19日夜、昨年11月の沢尻エリカ降板騒動で初回放送日が2週間後倒しされていた大河ドラマ『麒麟がくる』(NHK)がいよいよスタートする。

短期間での代役決定と撮り直しを余儀なくされ、作品名や内容より代役・川口春奈のほうが話題になった感があるだけに、放送前に作品のポイントを挙げておきたい。『麒麟がくる』は3つの意味で、2020年代の大河ドラマを左右する作品になりそうなのだ。

  • 長谷川博己

    『麒麟がくる』で明智光秀を演じる長谷川博己

■英傑の若々しい姿と成功ストーリー

2020年代の幕開けであり、オリンピックイヤーという記念すべき年の大河ドラマに選ばれたのは、これまでの58作中、約4割で描かれるなど、最も人気の高い戦国時代の物語。しかも、「従来とはまったく異なる新解釈で英雄たちを描く」と言い切っているだけに、『麒麟がくる』が成功を収めたら、“戦国時代+新解釈”という必勝パターンが定着するのではないか。

戦国時代の物語である以上、合戦や三英傑の絡むシーンが見どころとなるのは当然だろう。しかし、『麒麟がくる』で最初の見どころとなるのは、「史料がほとんどない」明智光秀の20代であり、のちに英傑となる人物たちの若々しい姿を絡めた戦国時代の幕開け。室町時代の終焉で人々の生活や価値観が揺らぎ、新たな形を模索していくさなかであり、その意味では平成が終わり令和に突入したばかりの現在にふさわしい作品なのかもしれない。

明智光秀、織田信長、豊臣秀吉ら戦国の英傑たちの若かりし日々が描かれる序盤は、「彼らの人格がいかにして形成され、いかにして新たな時代を切り拓き、いかにして登り詰めていくか」を描き出す脚本の力が問われる。

とりわけ光秀は、「私怨で主君の織田信長を討った謀反人」というダークなイメージを一掃させる魅力的な人物として描かれるという。視聴者がこれまでのダークなイメージを一話一話上書きしていく楽しさを味わえること。これが1つ目のポイントとなる。

はたしてどこまで明智光秀のイメージは上書きされ、上がっていくのか? 脚本を手がけるのは1991年の大河ドラマ『太平記』のほか、重厚なヒューマンストーリーに定評のある74歳の大ベテラン・池端俊策だけに期待していいだろう。

  • 脚本・池端俊策氏(右)と握手を交わす長谷川

■長谷川のイメージも上書きする雄々しい姿

前述したように、『麒麟がくる』の成否を左右するのは、「視聴者が抱く光秀のイメージをどう上書きするか」にかかっている。その意味で主演の長谷川博己にかかる重責は限りなく大きい。

『麒麟がくる』の光秀は、身分が高いとは言えない美濃の明智家に生まれたものの、類いまれな勇猛果敢さと知力の持ち主。また、武士ながら「戦を避け、人の命を守りたい」と考える正義感にあふれた人柄が描かれていくという。

敵国のスパイになるなど、主君である斎藤道三の命令に従いながらも、悩み苦悩し、時に「言うべき」と思ったことは言う光秀は、どこかサラリーマンのようであり、実際に池端は「割と現代人の感覚に近い人物」とみなしている。時代や主君に振り回される中、無力さに打ちひしがれ、悔しさを乗り越えようともがくキャラクターは、視聴者としても共感しやすいのではないか。

タイトルにある“麒麟”は、「王が仁のある政治を行う時に必ず現れる」という聖なる獣のこと。応仁の乱後の荒廃した世を立て直し、飢えや戦乱の苦しみから救うべく麒麟をつれてくるのは主君の道三や信長なのか? 自問自答を重ねながらも行動を起こし、成長を重ねていく光秀を長谷川がどう演じるのか興味深い。

ここまで挙げた光秀の人物像は、これまで知的な役柄の多かった長谷川のイメージに近いものだが、『麒麟がくる』はそれだけで終わらない。光秀は知的なだけでなく、鬼気迫る表情で刀、弓、槍を駆使して戦う雄々しい姿を見せるなど、長谷川のイメージをも上書きするような可能性を秘めている。

長谷川は『セカンドバージン』(NHK)の金融エリート・鈴木行、『家政婦のミタ』(日本テレビ系)の阿須田家父親・阿須田恵一、『デート~恋とはどんなものかしら~』(フジテレビ系)の“高等遊民”・谷口巧、『夏目漱石の妻』(NHK)の夏目金之助(漱石)、『まんぷく』(NHK)の立花萬平など、主に主人公を輝かせるパートナーのような立場から視聴者の評価と信頼を獲得してきた。

『麒麟がくる』は、その演技力を武器に知名度をジワジワと上げて迎えた主演であり、長谷川がいよいよ日本中の人々に認められる国民的俳優の座に躍り出るかもしれない。これが2つ目のポイントだ。

■昨年の大ダメージと来年以降の不安

昨年の『いだてん~東京オリムピック噺~』は、作品としての質は一定の評価を得られた反面、記録的な低視聴率と出演者のスキャンダルで、世間から存在意義を問われるほど大河ドラマそのものに大ダメージを与えてしまった。

来年に目を向けると、放送が予定されている『青天を衝け』は、幕末から昭和という大河ドラマが苦手としている時代であり、さらに主人公の渋沢栄一を演じるのは、まだプライム帯の連ドラ主演経験のない若手俳優・吉沢亮と、未知数の部分が大きい。

再来年放送予定の『鎌倉殿の13人』もめったに描かれない平安末期から鎌倉前期の物語であり、脚本の三谷幸喜は史実からの飛躍やコメディパートが物議を醸すなど、どこか不安がつきまとう。

それだけに戦国時代を舞台にした王道の『麒麟がくる』は、「昨年の大ダメージを払拭する」という意味でも、「チャレンジングな2021年、2022年の作風を踏まえる」という意味でも、NHKにとっては「絶対に成功させておきたい 作品と言える。

『麒麟がくる』は、大河ドラマ、ひいてはNHKにとって、明智光秀と長谷川博己が両者にとって麒麟をつれてくる人物となれるのか。その視点が3つ目のポイントとなる。

最後にふれておきたいのは、4Kでの放送。前作『いだてん』が大河ドラマ初の4K放送だったが、当然ながら戦国時代の合戦を描くシーンはなし。その点、『麒麟がくる』は4Kらしい立体感と奥行きのある合戦の映像を存分に楽しませてくれるはずだ。

初回冒頭、光秀が育った場所を守るために盗賊たちと戦うシーンがあるという。大河ドラマでは珍しいダイナミックなワイヤーアクションと美しい田園風景……活劇としての大河ドラマを思う存分楽しめる一年間になるのではないか。

著者:木村隆志(きむら たかし)

コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組にも出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。