マネースクエア 市場調査室 チーフエコノミスト西田明弘氏が、投資についてお話します。今回は、2020年の為替がどうなるのかについて取り上げます。

  • 2020年「為替相場」3つの展望

2020年は11月の米大統領選挙が最大の注目イベントでしょう。トランプ大統領の再選戦略が経済や金融政策を通して為替相場にも大きな影響を与えそうです。米ドル/円について以下の3つのシナリオを想定してみました。

(1)メインシナリオ「米ドルはレンジ相場」

米ドル/円は2019年のレンジ(105~115円)を中心に方向感の定まらない展開が続きます。トランプ大統領は、景気拡大の継続を選挙戦の最大のアピールポイントとすべく、過激な対外姿勢やFRB批判を控えます。

米景気は安定を取り戻し、加速しないまでも、低金利環境と雇用(=所得)の伸びに裏打ちされて緩やかな回復基調が続きます。FRBは2019年10月の利下げ以降は政策変更を見送り、一方で低インフレ環境のもとで利上げの根拠も乏しく、様子見姿勢を続けます。イールドカーブ(利回り曲線)は右肩上がりが継続し、景気の先行きに対する市場の安心感を醸成します。

米国と中国が通商交渉で第2段階の合意に向けて前進します。ただし、合意の履行状況を確認するため、既存の関税の撤回は一気にはなされず、時間をかけて段階的に実施されます。そのため、景気が一気に浮力を受ける状況にはなりません。

英国は1月末に秩序だったブレグジットを実現。ただ、12月末の移行期終了に向けてEU(欧州連合)との新しい関係構築のために交渉を継続。先行きの不透明感は払拭できず、ポンドはさほど強まりません。

BOE(英中銀)やECB、日銀も様子見を続けるなかで、金融政策見通しの変化が相場材料になる機会は限られるかもしれません。

(2)サブシナリオ「米ドルの下落」

関税の悪影響が残存するなか、個人消費を支えてきた労働市場に陰りがみえ始め、米景気の拡大ペースは鈍化します。FRBは景気後退を回避すべく、年央ごろに利下げを再開、複数回の利下げも視野に入ります。

11月の大統領選挙をにらんで、トランプ大統領は通商問題などで対外姿勢を強硬化させます。中国に対しては合意の履行状況や第2段階の交渉に不満を示し、欧州や日本、主要な貿易相手に対しても関税を連発。市場はリスク回避姿勢を強めます。トランプ政権は米ドル安を誘導あるいは容認する姿勢を鮮明にします。朝鮮半島、中国・香港、シリア・トルコなどの地政学リスクも高まるかもしれません。

イールドカーブが再逆転して景気の先行きに対する懸念が強まります。高値圏にある株価が急落するようであれば、大幅な米ドル安の可能性にも留意する必要が出て来ます。

秩序だったブレグジットが実現して、BOE(英中銀)は利上げを検討。ECBが追加緩和を見送る一方で、ドイツやフランスなどユーロ圏主要国は景気刺激のための財政出動に踏み切ります。それらの独自要因を背景に欧州通貨は米ドルに対して上昇。ただし、リスク回避が強い局面では、資源・新興国通貨は米ドルに対して下落します。

(3)サプライズシナリオ「米ドルの上昇」

トランプ大統領の対外強硬姿勢が成果を生み始めます。米中が通商交渉で第2段階以降も次々と合意し、関税は撤回されます。また、中国や、日本を含む貿易相手国は米国からの輸入を増加させます。米景気は旺盛な個人消費に加え、輸出にもけん引される形で回復基調を強めます。

トランプ大統領は、再選を確かなものにするため、歳出の増大や減税を訴え、民主党が過半数を握る下院議会でも一部の政策を通過させます。

労働需給のひっ迫により賃金上昇圧力が高まり、また、輸出の増加に伴って国内のモノの需給もひっ迫します。インフレ率がFRBの目標である2%を明確に上放れし、FRBは利下げ打ち止めから利上げへと金融政策を転換します。

FRBが利上げへと政策転換しても、追随する主要中銀は限られ、再び「金融政策」が米ドル高材料となります。米国の景気回復や財政赤字の拡大が長期金利を押し上げ、各国との長期金利差も米ドルを支援します。

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクエア 市場調査室 チーフエコノミスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所、三菱UFJモルガン・スタンレー証券などを経て、 2012年にマネースクウェア・ジャパン(現マネースクエア)入社。「投資家教育(アカデミア)」に力を入れている 同社のWEBサイトで多数のレポートを配信(一部は口座をお持ちの方限定で公開)する他、投資家のための動画配信サイト「M2TV」でマーケットを日々解説。