真っ黒なタレにコシのない麺、三重県伊勢市のご当地グルメ「伊勢うどん」をご存じだろうか。白くてやわらかい極太麺にたまり醤油をからめていただくスタイルは、全国津々浦々、さまざまなご当地うどんがあれど、その独特さにおいてピカ一。一見、どんな食感・味わいなのか想像もつかない一品だ。

そんな伊勢うどんのスタイルはどのように生まれたのか、そして、よりおいしくいただくための食べ方は? 伊勢うどん大使として活躍しているコラムニスト・石原壮一郎さんのセミナーで伊勢うどんの基本のキを学んできた。

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伊勢うどんはやさしさでできている……太くてやわらかい麺の秘密

最近ではメディアに取り上げられることも増え、全国区の知名度となりつつある伊勢うどん。三重県伊勢市周辺で食べられている郷土料理で、もともとは伊勢の農民がうどんに地味噌の上澄みをかけて食べていたのが始まりと言われているそうだ。

石原さんは「なぜ麺が太くてやわらかいのか」という伊勢うどん最大の疑問について、こう回答してくれた。

「お伊勢参りにやってきた参拝客の疲れた胃にやさしいように、腹持ちがよくて体があたたまるように、麺が太くやわらかくなったと言われています」。

参拝客へおもてなしの心をたっぷりとつめこんだ結果、このような独特のスタイルが生まれたというわけだ。

  • 石原壮一郎さん: 三重県松阪市生まれ、コラムニスト。故郷の名物である伊勢うどんを熱烈に応援し、2013年に「伊勢うどん大使」(三重県製麺協同組合&伊勢市麺類飲食業組合公認)に就任。著書に『食べるパワースポット 伊勢うどん全国制覇への道』などがある

ちなみに一見辛そうな真っ黒いタレは、たまり醤油と大量のダシをブレンドしたもので、驚くほどやさしい味わい。

麺をすすった瞬間、鼻に抜ける豊かなダシの香り、心身の疲れさえふんわりと包み込んでくれそうなモチモチ麺……実際に会場で伊勢うどんをいただいたのだが、食べるだけでほっとする、そんな癒やしのうどんだった。

ただ、よく言われる「伊勢うどんの麺はコシがない」という点については、伊勢うどん業界の人々から異論が上がっているという。

「伊勢うどんの麺を箸で持ってみると、切れることなく、しっかりと形を保っています。"コシ"がないのではなく"シン"がない。やわらかい"コシ"はあるのです」と石原さん。

石原さんによれば、伊勢うどんは小麦粉を練って切り、麺にしてから1時間ほどゆで、さらに食べる前に二度ゆでして、完成するとのこと。独特のふんわりとした食感を生み出すためには、多くの時間と手間がかけられているのだ。

さまざまなトッピングを楽しんで

そんな伊勢うどんのおいしい食べ方は以下が基本となっている(石原さん監修「伊勢うどん手帖」より)。

1.麺とタレとネギをしっかりからめる(7回かき混ぜると金運、8回で出会い運、9回で健康運に恵まれる……という説も!?)

2.口に運びながら、やわらかさに身をゆだねる(嬉しさのあまり勢いよくすすると、タレが服に飛ぶので注意)

3.食べ終わったら、しばし静かに余韻にひたる(残ったタレにお湯を入れる「うどん湯」や、ご飯を入れる「追い飯」もオツ)

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元々はネギしかのっていないシンプルな食べ方が主流だったが、今ではカキフライや卵焼き、さらには伊勢エビがのった伊勢うどんもあるとか。最近では、ミシュランガイド(『ミシュランガイド愛知・岐阜・三重 2019 特別版』のミシュランプレート)に掲載された伊勢うどん店も登場し、じわじわとバリエーション・勢力範囲が広がっているそう。

  • 左はミシュランガイドに掲載された山口屋さんの「いせじまん」。田舎あられと一緒に楽しむ。右は伊勢エビをのせた伊勢うどん

2019年も終盤、1年間頑張った自分を癒やしに、もしくはお伊勢参りの初詣に……伊勢の人々のやさしさがつまった伊勢うどんを食す旅へ、出掛けてみてはいかがだろうか。