を川口と重ね合わせていた視聴者は多かったはずだ。時代劇未経験である上に、撮影スケールの大きい大河ドラマなのに、放送までの時間がない。しかも、先輩俳優ばかりの中で「自分だけが初めてそのシーンを演じる」という異様な状況下での撮り直しが続く。さらに、「川口春奈がどんな演技をするのか」という世間の注目度とプレッシャーはとてつもなく大きい。

だからこそ、火中の栗を拾うように挑む川口の心意気は視聴者の好感度に直結し、ひいては興味本位の視線も含めて視聴率アップにも貢献しただろう。もともと川口は長崎の五島列島・福江島で生まれ育った天真爛漫さで視聴者とスポンサー両者の好感度が高く、数多くのCMに出演してきた。つまり川口は『麒麟がくる』への緊急出演によって、2020年1月の時点で「今最も日本人の注目を集め、好感度が高い女優」と言っても過言ではない。

「川口は今回の起用で大きなチャンスをつかんだ」という見方もあるが、これまでの女優人生は順風満帆と言えるものではなかった。2009年の月9ドラマ『東京DOGS』(フジテレビ系)で女優デビューし、いきなり小栗旬演じる主人公の妹役という抜てき。その後、『GTO』(フジ系)、『金田一少年の事件簿』(日本テレビ系)などに出演したあと、2013年に『夫のカノジョ』(TBS系)でゴールデンタイム連ドラ初主演を飾ったものの、5話が3.0%という記録的低視聴率となり、バッシングを受けてしまった。

さらに助演として経験を重ねたあとにヒロインとして挑んだ2017年の『愛してたって、秘密はある。』(日テレ系)は、結末の強引さや「続きはHuluで」の戦略が裏目に出て、川口にも批判の声が浴びせられる事態に。どちらも演者の一人である川口の責任は少ないはずだが、一方で「多くの作品に出ているのにヒット作への出演がない」ことを揶揄する声があったのも事実だ。

『麒麟がくる』への出演が、そんな不運の女優人生を一変させるとしたら痛快ではないか。

■連続起用後、朝ドラに抜てきするNHK

帰蝶は初回の時点で土岐頼純(矢野聖人)と政略結婚しているが、夫には若くして先立たれ、再び父・道三の命に従い、織田信長(染谷翔太)のもとに嫁ぐ。

国や父のために2度の政略結婚を余儀なくされたときの心情、今作では「ピュアなうつけもの」として描かれる信長との向き合い方、幼なじみの光秀に対する甘酸っぱくも切ない恋心。これらを川口がどう演じていくのか? 昨秋に10年を超えた女優としての経験値を人々に見せつけるチャンスではないか。

最後に1つふれておきたいのは、今後の可能性。NHKは起用した女優を続けてキャスティングする傾向があり、近年ではその先に「朝ドラヒロインへの抜てき」が待っていることも多い。

実際、NHKで『龍馬伝』『おひさま』『真夜中のパン屋さん』『今夜は心だけ抱いて』『花子とアン』に出演した土屋太鳳は朝ドラ『まれ』のヒロインに、『書店員ミチルの身の上話』『植物男子ベランダー』『おそろし~三島屋変調百物語』に出演した波瑠は朝ドラ『あさが来た』のヒロインに、『ごちそうさん』『軍師官兵衛』に出演した高畑充希は朝ドラ『とと姉ちゃん』のヒロインに、『八重の桜』『プラトニック』『真田丸』に出演した永野芽郁は朝ドラ『半分、青い。』のヒロインに、『とと姉ちゃん』『いだてん~東京オリムピック噺~』に出演した杉咲花は今秋放送の朝ドラ『おちょやん』のヒロインに起用された。

川口は来月10日に25歳の誕生日を迎える。この若さで前述した不運を乗り越えた上に、大河ドラマでの演技が認められ、幅広い世代からの人気が上積みされたら……本人がかつて「夢」と語っていた朝ドラヒロインとなる可能性は十分あるはずだ。

著者:木村隆志(きむら たかし)

コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組にも出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。