マネースクエア 市場調査室 チーフエコノミスト西田明弘氏が、投資についてお話します。今回は、2020年に「金融市場に起こりうる出来事」について取り上げます。

  • 2020年の金融市場に起こりうる「10サプライズ」(写真:マイナビニュース)

    2020年の金融市場に起こりうる「10サプライズ」とは?

2020年の金融市場に対して起こりうると筆者が考える10のサプライズを考察しました。筆者が想定する生起確率や市場への影響度合いと無関係で順不同です。

・米FRBが利上げに転換
・米景気後退、雇用創出マシンがストップ
・米中貿易交渉で包括合意、関税は全面撤回へ
・米大統領選はブティジェッジ氏が勝利
・米株高騰:ダウ 33,000 S&P 4,000
・米株暴落:ダウ 20,000 S&P 2,300
・英国、いつまでもブレグジットできず
・ECB、日銀が相次いでマイナス金利を解除
・安倍首相退陣、自民下野
・北朝鮮が再び舞台中央に

・米FRBが利上げに転換
2020年の米景気は再び加速。そして、失業率が一段と低下して賃金上昇に火がつきます。2019年中に3回の利下げを行ったFRBは「利上げ再開」のメッセージを発信し、2020年の年央に実際に利上げに踏み切ります。2019年7月の最初の利下げに際してパウエル議長が語った「(今回の利下げは、利上げ)サイクル中盤の調整」が正しかったことになります。

・米景気後退、雇用創出マシンがストップ
2018年夏以降の関税の応酬や世界景気減速の影響が、ボディーブローのように米景気に効いてきます。旺盛な個人消費を支えていた労働市場が変調をきたし、ついに雇用の伸びが止まります。米長短金利が再び逆転し、市場でリセッション(景気後退)入りが強く懸念されます。

・米中貿易交渉で包括合意、関税は全面撤回へ
トランプ大統領は11月3日の選挙をにらんで、自国景気の浮揚を切望する中国の習主席と急きょ会談し、トップ外交で貿易交渉の第2段階に合意。米国は中国から、知的財産権や技術移転、市場開放、為替操作に関して多くの譲歩を引き出します。引き換えに、米国は対中関税を全面撤回する工程表を提示。米中貿易摩擦が大きなネガティブ材料だった金融市場は多いに好感します。

・米大統領選はブティジェッジ氏が勝利
2月に始まる大統領予備選で、スタートダッシュに成功したサウスベンド市長のブティジェッジ氏が3月3日のスーパーチューズデーで民主党の指名を確実にします。そして、若さと政治刷新をアピールして勢いに乗り、11月の本選挙でトランプ大統領を破ります。トランプ大統領が罷免されていれば、破る相手はペンス大統領かもしれません。

・米株高騰:ダウ 33,000 S&P 4,000
・米株暴落:ダウ 20,000 S&P 2,300

2019年の上昇幅はNYダウが5,211ドル、S&P500が724ポイントだったので、2020年にNYダウが33,000ドル(あと4,462ドル)、S&P500が4.000(あと770ポイント)に達するのも夢物語ではないかもしれません。それには緩やかな経済成長(≒企業の増益)と緩和的な金融政策の継続が前提条件となりそうです。

一方で、NYダウ、S&P500とも、PER(株価収益率)などに基づけば、歴史的にみて割高になりつつあります。FRBの利上げ再開、米景気の失速、米中の対立激化などによって株価は大幅に調整するかもしれません。2019年末時点から30%調整すれば、NYダウは20,000ドル、S&P500は2,300まで下落します。

・英国、いつまでもブレグジットできず
英国が1月末までにEU(欧州連合)を離脱しても、2020年末までの移行期間中は英国とEUの従来の関係が継続します。その間に貿易協定など新しい関係で合意できなければ、移行期間を延長するかもしれません(ジョンソン英首相は延長を否定していますが)。英国とEUが合意できないまま延長が繰り返されれば、ブレグジット(英国のEU離脱)は名ばかりの「ブリノー(BRINO=Brexit In Name Only)」になるでしょう。

・ECB、日銀が相次いでマイナス金利を解除
2019年12月19日にスウェーデン中央銀行がマイナス金利の弊害を理由に政策金利を0%に引き上げました。ECB(欧州中央銀行)は金融政策の「戦略再評価」を予定しており、マイナス金利を解除する方向に踏み出します。そして、金融機関の経営悪化が深刻化するなか、日銀もECBに追随する形でマイナス金利を解除します。

・安倍首相退陣、自民下野
安倍首相は衆議院を解散して総選挙に踏み切ります。モリ・カケ・サクラ問題で傲岸不遜な態度を隠さない安倍政権に対して、有権者の答えはまさかの「ノー」。自民党は下野し、安倍首相は退陣します。2012年に始まったアベノミクスは、これをもって終止符を打たれます。もっとも、政権を担える野党は事実上存在せず、このサプライズが実現する可能性は非常に低そうです。

・北朝鮮が再び舞台中央に
2019年の地政学リスクとして、香港情勢やシリア情勢などが注目を集めました。2020年は北朝鮮が再び舞台中央に浮上するかもしれません。2018年6月以降に3度の米朝首脳会談が開催されましたが、目立った成果はありませんでした。米国が朝鮮半島の非核化に向けて制裁を強化し、北朝鮮がそれに強く反発するという展開もありえるでしょう。

ただし、1月2日に米国がイランのソレイマニ司令官を殺害したことで、中東で緊張が一気に高まりました。目先的には同地域でのテロや軍事行動、それらを受けた原油価格の高騰などに警戒する必要がありそうです。